2021年6月、セブン&アイ・ホールディングスとNTTグループが実現した「オフサイトPPA」の枠組みは、産業界の再生可能エネルギー利用の転換点になりうる出来事です。NTTの澤田純社長は「日本では誰も手がけていなかった仕組み(※)」とまで言及しています。

ただ、このプロジェクトのインパクトが世の中に伝わりきっていない感もあります。本稿では、このオフサイトPPAプロジェクトの有益性と可能性をわかりやすく伝えます。

※日本経済新聞2021年6月29日付

オフサイトPPAで100%再エネ使用の店舗を実現

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(画像=sitthiphong/stock.adobe.com)

今回のオフサイトPPAのプロジェクトは、NTTのグループ会社が千葉県の2カ所で新設した太陽光発電所の電力をセブン&アイ・ホールディングスの店舗にオフサイト(遠隔)で長期的に供給するものです。このプロジェクトを図にすると、下記のようになります。

2カ所ある発電所のうち、千葉若葉太陽光発電所は2021年6月から運用を開始。セブンイレブン40店舗に再生可能100%エネルギーを供給します。もう1つの香取岩部太陽光発電所は2022年1月からの運用開始。アリオ亀有に再生可能100%エネルギーを供給します。

なお、2カ所の太陽光発電所でまかないきれない電力は、NTTグループのグリーン電力発電所から「トラッキング付非化石証書付」の電力を供給することでセブン&アイ・ホールディングスの店舗では100%再生可能エネルギー使用の店舗を実現できます。

このセブン&アイ・ホールディングスとNTTグループによるオフサイトPPAのプロジェクトは、日本の再生可能エネルギー利用の転換点になりうる大きな出来事です。しかし、そのインパクトが世の中に伝わりきっていない面もあります。その原因としては次の2点が考えられます。

・そもそもPPA自体が浸透していない
・オンサイトPPAとオフサイトPPAの違いが理解されていない

本稿では、上記の2点をフォローすることで、セブン&アイ・ホールディングスとNTTグループによるオフサイトPPAプロジェクトのインパクトをお伝えできればと考えています。

そもそもPPAとは?コーポレートPPAとは?

まず、さきほど挙げた「そもそもPPA自体が浸透していない」の部分からです。PPAとは「Power Purchase Agreement=電力購入契約」の略です。海外で認識されているPPAは、発電事業者のつくった電力を需要家(電気の利用者)が調達するための購入契約のことです。

PPAという言葉自体は、単に「電力購入に関する契約」の意味です。ただ最近では再生可能エネルギー由来の電力の購入契約で使われるシーンが多いので「PPA=再生可能エネルギーでつくった電力供給に関連するキーワード」というニュアンスが強まっています。

多くのPPAでは10年以上の長期契約が基本となります。太陽光発電所などを運営する側の「発電事業者」からすれば、発電設備などに多額の投資をしても、PPAの長期契約があることで投資末回収リスクを軽減できます。また、電力を供給される側の小売業者や法人からすると、長期的かつ安定的に電力を調達できます。

PPAでも、企業や自治体などが発電事業者から再生可能エネルギー由来の電力を購入する形態を「コーポレートPPA」といいます。コーポレートPPAを利用することで、企業や自治体は安定した電力供給を受けられ「脱炭素化の目標」を達成しやすくなります。

「オンサイトPPA」と「オフサイトPPA」の違いとは?

さらにコーポレートPPA には、「オンサイト PPA」と「オフサイトPPA」のカテゴリがあります。この違いと背景を理解しないと、セブン&アイ・ホールディングスとNTTグループが実現した「オフサイトPPA」の有益性は理解できません。

「オンサイトPPA」と「オフサイトPPA」を比較すると、下記の表のように、同じPPAでも両社は「ビジネス構造」や「電気事業法との兼ね合い」が大きく違います。

 オンサイト
PPA
オフサイト
PPA
ビジネス構造需要家(電力を利用する法人や個人など)の家屋・社屋・倉庫・敷地に太陽光発電設備などを設置し、自家消費するスタイル電力を使う場所から離れた場所でつくられた電気を送配電事業者のネットワークを使って遠隔(オフサイト)で需要家に提供するスタイル
電気事業法
との兼ね合い
送配電事業者のネットワークを使わないため、電気事業法に抵触しない国に登録した小売電気事業者だけしか需要家に電力を販売できないのが原則。ただし、小売電気事業者が仲介役になるオフサイトPPAは可能

これまで日本国内ではオンサイトPPAが主流だったため、PPAといえば自動的にオンサイトPPAを指していたといってよいでしょう。ただ今回、セブン&アイとNTTの大手2社がオフサイトPPAを実現したことでその流れが大きく変わる可能性があります。

オフサイトPPAが増えることを前提に考えると、今後はPPAの前に「オンサイト」 と「オフサイト」と付けて表記したり、コミュニケーション時に使ったりする必要がありそうです。そうでないと、ビジネスのコミュニケーションで「PPA」という言葉を使っていても、一方は「オンサイトPPA」の意味で使っている、もう一方は「オフサイトPPA」の意味で用いているといった不都合が出てきます。

「オンサイトPPA」と「オフサイトPPA」のメリット比較

前項の内容で「オンサイトPPA」と「オフサイトPPA」の違いについてはご理解いただけたはずです。次に両者のメリットを整理します。とくに今後、PPAを自社の脱炭素化に活かしたいと考えているご担当者ならこの部分は重要です。

オンサイトPPAのメリットは「コストを抑えやすいこと」

コスト面(電気代の安さ)でみると、オンサイトPPAにアドバンテージがあります。オンサイトPPAは、その場でつくった電力を自家消費するため、送配電ネットワークを利用しなくて済みます。

これに対して、オフサイトPPAは、遠隔地の発電所から利用する場所まで電気を運ぶため、ネットワークの利用が必須です。その分、(送配電事業者に)ネットワークの利用料を払わないといけないため、高コストになりやすいのです。

オフサイトPPAのメリットは「設置場所を選ばないこと」

例えば次のような条件だと、オンサイトPPAが実施できない環境にあります。

・敷地や屋根が狭くて太陽光発電を設置するスペースがない
・建物が老朽化していて屋根に太陽光発電を設置しにくい

こういった店舗・企業・工場などでも、遠隔の太陽光発電所でつくった電気を使うオフサイトPPAなら再生可能エネルギーの利用ができます。

今後では「オンサイトPPA」と「オフサイトPPA」2択の流れが強まる

最後に、今回着目したセブン&アイ・ホールディングスとNTTグループの「オフサイトPPA」プロジェクトが産業界に今後、どのような影響を与えるのかを考えます。

まず、これまでPPAといえば、実質上オンサイトPPA一択でした。それが今回のプロジェクトによって企業がそれぞれの条件に合わせて「オンサイトPPA」または「オフサイトPPA」を選択する流れが加速していくでしょう。

また、これまでの太陽光発電の問題点としては、発電量の変動幅が大きいため、「100%再生可能エネルギー使用」の環境がつくりにくいことが挙げられました。今回の「オフサイトPPA+トラッキング付非化石証書付の電力」で100%再生可能エネルギー使用の好例ができたことも大きいです。

いずれにしても、PPAが太陽光発電普及のさらに重要な鍵になることは間違いなさそうです。

(提供:Renergy Online



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