これまではフードロス(食品廃棄)削減の取り組みを「社会貢献のために行う」と打ち出す企業や飲食店が目立ちました。しかし、最近ではフードロス削減を利用して競争力を高める戦略も見受けられます。「フードロス削減で競争力を高める」とは、どういうことでしょうか。3つの事例を通して解説します。

フードロス削減による競争力アップ3つの効果

フードロス削減で競争力を高める!宿泊業・飲食業・小売業の事例
(画像=keiu/stock.adobe.com)

フードロス(食品廃棄)削減によって競争力を高めるといったとき、具体的には次の3つの効果が考えられます。

  1. イメージアップ/ファン拡大
  2. 仕入れコスト削減
  3. 宣伝コスト削減

1. イメージアップ/ファン拡大
フードロス削減の取り組みは、社会貢献する企業や店舗のイメージづくりにプラスです。その結果、環境意識の高い層など今までと違う顧客層を開拓できます。

2. 仕入れコスト削減
飲食店などでは、廃棄される予定の食品を安く仕入れることもできます。ただし、困っている生産者や卸会社を買い叩くと、マイナスイメージになりかねないため留意したいところです。

3. 宣伝コスト削減
SDGsやサステナブルの意識が高まるなか、フードロス削減の企画や活動がメディアに取り上げられる機会が増えています。この流れを活かせば、中小企業や小さな店舗でも低予算で効率的な宣伝ができます。

上記のフードロス削減の効果によって、最終的に企業や店舗全体の利益率を高めることも可能でしょう。ここでは、フードロス削減によって競争力を高める宿泊業・飲食業・小売業の事例を紹介します。

事例1:ホテルニューオータニ東京/フードロス実質ゼロのフルコース

感度の高いタイプの富裕層や高額所得者は、環境意識の高い人も多いでしょう。そのため、ラグジュアリーホテルでフードロス削減に力を入れるのは有効です。この好例が、ホテルニューオータニ東京が2021年4月から始めた「フードロス実質ゼロ」をうたうフルコース企画です。

このフードロス実質ゼロフルコースは、ホテルニューオータニ東京と食品メーカーのミツカングループが「植物をまるごとぜんぶおいしく食べること」をコンセプトに開発したZENB(ゼンブ)シリーズとのコラボ企画となっています。

フルコースの中身を見てみましょう。冷製パスタでは、黄エンドウ豆100%でつくった「ゼンブ・ヌードル」を使用。この麺は、通常の食品製造では廃棄される皮・芯・さやなどを活かしてつくられたものです。

冷製パスタの注目点としては、「ゼンブ・ヌードル」を使ったことに加えて、ホテルニューオータニ特製の和出汁で仕上げたことも見逃せません。この和出汁は、190カ国の代表が集った「即位の礼晩餐会」で提供されたものです。

また、下記の前菜では野菜の皮や芯などを含む「ゼンブ・スティック」を使用。このスティック自体は、コーン・ビーツ・パプリカ・パンプキン・キャロット・ゴボウなど6種類ありますが、このうち3種類を砕いて相性の良い食材と組み合わせてカナッペに仕上げています。

メインディッシュやスイーツでは、皮・芯・種など丸ごとの野菜とオリーブオイルのみでつくられた「ゼンブ・ペースト」が使われています。

もともとホテルニューオータニ東京は、サステナブルやSDGsに積極的に取り組む風潮がありました。例えば、厨房排水から取り除かれた食品残渣を有機堆肥にして契約農家に販売。この農家がつくった農作物を買い取って従業員食堂などで利用しています。

大規模ホテルだけに1日当たりの厨房排水は約1,000トン、食品残渣は約5トンにも及びます。この資源の循環リサイクルシステムを同社では「グリーン・ニューオータニ」と呼んでいます。

ここでご紹介した、フードロス実質ゼロフルコースをホテルニューオータニ東京では、「サステナブルな社会を実現するための取組みの第一弾」と位置づけています。今後、同ホテルがどのようなサステナブル企画を打ち出すのか注目です。

事例2:海富道(MUGENグループ)/フードロス魚介でつくるラーメン

2021年5月、東京神田にオープンした「炭火焼濃厚中華そば 海富道(しーふーどう)」はフードロス削減をコンセプトにした、SDGs時代のラーメン店といえるでしょう。

海富道のメニューは魚介の5種類(サバ、イワシ、サケ、エビ、イカ)。これらのメニューは「コロナ禍による仕入れ量減少」など水産卸会社が飲食店に卸せなかった魚介類を活用したものです。このフードロス食材を余すことなく炭火で焼き、さらにペーストにしたものでラーメンのスープをつくっています。

ちなみに、下記が海風道のオープン直後に取り上げたメディアです(ごく一部)。フードロス削減というテーマがいかに注目されているかを感じさせます。

海富道を運営しているMUGENグループでは、このほかにも「サイズが規格外だから」「一般的な魚ではないから」などの理由で廃棄される魚を有効活用する居酒屋「築地もったいない プロジェクト 魚治(うおはる)」を東京丸の内で展開しています。

さらに、系列の居酒屋「俺の魚を食ってみろ!!西新宿店」では、2021年4月から始まった東京都まん延防止等重点措置適用の期間に、食材の売上が激減する生産者・豊洲仲卸応援企画として「エビ・寿司食べ放題」企画を実施しています。まさにフードロス削減を競争力に変える企業の典型といえるでしょう。

なお、株式会社MUGENの内山正宏社長は日本経済新聞の取材に対し、海富道のフードロス削減への取組について、水産資源の無駄を省けることに加えて、「水産卸とのつながりを強化できること」もメリットに挙げています。

事例3:ローソン/AIを活用して廃棄前商品の判断を効率化

コンビニの廃棄前商品の値引き販売は、いまや当たり前の光景になりつつあります。例えば、ローソンでは「国内店舗数の8割にあたる1万2,000店が値引き販売に取り組んでいる」(日本経済新聞2021年6月22日付)とのことです。

さらなる取り組みとしてローソンでは、AIを活用して店舗ごとに廃棄前商品(おにぎり、サンドイッチ、弁当など)の値引き金額や数を割り出し、従業員などにお知らせする仕組みを構築することを発表しています。2021年6月段階から実店舗で実証実験をスタート。2023年度中に1万4,000店での導入を目指しています。2021年2月時点のローソンの店舗数が14,476店ですから、実現すればほぼ全店での導入になります。

これまでコンビニの廃棄前商品の値引き販売は、従業員の経験則などに頼るケースが大半でした。必然的に、店舗ごとのフードロス削減効果には差が出てきます。商品廃棄の判断をAIに委ねることで効率的な廃棄が期待できます。

このローソンでの取り組みがうまくいき(あるいは、この発表を受けて)、全国に約5万6,000店舗あるコンビニ業界でAIによる商品廃棄の判断が広がればフードロス削減効果は絶大でしょう。併せて、コンビニの商品廃棄による損失の大半はオーナー負担というのが通例になっています。AIでフードロス削減が実現できれば、各店舗の利益率改善にも貢献します。

今はフードロス削減を競争力に変える絶好のタイミング

フードロス(食品廃棄)削減というキーワードや考え方は世の中に広がってきましたが、実際に取り組んでいる企業や飲食店は一部です。ましてや、「フードロス削減で競争力を高める」と全社で取り組んでいるのはごくわずかでしょう。

それを考えると、今はフードロス削減を競争力に変える企画や事業を立ち上げるのに絶好のタイミングといえます。フードロス削減をビジネスチャンスにするのであれば、このテーマの企画が飽和しない早いタイミングがベストです。

(提供:Renergy Online



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