小泉環境相のコメントに着目する理由は2つあります。1つは環境対応が国の成長を大きく左右する局面で、環境省トップを務めていること。そしてもう1つは、次の首相候補者の環境対応の考え方に触れられること。小泉進次郎氏の最近のコメントから環境対応や再生可能エネルギーの次の流れを読みます。
小泉環境相は「次の首相候補者」調査で3 位
まず、小泉進次郎氏の基本情報を確認します。小泉進次郎氏が環境相(兼 内閣府特命担当大臣)のポジションに就いたのは2019年9月からです。このまま衆院解散が2021年秋以降になれば、約2年の就任期間になります。
小泉進次郎氏といえば、「次の首相候補者」に関するアンケートで上位に名を挙げられることの多い人物です。たとえば、日本経済新聞社が2021年7月に実施した世論調査では、小泉進次郎氏は次の政権の首相にふさわしい人物として3位のポジションでした。
1位 | 河野太郎 | 19% |
2位 | 石破 茂 | 19% |
3位 | 小泉進次郎 | 12% |
4位 | 安倍晋三 | 6% |
5位 | 菅義偉 | 5% |
次の首相になるかどうかは別として、小泉進次郎氏が将来的に首相になる可能性は十分あります。国政の政治家としては若い40歳ながらも当選回数4回を重ね、環境相に就任する前には、自民党青年局長、自民党筆頭副幹事長、厚生労働部会長などの党の重要な役職を歴任している実力者です。
ちなみに戦後、首相の座に就いた人物は34人いますが、そのうち4名は衆院当選回数5回で初就任しています。小泉進次郎氏が次の衆院選挙で当選すれば、当選回数は5回目となります。年齢を外せば、首相に就任してもおかしくないキャリアを備えています。
小泉環境相の環境対応や再エネ施策の注目コメント集
環境省では、小泉環境相の記者会見のコメントをテキストにして掲載しています。そのなかから直近の注目コメントを抜粋しました。
小泉環境相コメント1
「何が欠けているかというと、1つはカーボンプライシング、そしてもう1つは、欧米の規模と遜色ないようにする国としての意思を示す大規模な予算、投資」
(環境省・小泉大臣記者会見録 2021年7月16日付)
気候変動対策・脱炭素対策の予算規模を海外レベルにする必要性に触れた発言です。小泉環境相は環境関連の予算が足りていないとの立場を明確にしており、「そこの欠けている部分(予算規模が少ない部分)をどうやって埋めていくかというのは、ずっと訴えている」とも述べています。
実際に、海外と日本の環境関連の予算規模の差はどれくらいあるのでしょうか。この小泉環境相の発言の直前に出された日本経済新聞の記事では、下記のような大きな差があると解説しています。
アメリカ | EV普及19兆円 発電インフラ整備11兆円 |
---|---|
EU | 気候変動対策70兆円 水素開発投資(最大)60兆円 |
日本 | 脱炭素基金2兆円 洋上風力拡大800億円 水素発電700億円 |
国の予算配分や財源を大胆に見直して、環境関連の予算をどこまで増やせるか。これによって日本経済の将来の成長力は大きく変わってきそうです。そして、小泉環境相が次の組閣で再び、環境省のトップになれば予算見直しのキーマンになる可能性はあります。
小泉環境相コメント2
「今回、今後2030年に向けて一番安いのは太陽光だと。今まで一番安いのは原発だと、こういった前提が変わったことは画期的なことだと私は捉えています」
(環境省・小泉大臣記者会見録 2021年7月13日付)
この前日、経済産業省が「2030年時点のコストは原子力(1キロワット時:11円台後半以上)よりも太陽光発電(8円台前半~11円台後半)のほうが安くなる」という試算を示したことに対する発言です。
それまで再生可能エネルギーの普及を阻んできた壁は「再エネは、火力や原子力よりもコストが高い」「電気代が高くなると国際競争力がなくなる」というものでした。
経済産業省の試算により、「高コスト」という再エネ普及の大きな障壁がなくなる可能性が出てきたことを集約したのが上記の小泉大臣の発言です。この経済産業省の試算は、日本の電力コストの考え方のパラダイムシフトになりうるデータといえます。
