富裕層のバランスシートを最も毀損するライフイベントのひとつが「相続」だ。そのため、ほとんどの富裕層にとって相続対策は大きな関心であり、同時に課題となる。今回は、富裕層の相続対策にスポットを当てて、全3回の特集をお届けする。

富裕層にのしかかる相続税の歴史 過去は最高税率75%?
(画像=PIXTA、ZUU online)

「三代で財産がなくなる」と言われる日本の相続税

日本は、少なくとも税金面から見ると、富裕層に厳しい国と言える。例えば、固定資産税は、特定の資産(固定資産)を持つと徴税される税金だ。もちろんマス層が固定資産を持っても徴税対象になるが、基本的には資産家(富裕層)に対する税金と言えるだろう。

さらに富裕層を悩ませるのが相続税だ。相続財産が2億円以下の場合は40%、3億円以下の場合は45%、6億円以下の場合は50%、6億円超の場合は55%が課される。税率区分は以下を参照頂きたい(出典:国税庁)。 多くの富裕層は、相続が発生する度に財産の半分前後を税金で持っていかれてしまうというわけだ。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

「三代で財産がなくなる」という言葉もあながち間違いではない。最高税率に該当する資産規模の富裕層ファミリーに2回相続が発生(=三代に渡って富が継承)し、その間、資産増加が全くなかったと仮定すると、控除額を除く単純計算で(1−0.55)×(1−0.55)=0.2025だ(あくまでイメージであり、全財産に最高税率が適用されるわけではない。下記も同様)。

純資産30億円を誇る超富裕層ファミリーであっても、短期間に相続が2回発生すると、純資産6億円ほどまで落ち込む可能性があるというわけだ。それでも世間一般では十分な富裕層だが、30億円の栄光を知る人からすれば、ストレスが多い水準だろう。

相続税の誕生と役割

日本もかつては相続税という税金は存在していなかった。相続税が誕生したのは1905年で、日露戦争の戦費調達のために徴税が始まった。当初は戦費調達の臨時的な措置とされたが、日露戦争後も廃止されることはなかった。日露戦争でロシアから賠償金を取れなかったことが原因と言われている。

相続税の役割は大きく分けて「富の再配分」と「所得税の補完」の2つだ。前者はその名の通り、富裕層の富を他の国民に再配分することだ。相続財産は相続人からすると不労所得であり、相続税がないと貧富の差が拡大して、社会活動がゆらぎかねない。国が強制的に再分配を行うことで、持続的な社会活動を継続できるというわけだ。

後者は含み益を例に出すと想像しやすいだろう。含み益がある株式を売却せずに相続人に相続された場合、相続税がないと国は税金を徴収できない。ひいては富の再分配が実行できない。株式以外の資産にも当てはまるが、生前に徴収できなかった所得税(資産増加分への徴税)を相続時に行うというわけだ。

相続増税となった平成25年度改正

現在の税率の歴史は比較的浅い。平成25年度の税制改正で定められ、実際に適用されたのは平成27年1月1日以降だ。それまでは以下のような税率であった(便宜上、富裕層に関係する税率区分のみ表示。以後同様)。1億円以下の税率は現状と変わらない30%であるものの、それ以上の資産を持つ富裕層にとっては、以前の税率のほうが有利だったことが分かる。

1億円以下 30%(5,000万円以下は別税率)
3億円以下 40%
3億円超  50%

また、平成25年度改正では基礎控除も縮小された。詳細は以下の通りだ。基礎控除が減るということは、課税される金額が増えるため、納税額の負担が増えることになる。法定相続人の数にもよるが、定額控除が2,000万円縮小されており、特に資産数億円クラスまでの「ちょっとした富裕層」の負担感が増したことが予想される。資産数十億円クラスの超富裕層にとっては、これくらいの金額であると、相対的にインパクトは少ないためだ。

<現状>
定額控除3,000万円+法定相続人数比例控除600万円×法定相続人の数

<平成26年12月31日まで>
定額控除5,000万円+法定相続人数比例控除1,000万円×法定相続人の数

この平成25年度改正が発表されたとき、筆者はまだ野村證券の営業マンであった。この改正について解説したパンフレットを持って、「ちょっとした富裕層」たちへ相続対策の提案に回っていたことをよく覚えている。

過去は「最高税率70%」が一般的

では、今日の相続税率は、過去最悪と言える負担水準なのだろうか。実は、過去は今以上の税率が課せられていた時期もあった。財務省が発表している「相続税の主な改正の内容」を確認してみよう。

<抜本改正前>
基礎控除(定額控除)2,000万円
基礎控除(法定相続人比例控除)400万円×法定相続人の数
2億5,000万円以下 65%(1億8,000万円以下は別税率)
5億円以下 70%
5億円以上 75%

<抜本改正(昭和63年12月)>
基礎控除(定額控除)4,000万円
基礎控除(法定相続人比例控除)800万円×法定相続人の数
2億5,000万円以下 60%(2億円以下は別税率)
5億円以下 65%
5億円以上 70%

<平成4年度改正>
基礎控除(定額控除)4,800万円
基礎控除(法定相続人比例控除)950万円×法定相続人の数
4億5,000万円以下 60%(3億5,000万円以下は別税率)
10億円以下 65%
10億円以上 70%

<平成6年度改正>
基礎控除(定額控除)5,000万円
基礎控除(法定相続人比例控除)1,000万円×法定相続人の数
4億円以下 50%(2億円以下は別税率)
20億円以下 60%
20億円以上 70%

なお、前述の「最高税率は3億円超の50%」となったのは平成15年1月以降だ。このように、昭和62年以前の抜本改正前までは、相続財産5億円超には75%という高い税率がかけられていた。

さらに、つい最近まで「最高税率は70%」は一般的であった。経済情勢、他の税金の負担水準などが異なるので、一概には言えないものの、現在の最高税率55%は、過去の水準からすると決して高くはないと言えるだろう。

今後のさらなる相続税増税もあり得る?

確かに、諸外国のなかには相続税がゼロの国もある。しかし、近年は海外移住による相続税節税の包囲網は強化されており(違法ではない。詳細は第3回を参照)、そもそも多くの人にとって、海外移住は簡単に決断できるものではない。いくら相続税を大きく減らすことができたとしても、住み慣れた場所を放棄して、異国の地で生涯を終える気概がある人はそう多くないだろう。

つまり、相続税は逃げ場が限られている。また、多額の相続税が課されるような人は少数なので、国民からの反発も受けづらい。国として「税率を上げやすいのは相続税」と考えていても不思議ではないだろう。

これが法人税であればそうはいかない。グローバル化が進む昨今、企業は簡単に国境を越えてしまうので、法人税増税を進める国は敬遠されてしまい、国力の低下に繋がる。

加えて、過去の税率に比べては、今日の税率は相対的に低いとも言える。状況証拠を並べると、富裕層は今後のさらなる相続税増税に身構える必要があるのかもしれない。

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