SDGs(持続可能な開発目標)への企業の取り組みに対し、金融機関が融資を選別する動きが顕著になっています。SDGsに反する業種の融資を停止する一方、SDGsに積極的な企業には融資枠を用意する金融機関もあります。融資枠を確保するにはどのように取り組めばよいのでしょうか。国内と海外の融資事情を紹介します。

金融機関の融資ストップで倒産する企業が増えている

SDGsで融資を受ける。企業担当者が押さえておきたい国内外のSDGs融資事情
(画像=wladimir1804/stock.adobe.com)

いま世界では新型コロナウィルスの影響による業績悪化に加え、金融機関の融資ストップによって倒産する企業が続出しています。

アパレルのブルックス・ブラザーズ(米)、ローラアシュレイ(英)、百貨店のロード・アンド・テイラー(米)、高級食料品のフォション(仏)など、著名な企業も売上低迷と資金繰りの悪化で経営を断念。金融機関の支援が打ち切りになれば有名企業でももたないことが改めて浮き彫りになりました。

SDGsにも関連する石油業界の状況はさらに深刻です。コロナの影響が本格化した2020年4~6月の3ヵ月だけで米国の石油・ガス関連企業の経営破綻は29社に上っています。

大きな要因はコロナによる世界経済の停滞と、それに伴う原油価格の急落です。比較的新しい産業であるシェールガス企業は負債も多く、金融機関の融資がストップすればたちまち倒産に追い込まれるという事情があります。

SDGsで融資を受けるって?

融資を引き揚げる一方で、SDGsに取り組む企業に融資を優遇する動きもあります。SDGs融資とは、SDGsの達成に取り組んでいる法人の顧客に対し、金融機関が融資や私募債の発行など金融面でサポートすることをいいます。

例えば、東邦銀行の「ESG/SDGs貢献型融資」では、ESG/SDGsに取り組む法人または個人事業主に対し、通常より最大0.2%低い金利で融資します。3億円以内の資金を最長20年までの期間で返済することができるので、長期の事業計画を立てることが可能です。

SDGs融資で事業展開するはありなのか

SDGs融資で得た資金で事業展開することは、本業だけでなくサイドビジネスとして行うことも十分に可能です。例えば、土地持ちのスーパーマーケットオーナーが店舗に太陽光発電システムを導入し、生産した電気を使って駐車場にEVカー充電スタンドを設置するのも1つの方法です。

売電収入を得るだけでなく、利用客が充電の待ち時間に店舗で買い物をしてくれればダブルのメリットを享受することができます。ただし、EVカーの普及が進みどこのスーパーにも充電スタンドが置いてある時代になれば他店との差別化にならなくなります。先行して実施した店ほどメリットが大きいことを心得ておく必要があります。

それでは、海外と国内のSDGsに対する融資事情を見てみましょう。

SDGsと「ポジティブ・インパクト・ファイナンス原則」

「Sustainable Japan」の報道によると、世界の主要な金融機関19社は、2017年1月30日に国連環境計画金融イニシアチブと共同で「ポジティブ・インパクト・ファイナンス原則」を制定しました。フランスのBNPパリバ、ソシエテ・ジェネラルをはじめとする19社はSDGsに非常に関心が高い金融機関といわれています。

制定された「ポジティブ・インパクト・ファイナンス原則」はSDGsに貢献する投融資に関する共通言語を定めるために、金融機関、投資家、認証機関向けに策定されたものです。

4原則(定義、フレームワーク、透明性、アセスメント)のなかの「定義」では、SDGsの達成に向け社会、環境、経済のいずれか1つ以上に貢献し、マイナスになるインパクトを特定・緩和する投融資と定めています。

後述する融資事例をはじめ、世界各国で行われている「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の融資も上記原則に基づき行われています。

出典:Sustainable Japan

海外の金融機関はSDGsの融資基準が厳しい

海外の金融機関では投資した資金を引き揚げる「ダイベストメント」という手法を用いて、問題のある企業への新規融資を停止することがあります。特に厳しいのが化石燃料に関連している企業への融資です。「化石燃料ダイベストメント」「石炭ダイベストメント」などが代表的ですが、SDGsを推進するため、世界のエネルギー政策の流れは確実に再生可能エネルギーへ集約されつつあります。

石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料は今後縮小の一途を辿ることは確実です。欧米ではこのように将来確実に価値が毀損する資産を「座礁資産」と呼んでダイベストメントする動きが始まっているのです。

