世界でコーポレートPPAの導入が拡大しています。一方で、日本では海外に比べてコーポレートPPAの普及が出遅れています。どのような事情があるのでしょうか。世界でコーポレートPPAが拡大している背景と、日本が抱える課題や国が促進している政策について紹介します。
なぜコーポレートPPAが増えているのか
コーポレートPPAとは、企業や自治体などの法人がPPA事業者(発電事業者)から自然エネルギー(再生可能エネルギー)の電力を通常10~25年の長期で購入する契約のことをいいます。
日本では、これまで太陽光発電事業者はFIT(再生可能エネルギーの固定価格買取)制度を利用して、大手電力会社へ売電して収入を得ていました。
しかし、いち早く自由化されている海外では卸電力市場のマーケット整備が進んでおり、従来からあった電力会社との長期間のPPA締結からFIP(フィード・イン・プレミアム)制度などによる市場メカニズムに移行しています。
FIT制度では買取価格が一定でいつ売電しても同じ収入を得られていました。ところが、FIP制度は補助額(プレミアム)が一定で、収入は市場価格に連動するため、収入が常に変動するリスクがあります。
そこで、特定の法人と長期で契約を結んだ方が安定した収入を確保しやすいという理由で、海外ではコーポレートPPAを検討する発電事業者が増える傾向にあります。これが発電事業者側からみたコーポレートPPAが増えている理由です。
世界で拡大しているコーポレートPPA
では、法人側の事情はどうでしょうか。世界でコーポレートPPAが拡大している背景には2つの理由があります。1つは気候変動問題に対する世界的な危機意識の高まりです。温室効果ガスを排出する火力発電が中心の現状は、気候変動による自然災害のリスクを高めます。大型台風などの自然災害が起これば、住宅だけでなく企業の工場や周辺道路等にも大きな影響を与えかねません。
操業や配送に影響が出れば企業業績のマイナスにつながります。温室効果ガス削減のためには再生可能エネルギーの拡大が必須ということが世界企業共通の認識になりつつあります。
2つめの理由は発電コストの問題です。自然エネルギー財団の「コーポレートPPA実践ガイドブック」によると、2010年以降太陽光の発電コストは急速に低下し、2019年の時点で電源別で太陽光が最も安くなっています。
グラフにあるように2010年の時点では太陽光がダントツで高いコストでした。それがわずか3年後の2013年には原子力と逆転し、2019年になると太陽光が4セント/kWhに対し、原子力は15.5セント/kWhの発電コストがかかっています。電源別の潮流が原子力・化石燃料から太陽光・風力の再生可能エネルギーに移行していることが海外でコーポレートPPAが拡大する一因になっていると考えられます。
コーポレートPPAにはどんな種類があるか
コーポレートPPAには大きく分けて「フィジカルPPA」と「バーチャルPPA」の2種類があり、フィジカルはオンサイトPPAとオフサイトPPAに分けられます。それぞれの違いをみてみましょう。
1.フィジカルPPA
フィジカルとは「現実」という意味です。フィジカルPPAは、発電事業者が再生可能エネルギーの電力と、「CO2を排出しない効果」という環境価値(証書)をセットで供給する契約形態です。現実に電力を供給することからフィジカルPPAと呼ばれています。
1-1.オンサイトPPA
オンサイトPPAは、企業の敷地や屋根などに発電事業者が太陽光の発電設備を無償で設置し、発電した電力を企業に供給する仕組みです。企業は固定価格で電気料金を支払います。現地(オンサイト)で発電して現地で供給することからオンサイトPPAと呼ばれています。
1-2.オフサイトPPA
オフサイトPPAは、企業の敷地から離れた場所にある発電設備から、送配電ネットワークを経由して企業に電力を供給する仕組みです。固定価格の電気料金と、送配電ネットワークの使用料を支払います。企業の敷地外(オフサイト)で発電して供給することからオフサイトPPAと呼ばれています。
2.バーチャルPPA
バーチャルとは、フィジカルの反対で「仮想」という意味です。バーチャルPPAにおいて発電事業者は企業に電力を供給せず、卸電力市場で売却します。企業は今までどおり小売電気事業者から契約した価格で電力を購入し、発電した電力と同量の環境価値を得ることができます。
ただし、発電事業者が企業と契約した固定価格と市場価格に差額が生じるため、月ごとに差額を計算し、発電事業者と企業の間で精算するという仕組みです。発電所あるいは発電事業者と企業間が直接的に 電力を供給しないため、バーチャルPPAと呼ばれています。
日本のコーポレートPPAが抱える課題とは?
