2021年に入ってから続いているユニクロとウイグル人権問題の関わりは、SDGsに取り組む企業にとって生きた教材になります。自社が似たような状況になったとき、どう行動すべきかを考えてみましょう。
この記事の前半は「ユニクロのSDGs活動とウイグル人権問題の概要」、後半は「ウイグル人権問題の株価への影響」「柳井社長のノーコメントは正しかったのか」などにフォーカスします。
ユニクロはウイグル人権問題以外ではSDGsのリーダーカンパニーだが……
ウイグル人権問題が原因で国際社会から批判される前のユニクロは、SDGsに取り組む国内企業の代表的な存在でした。皮肉にも、SDGs推進を掲げるグローバル企業であるがゆえに、ウイグル人権問題をきっかけにして苦境に立たされる事態となっています。
はじめに、具体的にユニクロがどのようなSDGs活動に取り組んでいるかを確認してみましょう。
ユニクロのSDGs活動で注目度が高いのは、全商品のリサイクルを目指した「RE.UNIQLO」でしょう。そのファーストステップとして、不要になったダウン商品を回収して、ダウンとフェザーを再利用するダウンリサイクルに取り組んでいます。
また、ダウンのサプライチェーン全体において、原料となる羽毛の採取では「鳥が生きたまま行わない」「強制的な餌づけはしない」などの動物福祉を守る方針を具体的に示しています。
ユニクロは地球の気候変動への対策にも力を入れています。温室効果ガスの削減では、すべての国と地域における自社オフィスや店舗省エネルギー化を図り、2020年には約38.7%の削減を達成しました(2013年比)。また、物流においては商品輸送の効率化を図り、移動距離や輸送回数の削減を進めています。
近年プラスチックごみによる海洋汚染が深刻化している中で、ユニクロはプラスチックごみの削減にも力を入れています。ペットボトルからポロシャツやフリースをつくる事業や、ショッピングバッグや商品パッケージの紙化などに取り組んでいます。
このようにざっと主なSDGs活動を見ただけでも「ウイグル人権問題を外せば」、ユニクロが本気でSDGs取り組んでいるのは間違いありません。
ウイグル人権問題でユニクロにウォッシュ企業の疑惑が広がる
さらに、ユニクロが取り組むSDGs活動には「サプライチェーンでの人権保護」もあります。ウイグル人権問題で引っかかったのはこの部分です。これは、労働環境の改善、人権尊重といった方針を取引先工場と共有し、サプライチェーン全体で順守する仕組みづくりを進めるものです。
とくに児童労働、強制労働、ハラスメント、差別、暴力などの深刻な人権問題が取引先で生じた場合、その工場からの発注量を削減または停止措置を取ると公表しています。
しかし、ユニクロ製品のなかに強制労働が強く疑われる中国のウイグル自治区で生産された綿製品があったことから「ユニクロはSDGsをやっているふりのウォッシュ企業ではないか?」と疑いの目を向けられるようになりました。例えば今、「ユニクロ ウォッシュ企業」で検索すると、ウイグル問題に絡んだ数多くの記事が表示されます。
ウォッシュ企業とは、SDGsやESGに取り組むと外部にアピールしているだけで、実際にはほとんど取り組んでいない企業のことです。それどころか、SDGsやESGに反する活動に加担していることもあります。その企業がSDGsウォッシュという認識が世の中に広がると、SDGsを掲げていることがかえってマイナスのイメージを与えかねません。
ウイグル自治区で欧米企業が疑っている人権侵害にはさまざまなものがありますが、綿製品に関する直接的なものとしては、「中国政府が新疆地区の綿花畑で、ウイグル族などの少数民族何十万人に手作業を強制している(BBC NEWS)」ことが挙げられます。
ウイグル人への人権侵害について、中国側は事実を否定していますが、欧米を中心とした国際社会からの批判は勢いを増し、アメリカ政府は中国の行為を「ジェノサイド(集団殺害)」と認定。ウイグル人に対する強制労働があったとして、2021年1月にはウイグル自治区で生産された綿製品の輸入を禁止しました。
そして、アメリカ政府に輸入差し止めをされた綿製品の中には、ユニクロのシャツも含まれていたことが後に判明したのです。
ウイグル人権問題が国際的に注目されてからユニクロの株価は低調
ユニクロがこのウイグル人権問題で打撃を受けたことは株価チャートを見ても明らかです。2021年2月時点で11万円に迫っていた株価は3月頭から急落。その後、約4ヵ月にわたって株価は低迷し続けています。
直近の2021年6月のさらなる下落基調は、国内のユニクロ既存店の売上高が前年比を下回った影響もあるといわれますが、ウイグル人権問題に対する情報開示が十分ではないことが尾を引いているという見方も強いです。
株価に「if」はありませんが、もし、ユニクロが株価を復調させるチャンスがあったとしたら、2021年4月8日に行われた会長兼社長の柳井正氏の記者会見だったのかもしれません。ウイグル産の綿花の使用と人権問題に対する会場からの質問に対し、柳井氏が「政治問題なのでノーコメント」と発言したことが大きな波紋を広げました。
このような柳井氏の姿勢に対し、ニューズウィーク日本版では、『ウイグル問題で「人権」から逃げるユニクロ』という見出しで批判的に報じました。メディアだけでなく、SNSや海外の市民団体も柳井氏の姿勢を批判するものが目立ちます。
柳井氏が「ウイグル自治区の綿は調達しない」と言っていたら…
では、柳井氏の「ノーコメント」という対応は経営者として間違いだったのでしょうか。これは間違いとは言い切れない面もあります。
仮にもし、柳井氏が「ウイグル自治区の綿は調達しない」というような言及していたら、中国側から凄まじい批判を浴びていた可能性が高いからです。同じグローバル展開しているアパレル企業のH&Mはユニクロと対極的に、ウイグル自治区からの綿の調達をしない方針を明確に打ち出しました。
その結果、彼らは中国当局や中国の消費者からのバッシングを浴びることになりました。さらに同社製品の不買運動や中国国内で展開していた20店舗の一時閉店にも発展しています。
そう考えると、製造・販売で中国に大きく依存しているユニクロを率いるリーダーとしては「ノーコメントと言わざるを得なかった」ともいえます。ただし、SDGsやESGと誠実に取り組んでいるかという観点で見たら、柳井氏の「ノーコメント」は明らかに不誠実であり、長期的に見たときにユニクロのブランドを毀損(きそん)している可能性があります。
いずれにしても、柳井氏の「ノーコメント」という対応が正解だったのか否か、ユニクロがSDGsウオッシュ企業なのかを判断するには、まだまだ時間が必要そうです。
ユニクロのウイグル人権問題はSDGsのリアルな教材である
今回のユニクロのウイグル人権問題は、SDGsやESGに取り組む企業のリアルな教材になります。ユニクロのような問題が起こる可能性はどの企業にもあります。
SDGsやESGの根幹は、長期的に正しい行動をとっている企業が最終的に顧客からの信頼と真のリターンを得られるということです。岐路に立たされたときこそ、SDGsやESGの本気度が試されているといえるでしょう。ただそれを貫き通すことは、たやすいことではありません。
(提供:Renergy Online )
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