MRT 【6034・マザ】東大医学部発ベンチャーが最高売上を更新 コロナ禍に現場目線の医療サービス提供
小川 智也社長

 医師をはじめ、医療従事者の非常勤人材紹介で知られるMRTが、ITを活用したシステム拡充で事業拡大を図っている。取締役の7割が現役医師の同社は、リアルな医療現場を熟知し、その課題解決のための様々なサービスを開発。スマホのビデオ通話機能を使った遠隔診療で地域医療を支援する他、新型コロナウイルス蔓延で高まる医療ニーズへの対応もスピード感を持って取り組んでいる。医師でもある小川智也社長に話を聞いた。

小川 智也社長
Profile◉おがわ・ともなり
1973年生まれ。2002年医師国家試験合格、04年大阪府立千里救命救急センター入職、国立病院機構大阪医療センター救命救急センターなどを経て、11年MRT入社。取締役事業本部長や取締役副社長等を歴任し、19年4月代表取締役社長に就任(現任)。

医師マッチング
累計130万件超

 同社は東京大学医学部附属病院の医師の互助組織を母体に、現在、医師7万人をはじめとする医療従事者26万人の登録会員を有するプラットフォームを構築している。

 2020年12月期の売上収益は前期比3.4%増の25億6200万円、営業利益は同205.2%増の2億6400万円。エリアを首都圏から関西、福岡などに拡大、また売上の9割を占める医師の人材事業が伸長し、過去最高の売上収益を達成した。

 主軸の「Gaikin(ガイキン)」は、単発の院外勤務(外勤)を希望する医師会員と、それを求める医療機関などをつなぐマッチングサービスだ。年間14万件、2000年のスタートから累計130万超と日本最大級の件数を扱う。医師の働き方は大学病院などの正式な所属の他に、空いた時間に複数の病院で働く「外勤」が一般的だ。それは臨床経験を積んだり、偏在する地域医療を守る意味があったりするが、患者の急変などで勤務シフトの変更が常態化する医業では「午後から呼吸器専門医師が欲しい」「夜直に胃カメラを扱える先生を」など、緊急かつ専門性の高い求人情報が日々飛び交っている。その中で相応しい医師を見極め、迅速に紹介するには知識と経験が必要で、模倣困難性が極めて高い事業だ。

「人材ビジネスは転職斡旋をイメージする方が多いのですが、当社は不足するドクターを仲間同士で融通し合うという考えによります。『他の病院に先生を引っ張る』ような、病院と敵対関係にはありません」(小川智也社長)

 医療従事者の登録料はなく、医療機関からマッチングごとに医師の報酬(時給×勤務時間)に対する手数料を得ている。

訪問診療の課題から
遠隔診療に

 16年、同社はオプティムと遠隔診療サービス「遠隔診療ポケットドクター(18年10月に「オンライン診療ポケットドクター」に名称変更)」を発表した。国はそれ以前から在宅医療を強化し、診療報酬などを改定したため、訪問診療が増加。しかし半径16キロというエリア設定が広く、移動で医師が疲弊する上、訪問に時間がかかって救急車に通報した方が良い例もあったという。

 同サービスはそうした問題解決のため、スマホのビデオ通話機能を使い、訪問せずとも健康相談や診療を行い、決済も可能としたものだ。

「オンライン診療では顔などはわかるのですが、医師は日常のバイタルデータも気になります。そこでオプティム社と連携し、血圧や心拍数などのヘルスケア機器の計測データも共有できるようにしました」(同氏)

 またコロナで「医療機関に行きづらい」という声に応じ、20年2月に同サービスを一定の期間無償提供することで700超の施設で導入。現在の費用は、最初の設定費と月額料金がかかる。

 同年6月に「MRTオンライン医療サポート」サービス提供開始。製薬会社と業務提携し、コロナウイルス抗体検出キットの陽性判定者に医師へのオンライン相談をサポートするサービスを実施した。

健康相談から診療まで
一気通貫

 20年11月、「Door.」というアプリケーション内の一部サービスとして「Door.into健康医療相談」の提供を開始した。前述の通り、同社はオンライン診療や相談を「ポケットドクター」で実施している。しかし、アプリが別々であるため診察と相談は一度に行えなかった。実際は『健康相談』で医師が話を聞くと、内容によっては即時に医師とビデオ通話を行う『受診勧奨』や『診察』に移るケースもあり、診察を行うには別のアプリを介する必要があった。

 同サービスは健康相談・受診勧奨・オンライン診療などが一つのアプリ内で実施可能とするもの。例えば、企業の福利厚生としてチャットやビデオ通話の健康相談から始め、症状により具体的な疾患名や対処法をアドバイスしたり、診療が必要な場合は同アプリ内の「受診する」ボタンから医療施設を検索し、診察まで受けたりといった使い方ができる。

 対応は、人材事業でネットワークされた医師などが行う。仮に相談者が希望した場合、男性医師から女性医師に移行する引き継ぎ機能も今後予定しているという。

「今、企業は社員の健康を守る努力義務があります。また、コロナによるテレワークで、会社側が社員の健康を心配する場合も多く、反響は非常に大きいです」(同氏)

 また、20年から自治体から受託しているコロナ自宅療養者に対するオンライン健康相談業務も、21年4月より「Door.into 健康医療相談」にて継続している。

「Door.」は同社の7万人に及ぶ医師と医療機関、相談者、患者などをつなぐ共有プラットフォームとして構築の途中にあり、「Door.into健康医療相談」はその第1弾。今後は医療・ヘルスケア事業のビッグデータをここに集約し、健康相談、オンライン診療から、人材紹介サービス、人材紹介サービスに紐づくBPO(業務委託)など様々なサービス提供に広げる。

「『Door.』のコンセプトは『医師とつながるドア』 。相談者は健康相談のキーでドアを開ければ健康相談の部屋に、医師は先生方のコミュニティーのドアを開ければコミュニケーションの場に入れます。これから2年間を目途に事業を連携・データ化し、それを分析・解析してマーケティングや新サービスの創出につなげたいと思います」(同氏)

(提供=青潮出版株式会社