企業の成長ステージ「シリーズa」とは?名称の由来は?
(画像=Worawut/stock.adobe.com)
中村 太郎
中村 太郎(なかむら・たろう)
税理士・税理士事務所所長。中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

ベンチャー企業の場合、ベンチャーキャピタルなどの投資家から資金調達をする選択肢がある。このとき知っておきたいのが、投資ラウンドのシリーズaだ。この記事では、シリーズaの定義や由来、バリュエーションの目安などを解説する。

目次

  1. シリーズaとは
    1. シリーズaの定義
    2. シリーズaの由来
  2. シリーズaにおける資金調達の方法
    1. 種類株式の種類
  3. シリーズaに投資する投資家の種類
  4. ベンチャー企業に投資する投資家のメリット
    1. オープンイノベーション促進税制とは
    2. オープンイノベーション促進税制の利用条件
    3. オープンイノベーションの要件
  5. 投資契約が成長を阻害しないように注意

シリーズaとは

シリーズaとは、ベンチャー企業の投資ラウンドの一つである。投資ラウンドとは、企業の成長ステージのことだ。

シリコンバレー発祥の考え方で、投資家が企業に対する投資額を決める際の判断材料になる。

ベンチャー企業の経営者が資金調達を行う場合、シリーズaなどの投資ラウンドを知ることによって、資金調達できる金額やタイミングを計る。

バリュエーションとは企業の評価額である。バリュエーションが高い企業ほど、資金調達可能額のスケールも増してくる。

シリーズaの定義

シリーズaを含む投資ラウンドは以下の4つに分かれる。

資金調達に関するシリーズaとは?定義や由来、バリュエーションなどを解説

シリーズaを始めとする投資ラウンドの定義はさまざまだが、おおむねシリーズaの定義はProduct Market Fitを達成している段階である。

企業の成長といえば売上高や時価総額などが考えられるが、ベンチャー企業の投資ラウンドでは、Product Market FitやUnit Economicsという状態の達成が目安とされている。

Product Market Fitとは、企業の提供する商品やサービスが市場で支持されている状態をいう。顧客の数は多くなくても、一部の顧客に刺さっている状態だ。

Unit Economicsとは、顧客一人から獲得できる収入が顧客一人の獲得コストを上回る状態をいう。

Product Market Fitが得られても、Unit Economicsを達成していなければ、いくら顧客の数を増やしても利益を伸ばせない。

シリーズaの由来

ベンチャー企業の投資ラウンドは、ほかにもシード期やアーリー期、ミドル期、レイト期として分類されることもある。

シード期については共通しているが、シリーズaの由来は何なのだろう。

シリーズa以降は、シード期よりも多くの資金を必要とするため、資金調達の方法が種類株式の発行となるのが一般的だ。

このとき、1回目の資金調達はA種優先株式、2回目はB種優先株式というように、アルファベットを名称に含む種類株式を発行することが多い。

つまり、種類株式のアルファベットがシリーズaの由来となっている。

なお、投資ラウンドのおおまかな理解としては、シリーズaがアーリー期、シリーズbがミドル期にあたると考えてよいが、アーリー期であってもA種優先株式を発行しないことはもちろんある。

シリーズaにおける資金調達の方法

シリーズa以降の資金調達は、種類株式の発行によって行われるのが一般的となる。

種類株式とは、通常の株式とは異なる権利や条件を付けて発行できる株式である。権利や条件を付けられる事項に関しては、会社法で決められている。

種類株式の種類

ベンチャー企業が投資家から資金調達をするときに活用されやすい種類株式は、下記の通りだ。

・通常の株式よりも有利な条件で配当や残余財産の分配を受けられる株式
・上場時などに普通株式に転換できる転換請求権が付いている株式や、転換についての条項が定められた株式

投資家にとって有利な条件で株式を発行することによって、リスクの高いベンチャー企業への投資メリットを拡大し、高額な資金調達を可能としている。

シリーズaに投資する投資家の種類

ベンチャー企業に投資する投資家は主に下記の三者である。

➀ベンチャーキャピタル(VC)
➁コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)
➂エンジェル

シード期では必要な資金が少ないため、個人投資家であるエンジェルから投資を受けることが多い。シリーズa以降は種類株式の発行によって、ベンチャーキャピタルやコーポレート・ベンチャーキャピタルから資金調達を行うことが多くなる。

