所得税の徴収方法として源泉徴収がある。さまざまな所得に対して源泉徴収が行われるので、正しい納税のために理解が不可欠だ。今回は、源泉徴収される対象者の視点から、源泉所得税の税額や対応方法などを説明する。源泉徴収の基本を理解したい方はぜひ参考にしてほしい。
目次
所得税の源泉徴収とは?
そもそも所得税は、1年間で発生した所得に対して本人が支払う税金である。
源泉徴収とは、法律で定まった収入について支払う側があらかじめその一部を税金の前払いとして差し引き、受取り側に代わって税務署に納める行為をさす。源泉徴収で支払われる税金を源泉所得税という。
原則として、源泉徴収された側は確定申告などで税金の清算を行い、追加の税金を収めたり納めすぎた税金の還付を受けたりする。
源泉所得税は、預金利息や配当金、退職金など、さまざまな所得に対して発生する。
預金利息に課される所得税の源泉徴収
預金利息に対して所得税が課せられる。この税金は支払いの際に銀行が源泉徴収する。
税額
利息に課せられる税金は、所得税が15.315%(復興特別所得税込)、地方税が5%の合計20.315%だ。例外もあり、納税準備預金の利息は原則として無税だ。
対応
源泉徴収された個人は何もする必要はない。預金利息の税金は、原則として源泉徴収のみで完結するからである。
配当金に課される所得税の源泉徴収
株式や出資金の配当金を受け取った場合は、その配当に応じた金額について源泉徴収される。
税額
株式などが上場しているかどうかで税額は異なる。
上場株式の場合、所得税が15.315%(復興特別所得税込)、住民税が5%と定められている。
ただし、発行済株式総数などの3%以上に相当する数または金額を持っている個人(大口株主)は、非上場株式と同じ税率が課せられ、所得税のみ20.42%(復興特別所得税込)である。
対応
【パターン1.確定申告不要】
まず、上場株式などの場合は源泉徴収のみで完結することがある。そうでない場合、1回の支払金額が10万円×配当計算期間の月数÷12以下であれば、確定申告は必要ない。
【パターン2.総合課税】
総合課税の確定申告時に配当金を申告する方法がある。つまり、給与などと一緒に税金を計算するパターンだ。
総合課税によって、税率が源泉徴収時の15.315%よりも高くなる場合がある。しかし、配当金を総合課税にした場合は、最大で配当の10%にあたる税額控除(配当控除)があるため、源泉徴収のときよりもトータルの税額が少なくなるケースが見受けられる。
また、配当目的で株式などを買った際に借り入れを行った場合、借入金の利息については配当所得から控除できる。そのため、控除した利息に相当する税金を実質的に返金してもらうことも可能だ。
【パターン3.分離課税】
株式の譲渡損がある場合、申告分離課税として申告すれば、株式の譲渡損と配当所得を相殺できる。結果、源泉徴収された税金の一部を返金してもらえる。ただし、総合課税を選択した場合に受けられる配当控除は受けられない。
【パターン4.住民税を別処理】
住民税は、所得税と別の処理を選択できる。所得税で選択した方法が、住民税において不利になることがあるためだ。そのため、所得税は総合課税を選択し、住民税は源泉徴収で済ませるケースが多く見受けられる。
その場合の手続きは市区町村によって異なるため、最寄りの役所にお問い合わせいただきたい。
給与に課される所得税の源泉徴収
会社から支給される役員報酬・給与についても源泉所得税が課せられる。
税額
税額は、以下の4つの要素をベースに税額表から求める。
・甲欄、乙欄、丙欄の区分
・給与の支払間隔
・扶養に入れている人の数(甲欄のみ)
・社会保険料控除後の支給額
甲欄・乙欄・丙欄の適用は以下のように決まる
給与の支払間隔によって、甲欄や乙欄のそれぞれについて、日額表や月額表を選んで使う。
扶養に入れている人数は、所得税上の配偶者控除や扶養控除の対象人数のみだけではない。障害者の人数や、ひとり親や寡婦などの立場についても考慮する。
最終的には、社会保険料を控除したあとの支給額で、源泉徴収される金額が決まる。
対応
給与に関する源泉所得税の清算方法は、年末調整と確定申告である。
通常、収入が給与のみであれば、年末調整のみで完結する。会社の担当者に必要書類を提出して所得税の清算を行う。具体的な書類は、前職の源泉徴収票、生命保険の証明書、2年目以降であれば住宅ローン関連の資料などだ。
