2011年に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故はいまも終息の目途がたっていません。加えて汚染処理水を海洋に放出する方針を政府が決定したことで、アジア各国から強い批判を受けています。国内では原発新増設をめぐる反対派と推進派の対立が際立ってきました。原発新増設は可能なのか?原発政策の行方を探ります。

アジアで炎上した福島第一原発の汚染処理水海洋放出

新増設阻止か?反対派と推進派、対立する原発政策はどうなる?
(画像=DanielPrudek/stock.adobe.com)

NHKの報道によると、2021年4月13日に政府はトリチウムなどの放射性物質を含む福島第一原発の汚染処理水の海洋放出を決定しました。この政府の方針に対して、中国、韓国などアジア各国から非難の声が相次ぎ、大きな国際問題になっています。

国によると、放出するトリチウムの濃度は国の基準の40分の1、WHO(世界保健機構)による飲料水の基準で7分の1程度に希釈するとしていますが、「JBpress」はアジア各国が反発を強めていると伝えています。近隣にある中国は、福島第一原発の事故を世界で起きた原発事故のなかで最も重大とみており、周辺国家や国際社会との十分な協議を尽くさないままに放出を決定したことに強く反発しています。

また、韓国も放出決定のニュースが伝えられると、日本政府に反対と懸念を示す非難のコメントを発表しました。さらに、日本とは比較的良好な関係にある台湾さえも報道官が処理水放出反対のコメントを発表するなど、アジアで大炎上の様相を呈しています。

原発新増設の議員連盟が発足

これに対し原発新増設推進派も動き出しました。汚染水海洋放出がアジアで炎上した同じ4月に、時代に逆行するような原発新増設を目指す「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」(稲田朋美会長)が自民党議員により発足したのです。日本経済新聞の報道によると、安倍晋三前首相らが顧問に就いた同議員連盟は2021年4月12日に国会内で設立総会を開きました。

政府が策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では原子力について、可能な限り依存度を低減しつつも、規制基準に適合すると認められた場合は再稼働や、安全性等に優れた炉の追求などを将来に向け推進する方針を掲げています。

同議連は、2021年夏に見直される政府の「エネルギー基本計画」に原子力発電所の新増設や建て替えの推進を明記したい考えです。安倍前首相は安定した電力の供給のためには「原発と向き合わなければいけないのは厳然たる事実」と会合で語り、原発新増設に強い意欲を示しています。

反対の声が根強い原発新増設

一方、原発新増設に反対の声も根強くあります。「IWJ」の報道によると、2021年1月21日に行われた原子力規制委員会で更田豊志(ふけたとよし)委員長は、経済産業省の有識者会議で原発の新増設について議論されていることに対し、「新設についてはまったく視野にないし、準備をしなければならないとは考えていない」と反対の立場を表明しています。

また、政党公約を見ても自民党以外の主要政党はほとんどが原発ゼロ社会を目指すとしています。与党の公明党も再稼働については、原子力規制委員会の基準を満たし、立地している自治体の理解を得た上で判断するとしていますが、原発の新設は認めないとしています。与党の足並みは揃っていません。

さらに、経済界でも反対派が攻勢を強めています。中日新聞の報道によると、2021年6月25日に行われた大手電力会社8社の株主総会で、株主から合計で60議案の株主提案が出されました。

原発に反対する株主から脱原発や現経営陣の解任などが提案されましたが、すべての議案が否決されました。経営陣は電力の安定供給のためには原発が不可欠として株主に理解を求めています。

最も大事なのは国民の声ですが、NHKが2020年11月から12月にかけて行った世論調査によると、原発の新増設について賛成の意見はわずか3%しかありません。

逆に「減らすべきだ」(50%)と「すべて廃止すべきだ」(17%)を合わせると2/3以上の国民が原発そのものに反対の意思を表明しています。原発再稼働についても賛成の意見は16%にすぎませんので、多くの国民が再稼働に懸念を持っていることがわかります。

Q.原発の今後について全国福島県
増やすべきだ3%1%
現状を維持すべきだ29%24%
減らすべきだ50%48%
すべて廃止すべきだ17%24%
Q.原発再稼働について全国福島県
賛成16%14%
反対39%48%
どちらともいえない44%36%
出典:NHK世論調査を基に作成

世論に配慮して「エネルギー基本計画」への盛り込みを断念か

原発新増設反対の声が多いなか、2021年6月6日にテレビ朝日が報道したところによると、政府は2021年の夏に改定される予定の「エネルギー基本計画」に原発の新増設を盛り込まない方向で検討していることがわかりました。政府は有識者会議などで新増設について議論を進めていますが、「国民の理解を得られていない」ことを理由に見送ることにした模様です。ひとまず国民の声が新増設を阻止した形です。

ただし、建て替えについては、電力会社が老朽化した原発を立て替えたいとの意向を持っているため、計画に盛り込むか引き続き検討するとしています。自民党や経団連にも新増設や建て替えを求める声が依然としてあるため、「エネルギー基本計画」決定までは予断を許さない状況が続きます。

再エネ過渡期における原発と火力発電の位置づけは?

経済産業省は2050年に再生可能エネルギーの比率を50~60%にすることを目標にしています。2050年までに再生可能エネルギー比率50~60%を達成するまでの過渡期において、原発と火力発電の位置づけはどのようになるのでしょうか。

世界的には石炭火力発電は縮小の方向にあり、欧州の金融機関では石炭火力発電に対する投融資を控える動きがあります。しかし、経済産業省は石炭火力が持つさまざまなメリットを考えると、日本にとっては引き続き重要なエネルギー源とみています。

「石炭は、安定供給や経済性の面で優れたエネルギー源で、ほかの化石燃料(石油など)にくらべて採掘できる年数が長く、存在している地域も分散しているため、安定的な供給が望める」というのが経済産業省の見解です。

原発に反対の声が多い以上、再生可能エネルギーが普及するまでの過渡期のエネルギー政策としては石炭火力発電も必要かもしれません。火力発電はLNG(液化天然ガス)を使っても行えますが、輸入価格が原油と連動性が高いという難点があります。価格が安く安定していることが、経済産業省が石炭火力を推奨する理由と考えられます。

半面、LNGは石油や石炭よりもCO2(二酸化炭素)排出量が少ないというメリットもあるため、当面は併存が続くでしょう。

一方の原発に関しては、2021年6月に動きがありました。関西電力が福井県内の原発3基のうち、美浜原発3号機を2021年6月23日から10年ぶりに再稼働したのです。関西電力では慎重に作業を進めていくとしていますが、これを機にほかの原発の再稼働にもつながる懸念があります。

美浜原発の再稼働が今後の新増設への動きを後押しするか抑制するかは判断の難しいところです。政府の地震調査委員会によると、日本で今後30年以内に巨大地震が発生する可能性が70~80%といわれています。

このようなデータを考えると新増設に対して国民の理解を得ることは難しいでしょう。原発を新増設することは現時点では世論を背景に反対派が優位な情勢ですが、いつ政治的な動きに変化があるかわかりません。反対派と推進派の対立による原発政策の行方を国民や企業・団体もしっかり見守る必要があります。

※本記事は2021年6月26日時点の情勢を基に構成しています。「エネルギー基本計画」に盛り込む内容は流動的ですので、今後変化する可能性があります。

(提供:Renergy Online



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