泥沼の東芝、“2021年2大事件”を解説 社長辞任の理由と株主総会の公正性は?
(画像=AlexeyNovikov/stock.adobe.com)

東芝が揺れ、そして事態は泥沼化しつつある。2021年4月の突然の社長交代、そして株主総会の運営に関する問題など、世間に波紋を広げるニュースが次から次へと報じられ、ブランドイメージに大きな影響が出始めている。この「東芝2021年問題」を整理して解説しよう。

東芝で2021年に起きた2つの「問題」

東芝が2021年に入って波紋を広げているトピックスとしては、車谷暢昭社長の電撃辞任と株主総会の公平性に関する問題だ。車谷社長の電撃辞任は4月、そして株主総会の公平性に関する問題が浮上したのが6月のことだ。まさに矢継ぎ早といった印象である。

この2つの問題がなぜ起きたのかは、速報的に報じられるニュースを読むだけでは理解しにくい。それは、背景にあることがやや複雑だからだ。そこでこの記事では、それぞれの問題について、背景をできるだけ丁寧に説明することを心掛け、解説しようと思う。

車谷氏の電撃辞任の背景は?

車谷氏は、2018年に外部出身者の経営トップとして、東芝の会長に就任した。同社が外部出身者をトップに据えたのは、実に53年ぶりのことだ。車谷氏はその後、同社で手腕を発揮して事業構造改革を急ピッチで進め、東芝を東証2部から東証1部に復帰させた。この点は大きく評価された。

しかし、あることによって車谷氏と東芝の株主の関係が険悪なものになりつつあった。子会社で起きた不祥事のほか、車谷氏の経営方針や企業統治の問題などが理由だ。そしてそのことは、2020年の株主総会において表面化する。車谷氏の再任議案の賛成率が、約57%に低下したのだ。賛成率は約99%だった2019年6月の株主総会と比べると、急落と言っていい下落幅だ。

株式会社は、極論を言えば株主のものである。そして、東芝の株主には「モノ言う株主」(アクティビスト)が含まれ、この株主たちと車谷氏との対立によって、東芝は経営の円滑に進めることが難しくなりつつあった。

ファンドからの買収提案で新たな火種

そのような状況下で、東芝は2021年4月にイギリスの投資ファンド「CVCキャピタル・パートナーズ」から買収提案を受けた。東芝を買収によって非公開にし、モノ言う株主からの影響を受けにくい体制の構築を目指すことが買収の理由の1つに挙げられた。

モノ言う株主との対立が鮮明化している東芝にとってはありがたい提案にも見えるが、車谷氏が以前、CVCキャピタル・パートナーズの日本法人のトップに就いていたことがネックとなった。このことが着火点となり、東芝の経営陣、そして株主からも批判が相次いだ。

問題収束に向け辞任、「東芝を良い会社に戻す事はできた」

そして結果として、経営陣と株主との関係性の悪化を収束させるために、車谷氏は辞任せざるをえない状況となったようだ。車谷氏には無念さもあったと考えられるが、辞任後に「東芝を良い会社に戻す事はできた」というコメントを発表している。

株主総会の公正性に関する問題

東芝が、2021年に世間に波紋を広げたもう1つの問題が、株主総会の公正性に関することだ。

東芝の株主が選んだ外部弁護士が6月10日、2020年7月に開催された株主総会についての「調査報告書」を発表した。この調査報告書では、東芝と経済産業省がシンガポールの投資ファンドなどに対し、圧力をかけたと指摘している。

その圧力とは具体的には、株主提案権や議決権の行使を控えるように働きかけたというものだ。そして、調査報告書を作成した外部弁護士チームは、東芝の2020年7月の株主総会の公正性を明確に否定した。

永山治取締役会議長の再任案が否決

調査報告書の発表から約2週間後の6月25日に開かれた定時株主総会では、社外取締役である永山治取締役会議長の再任案が否決されることとなった。その理由は、議長を務めていた永山氏にも、株主総会の公正性を欠いたことに責任があると判断されたからだ。

今回注目された点は、モノ言う株主だけではなく、そのほかの多くの機関投資家や個人株主も永山氏の再任案に反対票を投じたことだ。モノ言う株主の票は合計しても2割程度だ。機関投資家や個人株主の反対票が無ければ、再任案は否決されなかった。

つまり、すでに東芝の経営陣に対する不信感はモノ言う株主以外でも広がっていると言えよう。

東芝の今後は?復活は可能か?

このような状況にある東芝は今後、どうなるのだろうか。まず、経営に関する混乱を収束するのが第一だ。そしてその後、自社で有している原子力や量子暗号などの技術を最大限生かした事業の舵取りに成功すれば、十分に成長フェーズに入ることは可能であると言えよう。

ちなみに、株価に関しては右肩上がりの状況が続いており、この1年で株価は40%以上も上がっている。混乱収束後の経営の立て直しに対する期待感からだろうか。このような点から、混乱が続く中でも投資家からの東芝への期待感は、消えていないことを思わせる。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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