外部に報酬を支払った場合、源泉徴収をすることがある。源泉徴収すべき報酬の種類は意外と多い。そのため、必要に応じて源泉徴収の必要性を調べなければならない。今回は、源泉所得税を控除する側の視点から、源泉徴収の対象者や税額の計算方法を解説する。
目次
源泉徴収が必要な4つの対象者
事業を行うとき、多くの人や会社と関わり合いを持つ。その際、報酬や料金などの支払いで源泉徴収を行うことが多く、税務署などに納付する必要がある。まず、源泉徴収が必要な対象者を4つ説明する。
対象者1.役員や従業員
役員や従業員に対して金銭を支払っている場合、源泉徴収を行う。所得税法では、以下の金額を源泉徴収するように求められている。
・給与
・賞与
・退職金
対象者2.資金提供者
株主に対する配当金の支払い時に、源泉徴収が求められている。そのほか、債券を発行した場合にも、利息の支払い時に源泉徴収しなければならない。
対象者3.国内の取引先
士業の業務に対して源泉徴収することが求められることが多い。また、個人に対する原稿料や講演料の支払いにも源泉が必要である。
対象者4.非居住者
非居住者(日本国内に住んでいない人)に対しては、国内の取引先に比べて源泉徴収が必要なケースが多い。
主なケースは以下の通りである。
・家賃の支払い
・報酬の支払い
・不動産の購入
給与の源泉徴収に関する計算方法
給与の源泉所得税は以下のポイントをもとにして計算する。
・給与の種類や支払間隔
・所得控除の中身
・社会保険料の控除
ポイント1.給与の種類や支払間隔
給与の源泉徴収は5つの表を利用し、それらは2つの視点で分けられる。
まず、メインの給与、副収入、日雇い給与などの基準によって、甲欄・乙欄・丙欄の3つに分けられる。
甲欄と乙欄を決める要素は、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出しているかいないかだ。提出している場合は甲欄であり、提出していない場合は乙欄である。なお、「給与所得者の扶養控除等申告書」は同時期に1箇所しか提出できない。
次に、支払間隔によって月額表と日額表に分けられる。なお、丙欄は日額表のみだ。ほとんどの会社は月給で支払っているため、甲欄の月額表か乙欄の月額表を用いる。
ポイント2.所得控除の中身
甲欄のみであるが、所得控除の内容も源泉税額に加味する。原則として配偶者控除、配偶者特別控除(38万円の控除が受けられる場合)、扶養控除の対象者について人数を数える。
そのほか、障害者がいる場合も人数を加算する。障害者の扶養控除対象者が1人いる場合、2名としてカウントされる仕組みだ。
また、自分がひとり親や寡婦である場合、勤労学生である場合も、1人としてカウントされる。
ポイント3.社会保険料の控除
給与金額は、健康保険料や厚生年金保険料など、社会保険料を引いた後の金額を用いる。
一定の金額までの通勤手当や出張のために支払われる金品のうち、通常必要なものなどはこの計算上における給与から除外される。
退職金の源泉徴収に関する計算方法
退職金が支払われるときは、一般的に所得税や住民税が源泉徴収される。それぞれの源泉徴収税額の計算方法を解説していく。
所得税
所得税の計算方法は、「退職所得の受給に関する申告書」の提出状況によって異なる。
【退職所得の受給に関する申告書を提出している場合】
①以下の表にもとづき勤務年数に応じた控除額を決める。
※退職原因が障害者となったことであれば100万円加算する。
②退職金から①で求めた控除額を引く。
③ ②の金額を2で割る。
※ただし、会社役員や議員、公務員で勤続年数が5年以下の場合、この計算は行わない。
④千円未満の端数を切り捨て、課税退職所得金額を決定する
⑤以下の表にもとづき、課税退職所得金額に税率をかけ、控除額を引いて源泉徴収税額を求める。
※復興特別所得税として最終的な税額に2.1%が上乗せされる。
【退職所得の受給に関する申告書を提出していない場合】
源泉徴収税額の計算式は以下の通りだ。
源泉徴収税額=退職金×20.42%
住民税
源泉徴収税額の計算方法は以下の通りだ。
源泉徴収税額=課税退職所得金額×10%
なお、課税退職所得金額については、所得税のケースと同じ計算方法で求める。
※内訳は都道府県民税が4%、市区町村民税が6%
さまざまな収入に関する源泉徴収税額の計算方法
身近な給与や退職金の支払い以外にも、源泉徴収が必要となる場合が多い。そのほかの収入に関する源泉徴収税額の計算方法も確認してみよう。
原稿料やデザイン費用など
会社が原稿やイラスト、写真、デザインなどを個人に外注する場合、その報酬について源泉徴収が必要だ。
税率は、100万円まで10.21%、それを超える部分は20.42%である。源泉徴収税額を求める計算方法は以下の通りである。
士業の業務に対する報酬
士業に関する業務に対して報酬を支払う場合、源泉徴収が必要となる。たとえば、弁護士や公認会計士、税理士など、広く知られている士業の業務に対する報酬だ。
税率は100万円まで10.21%、それを超える部分は20.42%である。そのため、源泉徴収税額を求める計算方法は以下の通りである。
司法書士や家屋調査士、海事代理士の報酬は、計算方法がほかの士業と異なる。
源泉徴収税額を求める計算式は以下の通りだ。
源泉徴収税額=(支払金額-10,000円)×10.21%
なお、行政書士の報酬については源泉徴収が不要である。
非居住者の収入
非居住者(日本国外に住んでいる人)に報酬を支払う場合も、源泉徴収は必要となる。
ここで注意しなければならないのは、日本に住む人と同じ業務を行っても源泉税率が異なることだ。この場合、源泉税率は20.42%である。
たとえば、日本に住んでいる人が弁護士や公認会計士の業務を提供した場合、最低10.21%となる。しかし、非居住者の場合は20.42%となるので、非居住者の立場は重要なポイントといえよう。
近年は、海外からの不動産投資も多く見受けられ、借りた物件の貸出人が海外にいる人であることも少なくない。
貸出人が非居住者である場合も家賃を源泉徴収しなければならない。家賃の源泉税率は20.42%だ。ただし、賃借人本人やその家族が住む場合について源泉徴収は不要となる。
不動産を売却した相手が非居住者である場合も基本的に源泉徴収が必要となる。非居住者から物件を買った場合の源泉税率は、売買価格に対して10.21%である。
なお、計算の基礎となる売買価格の中には、固定資産税や都市計画税の清算金としてやり取りされる金額も含まれる。
配当金
会社を運営するにあたって支払う金銭として配当金がある。会社の方針で利益の全額を会社内に留保しない限り、ほとんどの場合で配当することになる。
配当金の税率は、配当する株式の上場・非上場、配当を受ける立場などで異なる。
源泉徴収税額の計算方法をまとめると以下の通りだ。
上場株式のうち、大株主ではない個人の場合のみ、住民税の源泉徴収が必要となる。
(*)発行済株式の総数等の3%以上に相当する数または金額の株式等を有する個人
源泉徴収税額を正確に計算して適切な納付を
企業が事業を行う際に登場する源泉徴収の内容や税率、計算方法などについて説明した。源泉徴収を行う場面は多種多様であることが再認識できただろう。認識が間違っていると、源泉漏れを起こす可能性がある。注意して源泉徴収することが肝心だ。
文・中川崇(公認会計士・税理士)