ブレインパッド【3655・東1】
草野隆史社長

 ブレインパッド(3655)は、データを基に顧客企業の経営改善などを行うビッグデータ分析企業の草分け。2021年2月にはDX(デジタルトランスフォーメーション)関連の需要増加などを背景に、21年6月期業績予想の上方修正を発表した。現在進めている中期経営計画では、売上高が4年間で倍となる予定。データサイエンティストとして国内トップクラスを誇る実績と人材を武器に、ニーズの囲い込みを図る。

草野隆史社長
プロフィール◉くさの・たかふみ
1972年生まれ、97年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同年日本サン・マイクロシステムズ(現日本オラクル)入社、99年リセット入社。2000年、フリービット・ドットコム(現フリービット)設立、取締役就任。04年ブレインパッド設立、代表取締役社長就任。13年、一般社団法人データサイエンティスト協会代表理事就任(現任)。15年ブレインパッド代表取締役会長、19年同社代表取締役社長就任(現任)。

ビッグデータで生産効率化

2004年の創業以来、同社と主業となり続けるのは「企業のデータ活用支援」だ。企業が持つ顧客リストや取引実績、商品情報といった様々なビッグデータ(事業に役立つ膨大なデータ)を分析して特徴や傾向を見つけ、経営効率を改善するサービスを提供する。「ビッグデータ」という言葉は2010年頃から浸透してきたが、同社はこの言葉が生まれる前からビッグデータの分析を行ってきたパイオニア。導入実績は1000社以上にも及ぶ。

 ビッグデータを分析すれば、どんな効率化ができるのか?

「例えば通販会社であれば、カタログを送付するために印刷費と送料がかかりますよね。でも、絶対に買わないであろう人にも送付している可能性があります。これまでの購買履歴や顧客データを分析すれば、そういった『買わないであろう人』を特定できる。もしそういった人が全体の10%だった場合、送付を止めればコストを10%減らすことができます」(草野隆史社長)

デジタル人材の採用を強化

 20年6月期業績は、売上高が66億2134万円、営業利益は10億6109万円。セグメントは、21年6月期から①プロフェッショナルサービス事業、②プロダクト事業の2つに変更された。

 売上高の約6割を占める①プロフェッショナルサービス事業は、企業に対してデータ活用のコンサルティングやデータ分析、データ活用・分析基盤の構築、データサイエンティスト(ビッグデータの分析を行う高度IT人材)の育成支援サービスなどを行う。売上の大半は、企業から業務受託を受けるフロー型。特徴は、1プロジェクトの継続率が長い点だ。

「顧客の経営課題に合わせてプロジェクト単位で受注しますが、長いと10年以上も更新している顧客もいます」(同氏)

 同事業の特徴2つ目は、それぞれの案件にブレインパッドのコンサルタントやデータサイエンティストがつく「人的サービス」という点。そのため、同社のコンサルタント・データサイエンティスト数と売上が比例する傾向がある。

 そこで、同社が力を入れるのが人材採用だ。引く手あまたのデジタル人材を呼び込むため、20年6月期には給与水準の引き上げを実施。またデータ分析専業では「日本で歴史が一番長い」(同氏)ため、同領域で活躍したい若手に選ばれやすいという。21年2月時点の従業員数は386人だが、21年6月期末までに455人到達を目指す。

パーソナライズの国内首位級

 売上高の約4割を構成する②プロダクト事業では、自社製および他社製プロダクトを提供し、企業のデータ活用支援を行う。同事業売上高の8割以上が、解約しない限り継続的な収益となるストック型となる。取り扱う製品は、顧客とのメールなどでのコミュニケーションを最適化する「プロバンス」や、AIでテキストデータを解析する「マインドプラス」など多数。中でも事業売上高の65%を占める主力が、自社製品の「アールトースター」である。

 アールトースターは、あらゆる顧客データを統合・分析し、顧客一人ひとりの趣味や嗜好に合わせてサービス内容を変化する「パーソナライズ」を行う製品だ。顧客の情報を分析・管理するDMP(データマネジメントプラットフォーム)製品市場では、国内シェア2割と首位級を堅持。これまで350社以上が導入してきた。

 アールトースターの特長は、様々な業界に合わせて使い方をカスタマイズできる機能の草野隆史社長豊富さ。例えば小売・流通業者向けには、顧客が実店舗・ECサイトそれぞれで購買した履歴を統合することで顧客データを一元管理したり、実店舗で購入した商品に似たものをECサイト上でおすすめしたりといった使い方ができる。またウェブメディア向けには、視聴者の傾向を解析して最適なコンテンツや広告を表示したり、アンケートを配信したりできる。

DX需要で売上2倍へ

 21年6月期の業績予想は、売上高が68億5000万~72億円の間、営業利益は5億5000万~7億5000万円の間となる見通しだ。コロナ禍では新規受注が減っていたが、近頃はデジタル化・生産効率化需要の増加を受け引き合いが増加。そのため、売上高は前期比超えとなる予定。一方利益は、前述の通り従業員の給与水準引き上げと採用人数の増加を行うため前期を下回るとみられる。最新の業績動向は、同年5月の21年6月期第3四半期決算時に発表予定(21年4月末執筆時点)だ。

 同社は現在、23年6月期を最終年度とする中期経営計画の真っただ中。最終年度には、売上高が19年6月期比2倍の115億円、経常利益は同比65%増の20億円となる計画だ。

 売上規模を中期経営計画の4年間で倍にするためのエンジンが、近年至る所で叫ばれているDX(デジタルトランスフォーメーション)推進である。近年は、大企業などを中心にDX案件が増加中。21年は伊藤忠商事やりそなホールディングスなどからDX関連の受注を受けている。

 草野社長によると、DXとは「ビジネスをデジタル化させる」こと。その実現とデータの活用は「ほぼセットで考えるべき」(同氏)という。

「時代の流れと共にビッグデータ、AI、IoTとキーワードは変わってきましたが、共通するのは『データを分析してそれを価値に変え、企業活動を改善すること』です。そういった技術は世界でどんどん生まれていますが、それを企業がすぐに使いこなせるわけではない。だから私達の使命は、『企業の課題とデータ活用技術を繋ぐ』ことだと思っています」(同氏)

■ブレインパッドのビジネス領域

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▲一人ひとりに合わせてサービス内容を変化させる「アールトースター」

(提供=青潮出版株式会社