SDGs融資の潮流になる「グリーンボンド」

金融機関の融資が厳しくなるなか、世界のSDGsによる資金調達でとくに伸びているのが「グリーンボンド」です。グリーンボンドは、「企業や自治体等がグリーンプロジェクト(再生可能エネルギー事業、省エネ建築物の建築・改修、環境汚染の防止・管理など)に要する資金を調達するために発行する債券」(環境省見解)です。

「ビジネス+IT」の報道によると、調達した資金の用途は、2018年の世界の実績では太陽光発電など再生可能エネルギーが31%でトップとなっています。グリーンボンドの発行額も世界で1,685億米ドルに達するなど、SDGs資金調達における1つの潮流になりつつあります。

グリーンボンドを発行する企業は、金融機関をはじめとする投資家から資金を調達します。企業は調達した資金で環境改善事業を行い、償還期限がきたら利払いを含めて投資家に償還します。

通常の「銀行から融資を受ける→毎月返済する」から「銀行に債券を買ってもらう→利払いと償還を行う」というスタイルを変えた融資の形と考えることもできます。返済するのは同じですが、債券なら満期まで資金の流出がなく、じっくり事業に取り組めるというメリットがあります。

データ出典:ビジネス+IT

SDGsに積極的な企業ほど融資を受けやすい

一方、国内の金融機関もSDGsに積極的な企業に対する融資を優遇する動きを強めています。帝国データバンクのレビューによると、SDGsへの取り組みについて意味や重要性を理解して取り組んでいる企業をAグループ、意味がわからない企業をBグループとした場合、積極的に融資する金融機関の割合は次のようになります。

大企業はAが31.9%、Bが22.1%。中規模企業はAが49.5%、Bが35.2%。小規模企業(起業を含む)はAが55.3%、Bが37.6%といずれもSDGsに取り組んでいる企業への融資割合のほうが高い結果となっています。このデータからも、SDGsに積極的な企業ほど融資を受けやすい時代になったと解釈できます。

データ出典:帝国データバンク

日本が第1号の「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の事例

先に紹介した「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の第1号契約は日本で行われました。2019年3月に三井住友信託銀行が食用油大手の不二製油グループ本社に対して融資(貸付)という形態で行ったものです。

不二製油は東南アジアからパーム油(アブラヤシの実から作る油)を輸入していますが、2016年3月に「責任あるパーム油調達方針」を策定し、自社グループすべてのパーム油製品について、サプライチェーンを含めた森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロへのコミットメントを掲げています。

同社は上記のような事業活動がポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に合致しているか、格付け機関に第三者評価を依頼し、原則に合致しているとの評価を得ました。

その結果を基に、三井住友信託銀行が融資を実行したのです。融資の結果、不二製油はSDGsに基づく経営、三井住友信託銀行は SDGsに基づく融資活動をそれぞれ国内外にアピールし、企業イメージのアップにつなげています。

環境に配慮した企業が融資を受けられる「ECOローン」

グリーンボンドによる資金調達はある程度大きな規模の企業でないと難しい側面がありますが、中小企業でも可能なSDGs関連融資としては、三井住友銀行が環境に配慮した企業向けの融資として「ECOローン」という商品を提供しています。

この商品は環境に配慮した企業活動を行っている法人を支援するためのもので、通常の中小企業向け融資である「ビジネスセレクトローン」よりも貸出金利を引き下げる優遇策がとられています。

業務歴2年以上であれば融資の対象となります。ただし、ISO14001、エコアクション21等の環境認証を取得済みか、東京都の「地球温暖化対策報告書制度」に基づき、報告書を提出済みという条件を満たす必要があります。

SDGsに早めに取り組んで融資枠を確保しよう

SDGsで融資枠を確保するには早めに取り組むことが何より大事です。いくら有利な融資制度があったとしても、SDGsに対する取り組みを始めていなければ融資の対象にもなりません。

例えば、神奈川県が行っている「SDGsパートナー支援融資」は中小企業者(NPO法人を含む)に対して1.6~1.8%の低利で2,000~4,000万円まで融資していますが、利用するには「かながわSDGsパートナー」に登録する必要があります。

ここまで事例を交えて国内外のSDGs融資事情を見てきました。融資例にもあるように、ISO14001、エコアクション21等の認証取得や、地方自治体が行うパートナー制度に登録することが融資の条件になる場合があります。企業担当者としては、受けたい融資の申込条件をリサーチし、認証や登録を早めに済ませておくことが求められます。

(提供:Renergy Online



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