二酸化炭素排出量削減が世界的な課題になるなか、太陽光発電パネル設置義務化の行方が注目されています。政府は「2050年度の温室効果ガス実質ゼロ」の目標を達成するために、太陽光発電パネルの設置義務化を模索しています。

しかし、2021年度は公共施設と民間で義務化への対応が分かれました。その背景と現状を紹介します。

二酸化炭素排出量、日本は世界で何番目に多い?

公共施設と民間で対応が分かれる、太陽光義務化の行方
(画像=fotogestoeber/stock.adobe.com)

はじめに、日本の二酸化炭素(CO2)排出量は世界的にどの程度のレベルにあるのか確認しておきましょう。2018年におけるエネルギー起源(各種エネルギーの利用時に発生したCO2)排出量上位10ヵ国は下表のとおりです。

▽二酸化炭素排出量の多い国

順位国名2018年排出量
1中国95億7,080万トン
2米国49億2,110万トン
3インド23億780万トン
4ロシア15億8,700万トン
5日本10億8,070万トン
6ドイツ6億9,610万トン
7韓国6億580万トン
8イラン5億7,960万トン
9カナダ5億6,520万トン
10インドネシア5億4,290万トン

出典:外務省公式サイト

中国が突出して排出量が多いのはよく知られているところです。日本は10億8,070万トンで5位にランクインしています。4大経済大国の米国・中国・日本・ドイツがいずれも上位10ヵ国に入っていることから、経済発展と二酸化炭素の排出量はリンクする宿命にあるといえます。そこで、経済大国が二酸化炭素を減らすために取り組んでいるのが再生可能エネルギーの普及です。

日本でもすべての住宅や建築物に太陽光発電の導入を義務化する動きは以前からありましたが、政府が断念した経緯があります。2021年度はどのような方向性が示されるのでしょうか。

公共と民間で対応が分かれる太陽光義務化

2021年4月19日、国土交通省、経済産業省、環境省が連携して「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会(第1回)」を開催しました。検討会は菅義偉首相が2020年10月の所信表明演説で示した「カーボンニュートラル宣言」を受けて行われたものです。

会議のなかで新築住宅に太陽光発電パネルの設置を義務化するか議論がなされ、複数の委員から「積極的に行うべき」「慎重に行うべき」の両方の意見が出されました。

慎重な意見として委員の1人から、「高度利用が進む市街地などでは日当たりの確保に課題がある地域もあるので、地域を限定するような検討も必要かもしれない。また、再三言われているエンドユーザーのコスト負担、この辺りの支援の検討も必要、課題と思っている」との意見も出されました。

やはり、太陽光発電パネル設置の義務化には立地やコスト負担が大きなハードルになっていることがわかります。

そして2021年6月3日、政府は脱炭素社会の実現に向けた住宅や建築物への太陽光パネル設置の義務化について、国や自治体の公共施設では設置を義務化し、住宅への義務化は見送りとする方針を発表しました。国土交通省、経済産業省、環境省の有識者会議で素案が示されたものです。詳しくみてみましょう。

公共施設は太陽光発電パネル設置が義務化へ

2021年6月9日、政府は「国・地方脱炭素実現会議」(議長=加藤勝信官房長官)を開き、温室効果ガス削減の工程表である「地域脱炭素ロードマップ」をまとめました。

それによると、2030年度の温室効果ガス削減目標を2013年度比で46%削減を目標にしています。2050年度の実質ゼロ達成に向けた中間目標ですが、達成するには短期間で設置できる太陽光の導入が不可欠としています。

そこで打ち出されたのが、国や地方自治体が所有する公共施設の建物や土地への太陽光発電パネル設置義務化です。政府は2030年までに公共施設の50%に太陽光パネルを設置する方針で、2040年には100%の導入を目指します。

その背景になっているのが、太陽光発電パネルを設置する用地の不足や、送電線接続の制約があるという事情です。その点建物の屋上なら立地の制約がなく、電力を自家消費することで送電線接続の課題も緩和されるとしています。

住宅は太陽光発電パネル設置義務化見送り

一方で住宅の太陽光発電パネル設置義務化は見送られました。国土交通省が2021年6月3日に行った「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会(第4回)」で取りまとめられた素案のなかで、新築住宅への太陽光義務化が明記されなかったことにより、見送りが決定的となりました。

環境省からは住宅やビルに太陽光発電設備を取り付ける義務化案が出されていました。しかし、委員からは慎重な意見が出されました。

例えば、委員の1人である鳥取県の平井伸治知事は、再生可能エネルギーについて「長い目で見て、これを住宅に設置することは必要だと思うが、なかなか一挙に義務化は難しいだろう」と語っています。併せて、「蓄電池の設置に補助金を出して、電気は買うと高いので自分でつくって使うほうが、施主がメリットを実感できる。また多雪地など地域の実情を踏まえた財政支援措置を考えてほしい」と財政措置を国に要望しています。

また別の委員は、「現時点ですぐの義務化が難しいとしても、2025年に義務づけを導入する、あるいは遅くとも2030年に義務づけを導入するという、その将来時点での義務づけを明記してほしい」と意見を述べています。概ね出席者は太陽光の必要性では共通の認識を示していますが、義務化の実現には施主に対する財政支援措置など、さらなる政策の充実が必要になりそうです。

ただし、太陽光発電パネル設置の義務化は見送られましたが、国土交通省の有識者会議は2021年5月19日、新築住宅に対して断熱材などの導入により省エネ基準に適合させることを義務づける案に合意しています。

民間事業者はどう対応する?

民間事業者はどのような対応が求められるのでしょうか。1つは、住宅情報サイトなどが住宅の販売や賃貸の入居広告を出す際に、年間の光熱費の目安を表示する制度が始まります。併せて住宅の省エネ性能を星印で表示することで、より省エネ性能の高い住宅が選ばれるように誘導します。国土交通省の主導で2022年4月から実施される予定です。

これにより、光熱費の安い分譲住宅が良く売れるようになり、賃貸住宅の入居率が高くなれば、マンション等に太陽光発電パネルを自主的に導入する事業者が増えることが期待されます。

もう一点は、新築公共施設での太陽光パネル設置義務化によって、PPA事業者が対応する機会が増えることが予想されます。自治体が太陽光発電を導入する際は資金の問題が生じます。

そこで発電事業者に施設の屋根を貸し出して発電を行うPPAモデルを利用して広げていくプランが、地域脱炭素ロードマップに入っています。新築公共施設の太陽光発電パネル設置義務化は、PPA事業者にとって大きなビジネスチャンスになる可能性を秘めています。

気になる企業ビルへの設置義務化については、2021年4月23日に小泉進次郎環境大臣が日本経済新聞のインタビューに答え、「住宅やビルに(パネルの)設置の義務付けを考えるべきだ」と述べています。
小泉大臣の発言から判断すると、住宅とビルの太陽光発電パネル設置義務化はセットで実施される可能性が高いと考えるべきでしょう。

2030年に温室効果ガス46%削減の政府目標を達成するには、公共施設だけでなく、住宅や民間企業への太陽光義務化は必須です。しかし、現実には義務化は先送りになっています。国や自治体施設の積極的な太陽光発電の導入は喜ばしいことですが、より政策を後押しするためにも民間企業や個人住宅でのさらなる自主的な普及が望まれます。

※本記事は2021年7月22日現在の状況を基に構成しています。太陽光義務化の政策は今後変更になる可能性があります。

(提供:Renergy Online



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