NTTと東レの協業事例から学ぶ ソリューション営業に必要なスキル3つ
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市場規模やユーザーニーズの変化が激しい現在では、顧客の潜在的課題を見つけ、解決に導く提案をすることで成約につなげるソリューション営業が注目されている。今回は、ソリューション営業の基礎や商談の進め方、ソリューション営業を行う営業パーソンに必要なスキルや育成ポイントについて解説する。

目次

  1. ソリューション営業とは?
    1. ソリューション営業によって契約を獲得するには
    2. ソリューション営業の関わりが協業につながることもある
  2. プル型営業とプッシュ型営業の違い
    1. プッシュ型営業
    2. プル型営業
  3. ソリューション営業の商談の進め方
    1. 顧客先や自社製品の分析 代表的な3つのフレームワーク
    2. 顧客の課題を傾聴する
    3. 顧客と自身の認識を一致させる
    4. 解決策(ソリューション)を提案する
  4. ソリューション営業に必要なスキル
    1. 仮説思考
    2. コミュニケーション能力
  5. ソリューション営業に必要なスキルの育成方法
    1. ロジカルシンキングに必要な3つの思考と論理的手法
    2. ヒアリングスキルを向上させる
  6. ソリューション営業には、論理的に解決策を展開するトレーニングが必要

ソリューション営業とは?

ソリューション営業とは、顧客が抱えている課題を明確化して、自社(ベンダー)の製品やサービスを提供することで解決を図ることを目的とする営業活動のことである。

ソリューション営業によって契約を獲得するには

顧客が抱える課題には、ある程度言語化できる「顕在的課題」と、言語化および表面化していない「潜在的課題」がある。ソリューション営業によって契約を獲得するためには、顧客(ユーザー)が抱える潜在的課題までも深掘りして、ベンダーとユーザーの双方が課題を理解した状態で、自社の付加価値の高い製品・サービスを提案しなければならない。

競合他社が多い業界であれば、ソリューション営業によってユーザーとの関係性を築き、商品のカスタマイズを行うことで継続的な契約を得られるのはもちろん、価格下落といった自社にとっての潜在的なリスクも防ぐことができる。

ソリューション営業は、通常の営業活動と比較して工数やコストが掛かるため、ベンダーとユーザーの双方にとってメリットがなければ成立しない。

ソリューション営業の関わりが協業につながることもある

ソリューション営業の場合、ユーザーが持つ悩みを解決するために、お互いのノウハウを組み合わせて商品や技術を開発していくこともある。

システム導入の際などに、顧客に対して自社社員を派遣するが、協業によって双方の知見を組み合わせることで、新しいイノベーションを生み出す事業開発も可能である。協業の一例として、東レ株式会社とNTTの協業から生まれた機能素材「hitoe」の実用化がある。

プル型営業とプッシュ型営業の違い

ソリューション営業は「プル(PULL)型営業」と「プッシュ(PUSH)型営業」を効果的に組み合わせることで、成約率を高めることができる。それでは、「プル型営業」と「プッシュ型営業」の違いとは何だろうか。

ソリューション営業に必要なスキルとは? 社員育成のポイントも解説

プッシュ型営業

プッシュ型営業は、アウトサイドセールスとも呼ばれるもので、営業パーソンが見込み客にアポイントを取って、自社の製品やサービスを自発的に売り込む営業方法である。

プッシュ型営業は古くから行われている営業方式であり、ユーザーと直接商談を行うことで関係性を築くことができ、継続的な契約を結べる可能性も高い。ただし、売り込みに対して警戒を持たれることもあり、アポイントがなかなか取れないという課題もあるため、商社に仲介を依頼する場合もある。

プル型営業

プル型営業は、自社の製品やサービスに興味を持っているユーザー側から、自発的にアプローチしてくる営業方式である。自社のコーポレートサイト等で製品販売ページなどを作成し、SEOやWeb広告から集客を行うことで、営業パーソンのヒューマンリソースを削減できる。