ベンチャーキャピタルとは、高い成長が予期される未上場企業に出資する投資ファンドだ。コーポレート・ベンチャーキャピタルとは、事業会社が運用するベンチャーキャピタルである。

ベンチャー企業に投資する投資家のメリット

ベンチャー企業の経営者として資金調達を検討する場合、投資によって得られるメリットを知ることも大切である。

まず、投資先であるベンチャー企業が事業を成功させたとき、株式の売却や配当によるキャピタルゲインを得られる。

しかしそれ以外にも、投資側企業の法人税等を節税できる場合がある。たとえば、オープンイノベーション促進税制を適用するときだ。

オープンイノベーション促進税制とは

オープンイノベーション促進税制とは、株式会社等からスタートアップ企業への投資を促進する税制である。

令和2年度税制改正で創設された税制で、令和4年3月31日までにスタートアップ企業の新規発行株式を一定額以上取得したとき、その株式の取得価額における最大25%の控除が受けられる。

ここでいう控除とは、経費と考えていただいて差し支えない。税金から直接引くのではなく、収益から引いて節税するタイプの所得控除である。

オープンイノベーション促進税制の利用条件

オープンイノベーション促進税制の適用を受けるには、投資される企業と投資する企業のそれぞれに条件がある。

【投資される企業の主な条件】

・株式会社である
・設立10年未満である
・未上場である
・事業を開始している
・対象法人とのオープンイノベーションを行っている(または行う予定である)
・一つの法人グループが株式の過半数を有していない
・法人以外の者(LPS、民法上の組合、個人など)が1/3超の株式を持つ

【投資する企業の主な条件】

細かい条件が多く設けられているが、投資される側が知っておいて損はない条件をピックアップした。

・最低投資金額がある
→投資家が大企業:1件あたり1億円以上
→投資家が中小企業:1件あたり1,000万円以上
→上記未満の投資:適用できない

・所得控除の上限は1件あたり25億円

・コーポレート・ベンチャーキャピタルを通じた投資でもよい →その会社からの出資比率が50%を超えるコーポレート・ベンチャーキャピタルからの投資であっても対象となる
→ベンチャーキャピタルは対象にならない
・取得した株式は5年以上の継続保有を見込むものである
→5年以上の継続保有を達成できないまま売却した場合、その分の取得価額が益金になってしまう
→5年間、途中で必要な条件を満たさなくなった場合も同様
・M&Aも対象になる場合がある

・スタートアップ企業とオープンイノベーションを目指す

オープンイノベーションの要件

「スタートアップ企業とオープンイノベーションを目指す」という利用条件があったが、オープンイノベーションについても要件がある。

まず税法上は、投資する側・投資される側が共同して特定事業活動を行うことが条件とされている。

「特定事業活動」とは、「自らの経営資源以外の経営資源を活用し、高い生産性が見込まれる事業を行うこと又は新たな事業の開拓を行うことを目指した事業活動」とされる。

引用:産業力強化法第2条第20項(e-Govポータル)

これについては企業や税務署が判断するのではなく、経済産業省の証明をもって判断する。

したがって、投資前に経済産業省に事前相談を行い、オープンイノベーションの要件を満たすことを確認しなければならない。

経済産業省によると、オープンイノベーションの要件は下記の3点だ。文中の「対象法人」とは「投資する側の企業」である。

➀ 対象法人が、高い生産性が見込まれる事業または新たな事業の開拓を目指した事業活動を行うこと
➁ ➀の事業活動において活用するスタートアップ企業の経営資源が、対象法人にとって不足するもの、かつ革新的なものであること
➂ ➀の事業活動の実施にあたり、対象法人からスタートアップ企業にも必要な協力を行い、その協力がスタートアップ企業の成長に貢献するものであること

引用:オープンイノベーション促進税制について(経済産業省)

投資契約が成長を阻害しないように注意

シリーズaについて、定義や由来、資金調達額の目安などを解説した。シリーズa以降に投資家から資金調達をする際は、投資家との間で投資契約を結ぶのが一般的となる。

契約内容は投資家ごとに異なり、経済産業省でも留意事項をまとめている。必要な資金を獲得するには、手段を選べない状況もあるかも知れないが、投資契約が成長の阻害要因になることもあり得る。

投資家からの資金調達時は専門家に相談し、長期的な観点から適切な方法を模索しなければならない。

文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)

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