静岡県熱海市で発生した土石流災害は、今後の太陽光発電設備の開発や立地選びに大きな影響を与える転換点です。太陽光発電を検討している、あるいは、すでに太陽光発電設備を所有している法人や事業主などは、土石流災害の概要とこの災害による今後の影響を把握しておくのが賢明です。
土石流災害の発生直後、原因として疑われた「太陽光発電設備」
はじめに、2021年7月3日、静岡県熱海市で発生した土石流災害の内容を改めて整理したいと思います。
大雨の影響で発生した土石流が襲ったのは熱海市の住宅街、伊豆山地区。この近くの市街地に造成された盛り土が標高400メートル地点から谷を下り、伊豆山地区を襲いながら海岸近くまで押し寄せました。被害を受けたのは122戸。2021年7月27日段階で死者22人、いまだ6人が行方不明であることから、この災害がいかに甚大だったかがわかります。
この土石流災害が起きた直後、発生原因あるいは災害を拡大させた原因として疑われたのは、土石流の起点近くの「盛り土」と「太陽光発電設備」でした。
盛り土については、静岡県の調査によって「条例で定める3倍超の高さ」まで積まれていたことがわかりました。条例では盛り土の高さを「原則15メートル」と定めていましたが、起点近くの盛り土は「約50メートル」だったと見られています。土の総量も届出をはるかに超える量ということがわかりました。
一方、太陽光発電設備について静岡県は調査の結果、施設周辺の斜面の崩落がなかったため、「土石流と直接の関係はみられない(NHKの報道より)」としています。ただし、太陽光発電と今回の土石流の因果関係については、政府も調査を進めています。直接的な関連性よりも、太陽光発電所付近の地形・地層・水脈に変化などを調査するとのことです。
土石流災害で「太陽光発電設備と災害リスク」がクローズアップされた
太陽光発電設備が土石流災害に“間接的に”影響を与えたのか。もし、与えたとしたらどの程度なのか。これらについては、専門家や国の詳細な調査の結果を待たなければなりません。しかし、どのような結論になるにしても、今回の土石流災害が「太陽光発電設備(および周辺開発)と災害リスク」をクローズアップするきっかけになったことには変わりありません。
土石流災害から数日後の記者会見で、赤羽一嘉国土交通相は全国の盛り土の総点検の必要性について言及。また、同日の小泉進次郎環境相の記者会見では、災害リスクのある区域(ネガティブゾーニング)での太陽光発電設備の設置を規制する可能性について触れられています。
ちなみに、現段階では災害リスクのある区域内での太陽光発電設備を規制する国の規制はありません。しかし、小泉環境相の発言を参考にすると、太陽光発電の設置場所について今後、国が規制する可能性が高いです。
一部の自治体では、盛り土や太陽光発電設備の周辺状況を点検することを災害直後に発表しています。熊本県では7月8日、県内にある土砂災害警戒区域の上流や太陽光発電設備の造成地周辺にリスクの高い盛り土がないか点検することを発表。点検対象の区域は1,012カ所にも及びます。点検が完了後にはその内容を周辺住民や事業者に公表。併せて、この情報をもとに市町村などと連携して避難体制の強化につなげたいとしています。
山梨県では、7月9日から土砂災害警戒区域の上流にある盛り土や太陽光発電設備の周辺など66カ所の点検に着手。太陽光発電設備周辺の擁壁(ようへき)の劣化などを確認したり、ドローンで周辺の渓流の状況をチェックしたりしています。
災害リスクのある太陽光発電が1,000カ所以上あることが判明
このような土砂災害区域にある太陽光発電設備の規制検討や点検が進むなか、7月18日にNHKから衝撃的な報道がありました。NHKが専門家の協力を得て全国の太陽光発電施設9,809カ所の立地を分析したところ、1,186カ所で土砂災害リスクが確認されたのです(中規模以上の施設が対象)。
この調査でいう「土砂災害リスク」とは、土砂災害が発生した場合に周辺の住宅や公共施設などに被害を与える可能性のある「土砂災害危険箇所」と太陽光発電施設が(一部でも)重なっている場所のことです。
なかでも避難対策が求められる「土砂災害警戒区域」にさしかかっている太陽光発電が843カ所、そのなかでもとくにリスクの高い「土砂災害特別警戒区域」にさしかかっている太陽光発電が249カ所もありました。
注意したいのは、この調査は「発電出力500kW以上」の中規模以上の太陽光発電施設を対象にしたものということです。小規模の太陽光発電施設を含めると、全国に無数の危険スポットがあることは間違いありません。
今後、太陽光発電設備の立地や工事をどう考えるべきか
最後にここまでの内容を踏まえて、太陽光発電を検討している、あるいは、すでに太陽光発電設備を所有されている法人や事業主が「今後、太陽光発電設備の立地や工事をどう考えればよいか」を考えていきます。
1つ目は、「太陽光発電設備を規制する法律や条例にアンテナを張ること」が求められます。熱海市の土砂災害をきっかけに、国の法律や自治体の条例が新たにつくられることが予想されます。
とくに意識したいのは自治体の新たな条例です。国の法律が新たにつくられれば大きく報道されるため、自然に目に留まる機会もあるでしょう。
一方、自治体の条例は意識しないと情報が得られません。2021年7月時点で4つの県と148市町村が災害リスクのある区域での太陽光発電設備などの設置を規制しています。この数が増加する可能性が高いため、太陽光発電設置を考えるのであれば、対象区域の条例の最新情報を確認することをおすすめします。
2つ目は、「太陽光発電設備の周辺住民への丁寧な説明責任」が求められます。熱海市の土石流災害は、(それが災害の直接的な原因でないとしても)「太陽光発電の周辺では災害リスクがある」というイメージを拡散しました。周辺住民とトラブルにならないよう、災害リスクの高い区域はもちろん、災害リスクの低い区域に太陽光発電を設置する場合でも「安全に配慮していること」を周辺住民に丁寧にアナウンスする必要があります。
ご参考までに、2021年8月に投開票が行われる長野県諏訪郡富士見町の町長選挙では、立候補予定の現職と前副知事に対して、住人団体がメガソーラーに対するそれぞれの考えを確認するため公開質問状を送ったことを朝日新聞デジタル(2021年7月27日付)が大きく報じています。それだけ太陽光施設の安全性に世の中は敏感になっているということです。
そして3つ目としては、「太陽光発電設備の安全意識の高い業者選び」が求められます。「国や自治体の規制」と「災害リスクを軽減する立地選びと施工方法」を知り尽くし、それを遵守する業者をパートナーに選ぶことがマストです。
太陽光発電の規制や条例の強化は設備所有者にとってもプラス
今回の静岡県熱海市の土石流災害は、太陽光発電設備を検討している法人や事業主などにとって「規制する法律や条例が増える」「周辺住民の反対が増える」などの影響が考えられるためマイナスに感じられるかもしれません。
しかし中長期的に見ると、太陽光発電の規制の強化は設備所有者にとってプラスです。なぜなら、災害による太陽光発電設備の損壊リスクを軽減して安定経営をしやすい環境を実現できるからです。その意味で、太陽光発電の災害リスクとしっかり向き合っていくことが賢明といえます。
(提供:Renergy Online)
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