なぜESGはこれほど重視されるのか Apple、マイクロソフトの知られざる取り組み
(画像=sewcream/stock.adobe.com)

地球環境保護意識の高まりから、企業価値の評価基準としてESGが注目されている。本稿ではESGとは何かがわかるように、企業がESGを重視すべき理由やESG経営の実践方法などについて簡単に解説する。主要企業の取り組み事例も紹介するので、企業経営の参考にしてほしい。

目次

  1. ESGとは?
    1. 観点1.Environment(環境)
    2. 観点2.Social(社会)
    3. 観点3.Governance(ガバナンス)
  2. ESGとSDGsの違い
  3. 企業がESGを重視すべき理由
  4. ESG経営を実践するための4ステップ
    1. ステップ1.現状の把握
    2. ステップ2.ESG目標の設定
    3. ステップ3.行動計画の策定と実施
    4. ステップ4.情報の共有と行動計画の実施
  5. 主要企業3社のESGに関する取り組み
    1. 事例1.Apple
    2. 事例2.マイクロソフト
    3. 事例3.三菱商事
  6. ESGは先進国共通のルール

ESGとは?

ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、 Governance(ガバナンス)の頭文字を組み合わせた言葉だ。企業を単に財務基準だけで評価するのではなく、環境・社会・ガバナンスの側面から評価するアプローチ方法である。それぞれの観点ごとに評価基準を確認していこう。

観点1.Environment(環境)

企業の地球環境に対する配慮度や実際の活動とその結果などが評価される。具体的には、温室効果ガス排出削減への取り組み、産業廃棄物などのウェイスト・マネジメントの内容、電力のエネルギー使用効率などである。カーボンニュートラルへ向けた企業の取り組みが評価されるといっていいだろう。

観点2.Social(社会)

人権問題や労働基準などの観点から評価される。特に、違法な児童労働や強制労働、労働者の健康管理などに関する取り組みの評価が高い。

Socialでの評価はサプライチェーン全体で行われる。たとえば日本の本社に問題がなくても、強制労働で生産された原料を使っていると評価されにくい。

観点3.Governance(ガバナンス)

企業のコンプライアンス順守の状況やリスクマネジメントへの取り組みなどが評価される。株主を含むステークホルダー間における利益調整の仕組みなども評価対象だ。

ESGとSDGsの違い

ESGと似た言葉にSDGsがある。SDGsは、Sustainable Development Goalsの頭文字を組み合わせた言葉だ。直訳すると「持続可能な開発目標」となる。2030年までに実現を目指す17の個別目標であり、2015年に国連が定めた。例を挙げると以下のような目標がある。

  • 貧困をなくそう
  • 飢餓をゼロに
  • すべての人に健康と福祉を
  • ジェンダー平等を実現しよう
  • エネルギーをクリーンに
  • 人や国の不平等をなくそう
  • 海の豊かさを守ろう など

ESGは、企業評価を目的とするセクターを提示している。その一方でSDGsは、個人や企業に地球のサステナビリティ確保に関する具体的な活動を求めているのだろう。企業がESG経営を実践すると同時に、SDGsの実現を目指すことは不可能ではない。

企業がESGを重視すべき理由

企業がESGを重視している理由は、ESGが世界で一つの巨大トレンドとなりつつあるからだ。たとえば、投資家にとってESGは企業を評価する重要な基準であり、実際に投資家はESGを重視している企業への投資を増やしている。

米国SIF財団の調査によると、2020年度に米国でESG関連資産へ投資された金額は17兆1,000億米ドル(1米ドル110円換算で約1,881兆円)だった。これは2018年度に比べて42%も増加したという。

同財団が「サステナブル・インベストメント」の統計を取り始めた1995年時点では、ESG関連資産への投資総額は6,390億米ドル(1米ドル110円換算で約70兆2,900億円)であり、2020年度の3.7%程度に過ぎなかったとしている。調査対象となったファンドマネージャーによると、最大の関心事は「気候変動」とのことだ。

気候変動関連金融資産への投資は、4兆2,000億米ドル(1米ドル110円換算で約46兆2,000億円)と最大のシェアを占めている。機関投資家の中でも特に、保険会社と教育機関のファンドマネージャーが気候変動をESG投資における最優先検討課題と答えているのだ。

ESG投資のウェイトを増やす投資家の背景には、彼らに資金を託している地球コミュニティの声がある。ESGを重視しESG経営を実践することがすべての企業に求められているといってよいだろう。

ESG経営を実践するための4ステップ

ESG経営を実践する流れを4つのステップに分けて説明する。

ステップ1.現状の把握

ESGに関する自社の現状を把握することなしにESG経営を行うのは難しい。Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の各領域においてチェックリストを作り、自社の現状を確認する必要がある。社内にノウハウがない場合、外部のコンサルタントやアドバイザーに依頼するのも手だろう。