また、住宅ローンを適用する最初の年である場合や医療費控除があるときなど、年末調整では対処できないこともある。そのときは確定申告を行い、源泉所得税の清算を行う。
退職金に課される所得税の源泉徴収
退職金も源泉徴収の対象だ。退職金が支払われた場合は退職所得とされ、これに一定の税金が課せられる。
税額
一般的に退職時には「退職所得の受給に関する申告書」を提出し、その有無で退職金の源泉税額が異なる。
【退職所得の受給に関する申告書がある場合】
退職所得の金額は、退職金等として支払われた金額から、勤務年数に応じて計算される控除額を控除した後、2分の1にして求める。その退職所得に税率をかけて源泉税額を決める。
ただし、4年前までの期間に別途受け取った退職金などがある場合、一定の調整を加える。また、役員として勤務した期間が5年以下である場合、最後の2分の1は行わない。
【退職所得の受給に関する申告書がない場合】
退職金の支給額に対して20.42%の税率が課された金額を源泉所得税とする。
【地方税について】
退職所得に対して都道府県民税、市区町村税が課される。税率は、都道府県民税が4%、市区町村税が6%である。
対応
通常、退職所得は源泉徴収のみで終了するため、確定申告の必要はない。ただし、ほかの所得と相殺が必要な場合、確定申告の必要がある。
また、「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合、本来よりも多くの源泉所得税が差し引かれるので、確定申告によって清算する。
個人の報酬に課される所得税の源泉徴収
個人に対する報酬のうち、源泉徴収される主な報酬の例は以下の通りだ。
・士業の業務に対する報酬
・原稿料や講演料
・経営コンサルタントの報酬
・競馬の賞金
税額
士業の業務における報酬の税率は、基本的に100万円以下に対しては10.21%、100万円超に対しては20.42%である。
原稿料や講演料、経営コンサルタントの報酬の税率も、100万円以下に対しては10.21%、100万円超に対しては20.42%である。
また、競馬の賞金に対する税率は、賞金の20%と60万円の合計を控除した後の金額に対して10.21%である。
対応
受け取り側は原則として、確定申告で係る収入を雑所得または事業所得として申告して源泉所得税を清算する。
事業所得の場合、帳簿類を作成して収入や経費について記録を付ける。
非居住者の利益に課される所得税の源泉徴収
非居住者(外国に居住している人)に支払う金銭についても、源泉所得税が発生する。国内では源泉徴収しない金額のうち主な所得の例は以下の通りだ。
・不動産の譲渡による収入
・不動産の賃貸による収入
・国内において行う人的役務の報酬
税額
【不動産の譲渡による収入】
日本に不動産を残したまま外国に出た後に、日本国内の不動産を売却した場合、売却額に対して10.21%の源泉所得税が課せられる。
日本の不動産取引の慣例上、固定資産税や都市計画税の支払額の清算も行われる。このときに取引される金銭も、売却額の一部として源泉徴収の対象となる。
ただし買い主が個人で、自己または家族が居住するために購入し、価格が1億円以下であれば源泉徴収は不要である。
【不動産の賃貸による収入】
日本に不動産を残したまま外国に出るが、その不動産を人に貸すなどして賃料を得ることもある。この場合も原則として、賃料の20.42%の源泉所得税が課せられる。
ただし借り主が個人であり、目的が借り主や家族の居住用なら、源泉徴収は不要となる。
【人的役務の報酬】
外国に住んでいる人が来日して、人的役務を提供することがある。たとえば、プロスポーツ選手や士業の提供などであり、活動によって日本の事業者から収入を得ることもある。
日本に住んでいる人であれば源泉徴収が不要でも、外国に住んでいる人であれば20.42%の源泉所得税が課せられる。
対応
源泉徴収された側は、日本に住んでいる人と同様に確定申告をする。確定申告の時期は日本に住んでいる人と同じだ。
ただし日本国内において、申告書の提出や税務署等とのやり取りを代理する納税管理人を立て、税務署に届け出る必要がある。
所得税の源泉徴収は適切に対応!
以上、所得税の源泉徴収について概要をお伝えした。さまざまなケースに置いて源泉所得税が課される場合があるとおわかりいただけただろう。ただ、適切な対応を取れば源泉所得税を還付してもらえるケースも多い。したがって、源泉徴収のルールを正しく見極めることが大切だ。
文・中川崇(公認会計士・税理士)