近年、電源別エネルギーコストに大きな変動が起きています。世界ではかつて最もコストが高かった太陽光が今では最も安いコストになっています。日本でも2030年には太陽光が最もコストが安い電源になる見通しです。
電源別エネルギーコストをめぐる最近の動きと、太陽光が一番下がっている事実を、データを基にして紹介します。
世界の潮流は石炭火力から太陽光へ
2021年7月12日に注目すべきニュースが報道されました。経済産業省が2030年時点で太陽光の発電
コストが原子力を下回り、電源別で最も安くなる見通しを発表したのです。
原子力の発電コストがkWhあたり(以下同)11円台後半~に対し、太陽光は事業用で8円台前半~11円台後半、住宅用で9円台後半~14円台前半といずれも原子力を下回っています。
【表1】2030年の電源別発電コスト試算
2030年に太陽光発電が最もコストが安くなるのは喜ばしいことですが、世界的にみれば大きく立ち遅れています。自然エネルギー財団が公表している「コーポレートPPA実践ガイドブック」によると、世界ではすでに2013年に原子力・石炭よりも太陽光・風力の再生可能エネルギーのほうが安くなっています。
2019年の時点では、太陽光が4セントに対し、石炭は10.9セントとコストの差が拡大。両者は日本円に換算(1ドル110円で計算)すると5円弱と12円弱で7円もの差となっています。トレンド的にも原子力・石炭は上昇、太陽光・風力は低下が継続しています。電源別の構成が石炭火力から太陽光へ大きく潮流が変わったことを物語るデータといえるでしょう。
国内の電源別エネルギーコストはどう変化するのか
【表2】2014年時点における2030年モデルプラント
では、2015年に行われた「発電コスト検証ワーキンググループ」による「2030年モデルプラント」(表2)と、2021年に発表された「2030年の電源別発電コスト試算」(表1)を比較して、国内における各電源のコストの推移をみてみましょう。
原子力
原子力は世界的に反原発の動きがあり、コストは高騰気味です。2011年に起きた福島第一原子力発電所事故をきっかけに原子力発電所が稼働停止に追い込まれるなど、日本でも反原発の動きが強まっています。
その影響もあって安全管理のコストが増え、「2030年モデルプラント」(表2/以下、試算A)の10.3円以上から「2030年の電源別発電コスト試算」(表1/以下、試算B)では11円台後半以上に上昇する見込みです。海外ほどのコスト増加ではありませんが、国内でも原子力コストの緩やかな上昇が続きそうです。
石炭火力
石炭火力は海外でダイベストメント(金融機関等が、問題のある企業に融資や投資した資金を引き揚げること)の対象になっており、撤退する企業が増えています。石炭は比較的価格が安定していますが、石炭火力自体のコストは上昇気味です。
国内では試算Aの12.9円から試算Bでは13円台後半~22円台前半と、かなり幅のある数値となっています。東芝が火力発電所の建設から撤退するなど、温室効果ガスに絡んだ反石炭火力の社会的流れが広がれば、コストの上昇は避けられないでしょう。それが試算の幅の大きさに表れているものと思われます。
ガス・石油
ガス・石油も火力発電に使われますが、こちらは石炭に代わる燃料として需要があるため、コストは低下する見込みです。LNGガスは試算Aの13.4円から試算Bでは10円台後半~14円台前半へ。石油は試算Aの28.9円~41.7円から試算Bでは24円台後半~27円台後半へ大幅に低下する見込みです。
地震大国の日本では今後も原発の再稼働には時間がかかるでしょう。再生可能エネルギーが電源の中心になるまでの過渡期においてはLNG火力発電も必要といえます。
自然エネルギー
自然エネルギーでは、陸上風力が試算Aの13.6円~21.5円から試算Bでは9円台後半~17円台前半へ。洋上風力が試算Aの30.3円~34.7円から試算Bでは26円台前半にそれぞれ大幅に低下する見込みです。洋上風力発電は2018年に「再エネ海域利用法」が可決され、今後普及が期待される電源ですが、陸上風力に比べるとかなり割高といえます。
ほかでは地熱が16.8円→16円台後半、一般水力が11.0円→10円台後半、小水力が23.3円~27.1円→25円台前半、バイオマス(専焼)が29.7円→29円台後半、バイオマス(混焼)が13.2円→14円台前半~22円台後半と自然エネルギーは変動が少ない見込みです。
太陽光
今後最も価格が低下していくのは太陽光です。産業用太陽光は、試算Aの12.7円~15.6円から試算Bでは8円台前半~11円台後半へ。住宅用太陽光は、試算Aの12.5円~16.4円から9円台後半~14円台前半へ大幅に低下する見込みです。産業用太陽光が最小8円台前半で最も安い電源となります。
太陽光発電の強みは企業ビルや住宅の屋上等と親和性が高いところです。システムの設置が容易であることから、国家的プロジェクトにして普及を進めやすいというメリットがあります。設置数が拡大したことで、太陽光発電システムの価格が低下したことがコスト低下の大きな要因になっています。
火力・原子力と再生可能エネルギーの今後の対策はどうなる?
最後に火力・原子力と再生可能エネルギーに対する対策はどのようになっているのか、確認しておきましょう。
資源エネルギー庁が策定した2030年におけるエネルギーミックス計画によると、電源別構成は火力全体56%(LNG27%、石炭26%、石油3%)、原子力22~20%、再エネ22~24%(水力8.8~9.2%、太陽光7.0%、バイオマス3.7~4.6%、風力1.7%、地熱1.0~1.1%)となっています。
注目すべきは、東日本大震災の影響で2016年度に2%まで低下した原子力を、2030年度には22~20%に引き上げようと計画している点です。資源エネルギー庁が公表している「2030年エネルギーミックス実現へ向けた対応について~全体整理~」(2018年3月26日付)という資料のなかで、2030年を目途としたエネルギー源ごとの対策として以下のようなポイントを挙げています。
省エネ等
再エネ・原子力・化石燃料に並ぶ第4のエネルギーに
・産業・業務部門の深掘り
・貨物輸送の効率化
・業務・家庭部門の深掘り
・水素の更なる利活用
・低炭素な熱供給の普及
再エネ
主力電源に
・発電コスト低減
・事業環境を改善
・系統制約解消へ
・調整力を確保
原子力
依存度低減、安全最優先の再稼働、重要電源
・更なる安全性向上
・防災対策・事故後対応強化
・核燃料サイクル・バックエンド対策
・状況変化に即した立地地域対応
・会話・広報の取組強化
・技術・人材・産業の維持・強化
火力・資源
火力の低炭素化・資源セキュリティの強化
・高度化法・省エネ法の整備
・クリーンなガスの使用へのシフト
・資源獲得力強化
・有事・将来への強靭性強化
・国内資源・技術の有効活用
この政府の方針から読み取れるのは、「再エネを主力電源にする」「原発の再稼働を目指す」「火力の低炭素化を実現する」という3つの柱です。火力においてはクリーンなガスへシフトする意向を示しており、石炭に触れていない点は低炭素化を意識したものでしょう。さらに、省エネを第4のエネルギー源と考えている点も注目できます。ZEH住宅やコーポレートPPAなど、太陽光発電が省エネに貢献できることは多いはずです。
電源別エネルギーコストを比較してわかったことは、太陽光が一番下がっているという事実です。日本でも今後年を追うごとに再生可能エネルギーの比率が高まっていくことは確実で、企業としてはいち早く太陽光発電の導入を検討することが求められます。
(提供:Renergy Online )
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