新型コロナウイルスの感染拡大は、ワクチン接種が加速すれば収束に向かう可能性が高い。しかし、コロナ禍という大嵐は、労働者の雇用に多大な影響を与えた。経営状況を改善しようと、早期・希望退職者を募る企業が相次いだからだ。特にどの業種で募集が多かったのか。
新型コロナウイルス禍の現状
政府は2021年4月に発令した3度目の緊急事態宣言を、6月21日に沖縄を除く9都道府県で解除した。解除された9都道府県のうち7都道府県では、「まん延防止等重点措置」に移行する形となり、ワクチン接種も進む中、感染拡大の収束に向けた期待感も高まりつつある。(※この記事の内容は2021年6月28日時点のものです。現在と新型コロナウイルス感染拡大に関する内容が変更になっている場合がございます)
もちろん、予断を許さない状況は続く。東京五輪、しかも観客を入れる形で開催することによって、新型コロナウイルスの感染拡大がぶり返す可能性は十分にある。また、感染力が強い変異株であるデルタ株が日本で猛威を振るうことになれば、4度目の緊急事態宣言もあり得る。
これがいまの日本におけるコロナ禍の状況であり、簡単に言えば、警戒感が消えないながらも収束に向けた期待感が高まっている現状であると言えよう。しかし、すでに1年以上続いているコロナ禍によって、業種によっては多くの企業が経営に甚大なダメージを受けている。
負債1,000万円以上のコロナ倒産、1,600件に
東京商工リサーチがまとめた「新型コロナウイルス関連破たん」の最新情報によれば、2021年6月25日午後4時時点で、負債1,000万円以上のコロナ破綻は1,600件に達した。
月ごとの件数は、2~4月にかけて3ヵ月連続で最多を更新している。2月は122件、3月は139件、4月は154件だ。5月のコロナ破綻は124件と前月比で減少に転じたが、6月は25日時点ですでに125件のコロナ破綻が確認されている。
つまり、依然として多くの企業が厳しい事業環境にさらされていることが鮮明となっている。
上場企業の早期・希望退職者の募集、2021年はすでに50社
事業環境が悪化し、業績に深刻な影響が出てくると、企業はある苦肉の策を検討し始める。「早期・希望退職者」の募集だ。
従業員が定年を待たずに退職してくれれば、人件費の削減につながる。瞬間的には、退職者に支払う「割増退職金」が企業にとって重荷となるが、その従業員の賃金が勤務年数とともに上がっていくことを考えれば、実際には人件費の削減効果は大きい。
そしてコロナ禍において、多くの企業が早期・希望退職者の募集に踏み切った。では特にどの業種で早期・希望退職者の募集が多かったのだろうか。東京商工リサーチが上場企業を対象に調査したデータがあるので、参照していこう。
ちなみに、2021年は6月3日時点で上場企業50社が早期・希望退職者の募集に踏み切っており、コロナ禍以前の2019年の35社と比較すると、いかに募集企業が増えたかがよく分かる(ただし下記の表はコロナ禍とは関係ない早期・希望退職者の募集企業も含む)。
<2021年の早期・希望退職者の募集の実施状況>
募集が多かった各業界の状況は?
上記のランキングのうち、新型コロナウイルスの影響をもろに受けて早期・希望退職者を募集した企業が多かった業種としては、「アパレル・繊維製品」「サービス(観光)」「外食」などが挙げられる。このうち、アパレル・繊維製品とサービス(観光)の両業界の状況を詳しく見ていこう。
アパレル・繊維製品業界は?
アパレル・繊維製品業界では、アパレル大手のワールドが2021年2月、コロナ禍が始まって以降で2度目となる早期・希望退職者の募集を行った。募集人数は約100人で、不採算ブランドの廃止も発表した。
アパレル業界は、百貨店の休業や消費者の外出控えなどが影響し、売上が大きく落ち込んでいる。ちなみに、2021年に早期・希望退職者の募集を行った企業8社のうち、7社が直近の通期決算で赤字を計上している。
観光業界の状況は?
観光業界では、近鉄グループで旅行業を統括するKNT-CTホールディングスが、2021年1月に早期・希望退職者の募集を行っているほか、ラグジュアリーホテルや高級旅館などを運営する藤田観光も2月に募集に踏み切っている。
観光業界は、不要不急の外出を控えるよう国や自治体が住民に要請したことや、訪日外国人がほぼゼロ化したことが大きく影響した。すでに廃業したホテルや旅館も少なくなく、休業中の宿泊施設も多い。
雇用の完全回復はまだ時間がかかる?
新型コロナウイルスの感染拡大が収束し、経済が正常化すれば、早期・希望退職者を募った企業は逆に雇用を強化する方向になっていくはずだ。ただし、コロナ禍は変異株の猛威などでしばらくは期待通りに収束しない可能性もあり、直近1~2年後の事業環境を慎重に見ている企業も多い。そう考えれば雇用の完全回復はまだ時間がかかりそうだ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)