電力全面自由化によって登場した新電力が社会に浸透してきました。しかし、法人では今も大手電力会社との契約を続けている事業所も多いでしょう。新電力に切り替えることは本当に得なのでしょうか。法人が新電力に切り替えた場合のメリット・デメリットを考察します。

電力自由化の歴史

【法人版電力切り替え】結局のところ法人の電力切り替えは得なのか、損なのか
(画像=MonsterZtudio/stock.adobe.com)

電力自由化は2000年3月から段階的に行われてきました。最初の自由化は特別高圧区分といわれる電気で、大規模工場、大型商業施設、病院などが対象になっていました。その後2004年4月、2005年4月に自由化の領域が拡大され、中小ビルや中小規模工場向け電気の小売りが自由化されたという経緯があります。

それから11年後の2016年4月1日から電力小売業への参入が全面自由化され、個人を含むすべてのユーザーが電力会社や料金プランを自由に選択できるようになったのです。これが電力完全自由化までの流れです。

家庭用電力が自由化されたことによりガス会社、石油会社、通販会社など異業種からの参入が相次ぎ、ガスとのセット割引やポイント付与など各社独自のメリットをアピールして個人客を獲得しています。

法人契約するなら必須。今さら聞けないPPS

電気料金の法人契約をするならPPSの存在を知っておく必要があります。PPSとは、Power Producer and Supplierの略で特定規模電気事業者のことをいいます。

東京電力をはじめとする一般電気事業者(大手電力会社)とは別の電力会社を指し、2012年3月初旬に経済産業省によってPPSは「新電力」という現在の名称に改められました。2019年8月現在、600社以上が小売り電気事業者(新電力会社)として登録しています。そのうち、一般家庭向けに電気を販売している事業者が約200社あります。

PPSは発電設備を持っていない事業者が多いため、大手電力会社や新電力会社の発電事業者(発電部門)から供給を受けて稼働しています。発電事業者のなかには太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーによる電力を発電している会社もあり、再エネ電気の供給をとおしてSDGsに貢献できることで注目を集めています。

これまで大手電力会社のみと契約してきた企業はPPSへの切り替えを検討したことはないかもしれません。大手電力会社に比べると知名度が低いPPSですが、知っておくと得することもあります。

では、電力自由化は法人にとってどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

電力自由化が法人にもたらすメリット

法人が新電力に切り替える最大のメリットは、スケールメリットによる電気料金の大幅な削減です。家庭用電力でも節電にはなりますが、企業が使う電力量はケタが違います。節電できる金額も大きく、オフィスで年間数十万円、病院・福祉施設・商業施設等では数百万円、大きな工場であれば億単位の節電につながっている事例があります。

とくに工場はオートメーション機器を作動させるため、電気の使用量は莫大なものになります。工場を持つ企業は新電力への切り替えを検討する必要があります。

決算上も有利になります。電気料金の削減は売り上げの増加ではなく、直接純利益を増加させますので、1株利益が向上し、株主からの評価が高くなります。電力比較サイト「エネチェンジ」の調べでは、法人の平均電気代削減率は15.1%となっています。

事務処理が楽になる場合もあります。全国各地に工場や店舗がある企業であれば、これまで各地の大手電力会社と契約して別々の請求書が届いていたものが、新電力に一本化することで請求書を一通にまとめることが可能です。請求書をまとめられるか新電力に確認してみるとよいでしょう。

もう一点、電力完全自由化により自社が電力小売事業に参入することが可能になりました。事業多角化の一環として、自社の事業内容と相乗効果を見込めれば参入を検討するのも1つの戦略として考えられます。

電力自由化が法人にもたらすデメリット

一方、新電力に切り替える場合のデメリットとしては、電気料金プランが各社によって異なることが挙げられます。同じ電力会社でも複数の料金プランがあり、600社近い新電力の料金をすべてチェックするのは困難です。

加えて、新電力への参入事業者が増えると過当競争になる恐れがあり、現に2021年3月24日には有力な新電力会社だったF-Powerが倒産しています。選択肢が豊富であることが逆にデメリットになる場合もあるのです。

また、新電力と契約しても必ず安くなるとは限らない点にも注意が必要です。自由化の歴史にもあるように法人向けは2000年から段階的に自由化されていました。したがって、すでに安い電気料金になっている可能性もあります。

前出した「エネチェンジ」の調べでは一括見積もりした90%以上の企業が安くなるという結果が出ていますが、10%程度は逆に高くなる可能性があります。必ず見積もりをとって、削減になることを確認してから契約することが大事です。

契約期間によっては違約金が発生する場合があります。現在契約している会社との契約が一定期間経過していないと、解約違約金が発生し余分なコストがかかることになります。一度契約すると頻繁に事業者を変えることは難しいので、慎重な検討が必要です。

さらに、電力自由化で大手電力会社と新電力会社の営業競争が熾烈となり、企業にも法人営業からの勧誘が増えやすくなるというデメリットがあります。とくに代理店は歩合制の場合が多く、契約をとるために顧客の実情に合わない料金プランを提示してくる可能性があるので注意が必要です。

疑問を解決!新電力に関するQ&A

大手電力会社から新電力に切り替えを検討する場合、気になる点も多いでしょう。ここでは代表的な疑問についてQ&A方式で解決します。

Q.新電力会社に切り替えると停電が多くなりませんか?
A.いいえ、停電が増えることはありません。新電力の送配電網は大手電力会社と同じものを使いますので、電気の品質や信頼性は変わりません。

Q.万が一、契約している新電力会社が倒産した場合はどうなるのでしょうか?
A.一般送配電事業者には最終的に電気を供給する義務がありますので、倒産した新電力会社に代わって電気を供給します。その後新たに別の事業者と契約することができます。

Q.切り替えに工事は必要ですか?
A.基本的に工事は必要ありません。ただし、スマートメーター(デジタル式電気量メーター)を利用していない場合は切り替え工事が必要ですが、工事は簡単なものです。

Q.切り替え手続きはどのように行うのですか?
A.必要な書類に記入・捺印するだけで、それ以外のやりとりはすべて契約する新電力会社が行います。切り替えに関する手間や料金はかかりません。

Q.テナントビルに入居している場合、切り替えはできますか?
A.ケースによって異なります。ビルオーナーから請求書が来ている場合は一括して契約しているため切り替えることはできませんが、電力会社から直接請求書が来ている場合はテナントが個別に契約できます。

電気料金は今後も長期上昇が見込まれています。法人の電力切り替えが得か損かは現在利用している電気料金との比較によって変わります。

ただ、全体的には電気料金を削減できている事例が多いことから、切り替えを社内で検討することは必要です。企業担当者としてまずは自社が切り替えによってどれくらい電気料金が下がるのか、見積もりを依頼してみるとよいでしょう。

※本記事は電力自由化の概要を紹介するものであり、サービス内容は電力会社によって異なります。契約を検討する際は各電力会社のホームページ等でご確認ください

(提供:Renergy Online



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