ただし、見込み客へのリーチ方法の最適化が必要であり、Webサイトのクロージングページの訴求がユーザーニーズにマッチしていなければ、成約に至らない可能性もある。

ソリューション営業の商談の進め方

ここからは、どのようにソリューション営業を進めるか、大まかな流れを紹介する。

顧客先や自社製品の分析 代表的な3つのフレームワーク

ソリューション営業を行うためには、ユーザーニーズを分析するのはもちろん、解決のために提案できる自社の製品・サービスの強み分析も必要である。そのためには、以下のようなマーケティング戦略構築で用いられるフレームワークを活用するとよいだろう。

(1)3C分析

3C分析とは、マーケティングにおける経営戦略構築の際に主に用いられるフレームワークだ。「3C」のそれぞれの分析対象は以下の通りである。

ソリューション営業に必要なスキルとは? 社員育成のポイントも解説

Customer(市場・顧客):潜在顧客の特徴やニーズ、市場動向など
Competitor(競合):自社参入市場のナンバーワンや強豪の強みと弱みなど
Company(自社):自社の強みや弱み、業界におけるポジショニングなど

これら3つの要素に関して、顧客にとって自社がどれほどの競合優位性を持っているかを分析する。3C分析結果を用いることで、顧客の潜在的課題解決に必要な自社の事業戦略を策定する際の足掛かりとする。

(2)ファイブフォース分析

下記の5つの要因に着目して、参入市場の競争状況を分析する。

  1. 自社参入市場への新規企業参入の脅威
  2. 自社参入市場での競合企業間の敵対関係
  3. 自社製品やサービスの代替品出現の脅威
  4. ベンダーの交渉能力
  5. ユーザーの交渉能力

ファイブフォース分析によって、市場における自社のポジションを明確化する。それにより、新規参入や代替品に対して、「差別化戦略」や「集中戦略」などで参入障壁を築くことも可能となる。

(3)SWOT分析

自社の環境分析に用いられるフレームワークであり、内部環境と外部環境に関して、以下のような分析を行う。

ソリューション営業に必要なスキルとは? 社員育成のポイントも解説

内部環境分析(自社):「強み(Strength)」と「弱み(Weakness)」
外部環境分析(市場や競合):「機会(Opportunity)」と「脅威(Threat)」

「強み」と「機会」が揃っている事業は「積極的攻勢」によって市場を開拓し、「弱み」と「脅威」がある事業に関しては「専守防衛か撤退」の判断を下す。

顧客の課題を傾聴する

傾聴に重要なのは、オープンマインドによって「共感的理解」を示すことが重要である。

そして、自身のこれまでの経験や偏った思考によって一方的に分析するのではなく、「無条件の肯定的関心」によって受け入れることが重要となる。そして、質問によって新たな情報を引き出しながら、この2つの工程を繰り返すことが重要だ。

顧客と自身の認識を一致させる

顧客に対する傾聴を進めながら情報の交換と共有を繰り返したら、これまでに聞いた話を「伝え返し」によって話をまとめながら、相互理解に齟齬がないか「自己一致」させる必要がある。

情報の交換のみに注力していては、分かりにくい表現などを理解できないまま商談が進む可能性があるので、話の途中で短くまとめつつ不明点は明確にしながら、認識を一致させることが重要だ。

解決策(ソリューション)を提案する

ユーザーの潜在的課題をある程度言語化できたら、最終的にはSWOT分析等で抽出した自社の強みに着目しつつ、ソリューション(解決策)を提案する。解決策については、具体性を求められることが多く、技術的な質問を受けることもある。自社製品やサービスに対する技術的な知見が必要であり、ユーザーの疑問点を先読みして、提示できるデータを準備しておくことも大切だ。

