初期費用0円で太陽光発電を導入できる「PPAモデル」が一般家庭や法人で急速に広まっています。PPAモデルはネット上で、利用者側のメリットが強調されています。しかし、多くのサービス提供事業者が新規参入しているということは「おいしいビジネス」なのでしょうか? PPAモデルの仕組みを再点検します。
増え続ける!PPAモデルに新規参入するサービス提供事業者
PPAモデルとは、サービス提供事業者が電力利用者・施設所有者(以下、利用者)の自宅や社屋の屋根などに太陽光発電・蓄電池などの設備を設置。そこで発電した電力を電力利用者に売電することで利益を得るビジネスモデルです。PPAモデルは「第三者所有モデル」「電力販売契約モデル」とも呼ばれています。
最近では、数多くのサービス提供事業者がPPAモデルの分野に新規参入しています。その一例を見てみましょう。
法人向けPPAモデルでは2020年12月、東京電力ベンチャーズ(東京電力ホールディングス傘下)とシャープエネルギーソリューション(シャープ子会社)が提携して太陽光発電を無償で設置し、つくった電力を企業に売電するサービスの開始を発表。一般家庭向けのPPAモデルでは、沖縄電力が2021年1月、太陽光発電設備に加えて蓄電池も無償で設置するプランを発表しています。蓄電池も含めて無償提供するサービスは大手電力会社では初めてとのことです。
このほか、PPAモデルに関連するサービスを提供するのは、携帯電話の販売代理店網を持つティーガイア子会社のTGパワー、太陽光発電分野で影響力のあるウエストホールディングスと大阪ガスの連携などがあります。もちろん、ご紹介したPPAモデルのサービス提供事業者はごく一部です。
このように最近では、PPAモデルのサービス事業者の新規参入が増えてきたことから、一括提案・見積もりサイトも登場しています。
PPAモデルは超長期型のストックビジネスである
数多くのサービス提供事業者が参入しているということは、「PPAモデルがおいしいビジネス」であることは間違いありません。具体的にビジネスモデルとして、どのような点が魅力的なのでしょうか。
サービス提供事業者(発電事業者)から見たときの法人向けPPAモデルのメリットは次の通りです。
リスク低減 | ・長期に購入者を確定できる ・収益源を多様化できる |
---|---|
収益補償 | ・金融機関から資金を調達しやすくなる |
事業開発 | ・標準的な契約条件で新規の開発案件を追加できる |
上記のうち、「長期に購入者を確定できる」「金融機関から資金を調達しやすくなる」は法人向けPPAモデルと一般家庭用のPPAモデルに共通するメリットといえるでしょう。
「長期に購入者を確定できる」メリットについては、PPAモデルの契約期間は短期であれば10年未満、中期であれば10〜15年、さらに長期であれば15年以上に及びます。
継続的に利益を積み重ねていけるストックビジネスは「安定性があって手堅い」といわれますが、PPAモデルのように約10年(場合によってはそれ以上)にわたって顧客をつなぎとめ続けられるストックビジネスは稀です。
例えば、携帯電話や動画配信サービスであれば原則、顧客がサービス提供事業者を変えたいと思えば、いつでも変えられます。あるいは、安定性が高いビジネスの代表といえる賃貸経営でも、数年おきの契約更新があるケースが大半です。
このようにPPAモデルは超長期のストックビジネスのため、根拠のある事業計画や経営計画を立案しやすく、「金融期間からの資金調達がしやすい」というもう1つのメリットが生まれるのです。
2030年の国内PPAマーケットは90倍超(2018年比)に拡大する
さらに国内のPPAモデルは「今後、マーケットが急拡大する」公算が大きいです。この期待感によって、新規参入が相次いでいる面もあるでしょう。
日本のPPAモデルに関するビジネスは始まったばかりです。これに対して、PPAモデルで先行する海外のマーケット(新規契約量)は既にかなりの規模に成長しており、さらに現時点でも成長を加速させています。
下記のグラフは、全世界のコーポレート(法人向け)PPAモデルの新規契約量の推移です。補足すると、日本のPPAモデルは太陽光発電が電源になることが多いですが、海外の場合、太陽光発電以外に風力発電が採用されるケースもあります。
全世界のコーポレートPPAの新規契約量を2016年と2019年で比較すると、5倍近くの規模に拡大しています。PPAが本格化している海外でも、まだまだ新たなニーズがあることがわかります。ちなみに、このグラフはマーケット全体ではなく、新規契約量の推移です。既存のPPA契約に新たなPPA契約が凄まじい勢いで積み上がっているわけです。
グラフの推移だけだと、PPAモデルのマーケットの大きさが実感しにくいかもしれません。自然エネルギー財団によると、アメリカでは2019年に約933万キロワットのコーポレートPPAの契約が交わされています。これは、原子力発電所でいうと約9基分にあたる電力量です。これほどまでにPPAのマーケットの規模は大きくなっているのです。
※PPAには、「オンサイト」「オフサイト」「フィジカル」「バーチャル」などのカテゴリがあります。各国の法律や市場背景によって主流のPPAは変わってきます。「日本のPPAモデル=海外のPPA」ではありません。
なお、富士経済では、2030年段階の国内のPPAモデルのマーケットは1,382億円規模まで拡大すると予測しています。これは2018年と比べると90倍超のマーケット規模になります。
PPAモデルのデメリットは投資資金の回収ができないリスク
PPAモデルにサービス提供事業者側のデメリットがあるとしたら、太陽光発電設備などのコストの回収に長い期間がかかることが挙げられます。法人向けPPAモデルでは回収している間に利用企業が倒産したり、電力量が激減したりするリスクがあります。
この部分については各社で審査の基準(業種、企業規模、エリアなど)を設けることでリスクを低減できるでしょう。
PPAモデルは、「三方よし」「Win-Win」の仕組みである
PPAモデルはサービス提供事業者にとって「安定性の高いおいしいビジネスモデル」であることがご理解いただけたと思います。サービス提供事業者のメリットが大きい仕組みのため、「利用者が気づかぬうちに搾取されているのではないか?」と警戒する人もいるかもしれません。しかし、PPAモデルは利用者にも下記のようなベネフィットをもたらしてくれます。
- 太陽光発電設備などの初期費用がいらない
- メンテナンス費用がいらない
- 再生可能エネルギー由来の電気を使える など
つまり、PPAモデルは、日本の昔の言い方だと「三方よし」、今どきの言い方だと「Win-Win」の仕組みなのです。だからこそ、これだけ世界中で広がっているわけです。PPAモデルが世界や日本の再生可能エネルギーの比率を増やすための起爆剤であることは間違いありません。
利用者側のデメリットは長期契約で縛られること
PPAモデルの利用者のデメリットは、10〜20年と長期契約のくくりがあることです。サービス提供事業者が倒産したときに設備の所有やメンテナンスの面で不安があります。だからこそ、PPAモデルを導入するときには、「どのサービス提供事業者と契約するか」が重要になってきます。
PPAモデルの導入を検討するときには必ず複数の会社を比較しましょう。最終判断を下す前に契約書のひな形を入手して「利用者に不利益な項目がないか」をくまなくチェックするくらいの慎重さが必要です。
(提供:Renergy Online )
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