日本ではコーポレートPPAについて大きな課題を抱えています。電気事業法との関係で、登録している小売電気事業者しか需要家に販売できないという規制があるのです。つまり、発電事業者が企業と直接コーポレートPPAを結ぶことはできない決まりになっています。
ただし、小売電気事業者が仲介役になれば米国や欧州と同じようにコーポレートPPAを締結することができます。日本で可能なコーポレートPPAの契約形態は小売電気事業者を仲介したフィジカルPPAとバーチャルPPAということになります。
さて、このようなコーポレートPPAの課題に対し、経済産業省が1つの方向性を示したことが注目されています。資源エネルギー庁が作成した「分散型リソースの導入加速化に向けて」(2021年2月16日付)という資料のなかで、オフサイト型コーポレートPPAについて「再エネ発電事業者と需要家とが直接小売供給契約を締結できるようにすべきとの声が出てきているところ、再エネ導入を一層加速させる観点から、事業者や需要家の声も聞きつつ、課題を検討することとしてはどうか」との見解を示しています。
その方針を裏付けるように、2021年3月22日に行われた「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」において、オフサイト型コーポレートPPAについて容認する方向性を示しました。
将来を見据えた「コーポレートPPA」のあり方
資源エネルギー庁が作成した「需要家による再エネ活用推進のための環境整備」(2021年3月22日付)のなかで検討の方向性として、「カーボンニュートラル社会に向け、FIT/FIP制度に依存しない脱炭素電源の導入を促し、公平性・公正性・需要家保護を確保するため、自己託送制度に関し、一定の要件を満たすものについて、電事法第2条第1項第5号に規定する「密接な関係を有する」ことと新たに整理することにより、いわゆる「オフサイト型PPA」を可能とする方向性としてはどうか」と記載しています。
ただし、「自己託送により賦課金の徴収対象外となる電気を使用する者が増加し、その分他の電気の使用者の負担が増えてしまうこととなる」として、不公平な状態を生じさせるようなことは避けるべきではないか」と課題も提言しています。
日本のコーポレートPPAを促進する政策もある
コーポレートPPAを促進する政策も用意されています。2022年度から始まるFIP制度もその1つです。
自然エネルギー財団は「コーポレートPPA実践ガイドブック」のなかでFIP制度への移行について、「FIPでは発電事業者が環境価値を保有して売買できるようになる。従来のFITでは環境価値を国に移転しなければならない。FIPを適用できれば、発電事業者は電力と環境価値を小売電気事業者に販売して、小売電気事業者を通じて企業に供給できる。FITからFIPへ移行することに伴ってコーポレートPPAを締結しやすい状況が生まれる」とメリットを述べています。
財政面の支援では環境省が「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(PPA活用など再エネ価格低減等を通じた地域の再エネ主力化レジリエンス強化促進事業)」のうち「オフサイトコーポレートPPAによる太陽光発電供給モデル創出事業」を公募しています。
この事業は「長期的かつ低廉な価格の太陽光発電の供給を促進することを目的として、脱炭素化の促進に資するオフサイトコーポレートPPAにて太陽光発電による電力を供給する事業者に対して設備等導入支援を行うもの」(環境省見解)です。
令和3年度の公募はすでに終了していますが、令和4年以降も実施される可能性があるので、引き続き政府の促進策の行方を注視する必要があります。
世界で拡大するコーポレートPPAですが、これから日本でも本格的に導入が進むのか、発電事業者や契約する法人にとっても、より一層の規制緩和が期待されます。
(提供:Renergy Online )
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