ソリューション営業に必要なスキル

ソリューション営業を行う場合には、以下の3つの知識やスキルを持った営業パーソンが必要である。

・自社で取扱う製品やサービスに関する専門的な知識
・自社の見込み客の業務内容に関する知識
・見込み客との関係構築に必要なコミュニケーションスキル

もちろん、これらのスキルを別々に有している営業がいればいいのだが、リソースが限られている場合はマルチに対応できる営業パーソンの育成が不可欠となる。

仮説思考

仮説思考は、潜在的な課題を抱えている見込み客と接する際に重要なスキルである。

課題が顕在化していなければ、ユーザー側も言語化が困難なため、端的に発された言葉や共有されたデータなどの限られた情報を元に、仮説を立てながら質問によってさらなる情報を集めなければならない。そして、仮説を組み合わせながら顧客の反応を見て「検証」し、最終的には意図(課題)の顕在化を目指す。

自社の営業パーソンが仮説思考を苦手としている場合の解決策の一つとしては、仮説思考で業務を行うことが多い技術担当者を営業活動に帯同させる方法がある。また、自社の将来のためにも適性を考慮した上で、技術者を営業職に職務転換させるという方法もある。

コミュニケーション能力

営業パーソンにとっては当たり前のスキルだが、ユーザーと良好な関係を構築するコミュニケーション力も重要である。

情報を収集する際には、ベンダー側からも相応の情報を提供しつつ、情報のキャッチボールによってお互いの理解を深めていく必要がある。そのため、相手の表情や言葉などから空気を読みつつ、的確な言葉を返せるコミュニケーション力が欠かせない。

また、商談以外の場でも関係を築いていくことが必要となるため、対人関係の構築能力は重要だ。

ソリューション営業に必要なスキルの育成方法

ソリューション営業には、潜在的課題の抽出スキルが重要である。また、ユーザーに対してソリューション提案を効果的に行うため、以下の2つのポイントについて重点的に育成するとよいだろう。

ロジカルシンキングに必要な3つの思考と論理的手法

潜在的課題を導き出すためには、ユーザーと交わす情報を論理的思考(ロジカルシンキング)で分析する必要がある。ロジカルに物事を考えるための基本として、以下の3つの思考法を用いるとよい。

  1. 仮説思考:その時点での「仮説」を元に行動する
  2. ゼロベース思考:全ての既成概念を取り払う
  3. ポジティブ思考:現状よりも、より良い解が存在すると考える

これらを踏まえた上で、「演繹(えんえき)法(=3段論法)」と「帰納法」で論理を展開する。

・演繹法:大前提(原理・原則)に含まれる小前提(個別の事実)から結論を導き出す
・帰納法:複数の事実の中で共通するものに着目して、結論を導き出す。

この二つの手法について理解した上で、「MECE」や「ロジックツリー」などについて学ぶとよいだろう。ロジカルシンキングを成熟させることで、ユーザーにソリューションを提供する際に必要なプレゼンテーション能力も向上する。

ヒアリングスキルを向上させる

ヒアリングスキルの向上には、傾聴の項目で説明した「ロジャーズの三原則」を意識することが重要だ。

  1. 共感的理解
  2. 無条件の肯定的関心
  3. 自己一致

これらを前提に、短くまとめながら言葉を返す「いいかえ」などの、マイクロカウンセリング技法の練習を行うのが効果的である。

ソリューション営業には、論理的に解決策を展開するトレーニングが必要

市場のトレンドはもちろん、市場に参入する競合が激しく変化する中では、潜在的なニーズを掘り起こして新たなポジションを構築しなければならない。そのためには、ユーザーの潜在的課題を明確にして解決策を提案する「ソリューション営業」が有効だ。

ソリューション営業を行うためには、傾聴はもちろんだが仮設思考などの手法も重要であり、営業パーソンの適性によってはトレーニングも必要となる。ソリューション営業は一朝一夕で確立できるものではない。まずはSWOT分析等の基本的なフレームワークに立ち返って、自社のポジションを明確にしよう。

文・隈本稔(キャリアコンサルタント)

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