小泉環境相コメント3
「太陽光は、一般家庭の屋根、企業の屋根、工場の屋根、ため池、ダム湖、耕作放棄地、そして営農型太陽光、さまざままだまだ使えるところはあります」
(環境省・小泉大臣記者会見録 2021年4月23日付)
上記は、東京テレビの記者に「再生可能エネルギーの中でも、リードタイムの短さという意味では太陽光が一番取りかかりやすいのか」と問われたときの回答の一部です。小泉環境相はリードタイムの短い再生可能エネルギーとして、太陽光発電と陸上の風力発電を挙げました。
そのうえで「太陽光発電の設置場所の候補地はまだまだある」ということを上記コメントで具体的に示しました。太陽光発電のネックとしては、「日本の国土が限られていること」「平地が少ないこと」などが挙げられますが、限られた国土だからこそ、小泉環境相が示すようにあらゆるスペースを使う発想が必要でしょう。
小泉環境相コメント4
「皆さんが不安に思うようなところに(メガソーラー)あることは、私は全くプラスだとは思いません」
(環境省・小泉大臣記者会見録 2021年7月6日付)
上記は2021年7月3日、静岡県熱海市で発生した土石流事故があった直後の小泉環境相のコメントです。小泉環境相は、事故の原因については静岡県での調査を「見守りたい」と述べる一方、毎年水害が起きている状況に対し、「ネガティブゾーニングが必要なところに躊躇(ちゅうちょ)なくやるべき」との考えを示しています。
ここで小泉大臣が使っている「ネガティブゾーニング」の意味は、災害リスクがあるため「ここはメガソーラーを建てるべきではない」という区域のことです。この発言前まで国は再生可能エネルギーが促進される区域である「ポジティブゾーニング」一辺倒でした。
今後、日本の再エネ区域は「ネガティブゾーニング」と「ポジティブゾーニング」の両軸で構成されていく公算が高くなりました。
小泉環境相コメント5
「(石炭火力発電は高効率でも)ものすごく小さなマーケットになっていくことは目に見えていますよね。いつまでそこに日本はしがみついて、やるんですか、という観点でいえば、今回は踏ん切りがつくきっかけになったんじゃないですか」
(環境省・小泉大臣記者会見録 2021年6月15日付)
このコメントは6月13日まで開催されたG7サミットの合意内容などを受けて、石炭火力発電がたとえ高効率なものでも輸出支援することが難しくなってきたことを示すものです。この小泉環境相の発言があった翌日、朝日新聞は「石炭火力の海外建設、高効率でも支援認めず/小泉環境相」と報じました。
まず前提として、石炭火力発電に対しては、高効率なものであれば輸出支援ができるという意見が菅政権内にも産業界にも根強くありました。しかし、G7サミットの合意内容などを踏まえて、小泉環境相は次のように述べています。「(二酸化炭素を)出すけど、出す量が今までよりも少ないですという日本の今までのコミュニケーションは、到底今年(2021年11月)のCOP26で通用するものではない」。
仮に、高効率な石炭火力発電を支援するとしても、今後は二酸化炭素を回収・利用・貯留できる「CCUS」設備が必要になると考えられます。ただ、CCUS設備は実用化されたケースがほとんどなく、仮に実用化されても高コストになると予想されることから、小泉環境相はたとえ高効率でも石炭火力発電所の輸出支援を今後認めないとの立場を明らかにしています。
ご興味のある人は環境省の小泉環境相のコメントページへ
小泉環境相の記者会見のコメントは、自身の考えをストレートにわかりやすく表すことが多いため読んでいて面白いですし、環境関連の勉強にもなります。記者会見の内容はテキストだけでなく動画(YouTube)でも配信されています。興味のある人は下記の環境省公式サイトにアクセスしてみてください。
環境省「大臣記者会見要旨」
※動画は各年月日の記者会見(例えば令和3年7月16日)のテキストの最後からアクセスできます。
(提供:Renergy Online)
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