また、競合企業のESGに関する取り組み状況をウェブサイトで比較検証するのも有効だ。

ステップ2.ESG目標の設定

主要企業ではESG目標を設定している。たとえば、AppleのESG目標は「2030年までにすべての製品をカーボンニュートラルにする」ことであり、マイクロソフトのESG目標は「2030年までにカーボンネガティブ(炭素排出量マイナス)を目指す」ことだ。自社の現状をふまえて実現可能な目標を検討したい。

ステップ3.行動計画の策定と実施

設定されたESG目標を実現するために、具体的で実現可能なアクションプランを策定する。行動計画の進捗を確認する専用スタッフを配置するのも有効だろう。

ステップ4.情報の共有と行動計画の実施

ESG目標と実現に向けた行動計画を社内で共有する。行動計画が取引先と関与する場合、取引先とも情報を共有しなければならない。

共有するときは、ESG目標の設定理由を可能な限り詳細に説明する。会社の現状をふまえて丁寧に説明しないと、社員の理解と共感を得ることは難しい。

主要企業3社のESGに関する取り組み

ESGの取り組み事例を具体的に知りたい方もいるだろう。ここからは3つの主要企業にしぼってESGの取り組み事例を紹介していく。

事例1.Apple

Appleは、自社のESGに関する取り組みを「Apple ESG Index」という年次レポートで一般公開している。グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)や、サステナブル会計基準委員会(SASB)などへ報告している。

レポートでは、「概況」「ガバナンス」「環境」「プライバシー」「雇用」「顧客とコミュニティ」のカテゴリーが設けられ、現状が細かく報告されている。

たとえば、「ガバナンス」のカテゴリーでは以下のような項目が細かく設定されており、詳細な情報へリンクされている。

  • 不正防止ポリシー
  • 倫理およびコンプライアンス
  • Apple人権ポリシー
  • ビジネスコンダクトポリシー
  • 不正競争などによる訴訟の有無
  • 不正競争などの法的闘争に費やした費用

Appleは2020年時点で、2030年までに全製品をカーボンニュートラルにすると宣言。製品デザインや製造、輸送、使われ方、リサイクルのすべてにおいて実現を目指す。ESGは、Appleの企業バリュー(価値観)を構成する重要な要素となりつつある。

事例2.マイクロソフト

マイクロソフトは、2012年の時点ですでにカーボンニュートラルであるとしており、2030年までにカーボンネガティブ(炭素排出量マイナス)を目指す。そのために、クラウドベースのテクノロジーなどを活用し、サステナブルなビジネス活動の強化や低炭素ビジネス慣習の世界的拡大に挑んでいる。

たとえば、SurfaceやXboxの製造にエコフレンドリーな素材を使ったり、クラウドコンピューティングとAIを使ったりして、エネルギー消費量の削減などに取り組む。さらにAzure(マイクロソフトのパブリッククラウド)やIoTハブなどをパートナーに解放し、マイクロソフトのパートナーが低炭素な製品づくりを行えるよう支援している。

マイクロソフトもAppleと同様に、「Environmental Sustainability Report」を年次ベースで一般公開している。レポートは「カーボンネガティブ」「ウォーターポジティブ」「ゼロウェイスト」「エコシステムズ」の主カテゴリーで構成され、それぞれ年度ベースで結果が数字で示されている。

事例3.三菱商事

三菱商事も自社のESGに関する取り組みをまとめている。年次レポート「サステナビリティ・レポート」と「サステナビリティ・ウェブサイト」で公開しており、以下のようなテーマに沿って説明している。

  • 低炭素社会への移行
  • 持続可能な調達、供給の実現
  • 地域課題への対応と解決策の提供
  • 次世代ビジネスを通じた社会課題の解決
  • 自然環境の保全
  • 地域、コミュニティとの共生

「環境」のカテゴリーでは、「気候変動」「環境マネジメント」「水資源」「生物多様性」「汚染防止」「資源有効活用」といった具体的なサブジェクトに応じたESGの取り組みを説明している。

コーポレート担当役員のESGに関する考え方も述べられている。

“地球環境や社会が抱える課題の解決は喫緊のものとなっており、社会から企業に対する期待も高まっています。さらに、近年のESG投資の拡大によって、投資家も、自社の長期戦略に環境・社会性面のインパクトを組み込んだ企業を高く評価するようになっています”

ESGについて意識していることが読み取れるだろう。

引用:サステナビリティ・レポート2020(三菱商事)

ESGは先進国共通のルール

ESGの基本について主要企業の取り組みなども交えて解説した。ESG経営の実践は、大企業だけに求められていることではない。地球温暖化などの気候変動問題は、企業の規模や国境を越えた今日のグローバル問題だ。また、強制労働の禁止も多くの先進国では共通のルールといえる。経営者はあらためてESGと向き合わなければならない。

文・前田 健二

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