経営者なら企業経営について幾度となく悩み、その方向性について自らに問いかけてきただろう。企業経営を良い方向に導くためには、経営者自身にもさまざまな資質が必要となる。
この記事では、企業経営の本質について考え方を整理するとともに、それを踏まえて成功する経営者の資質と失敗する経営者の特徴を紹介する。
目次
企業経営とは?経営者なら誰もが一度は持つ問い
企業経営とは何かを一言で表現するのは難しい。『デジタル大辞林(小学館)』によれば、経営とは「事業目的を達成するために、継続的・計画的に意思決定を行って実行に移し、事業を管理・遂行すること」とある。
辞書による定義があっても漠然と感じるのは、「事業目的」という点が曖昧だからだろう。ここで、「事業目的とは何か?」という新たな問いが生まれる。
事業の目的から考える企業経営の本質
「事業の目的は何か?」と問われたら、どう答えるだろうか。
「社会貢献(人のため、社会のため)」と答える経営者もいれば、「好きなこと、やりたいことをするため」と答える経営者もいるかもしれない。事業の目的は、「価値の創造」「顧客の創造」と表現されることもある。事業の目的に絶対的な正解はなく、どの考えも経営者が考えるならそれが正しいともいえる。
「お金(利益)のため」と考える経営者もいるかもしれないが、利益を目的達成のための手段としてとらえた方が、経営がうまくいきやすいということは、多くの経営者や専門家が指摘するところだ。
企業経営とは、「経営者の事業目的を達成するために事業を続けていくこと」と定義できそうだ。そして事業とは、経営者の死後も企業が残る限りは存在し続ける。事業目的を経営者として自分の手で達成しなくとも、後世に託すこともできるのだ。
企業経営を成功させる経営者の5つの資質
経営者にとって「会社をどうしたいか」は「どう生きたいか」にも近しい。経営者にとって事業と人生は切っても切り離せないが故に、経営は大きなやりがいをもたらすとともに、常に経営者を悩ませ続ける。
ここでは、経営を成功させるために必要な経営者の資質を紹介する。
1.夢を描く力
経営は、経営者の事業の目的を達成するための活動だと説明した。つまり、事業の目的達成のための「夢を描く力」は、経営者にとってなくてはならない資質といえる。
「夢を描く力」といっても、大げさに考えなくていい。最初は「商品・サービスによって顧客にどうなってほしいか」が出発点だ。もう少し視野を広げると「事業を通して、社会に何をもたらしたいか」と考えることができる。
経営者が事業目的達成のために描いた夢は、従業員にも共有することが望ましい。夢に共感した従業員は、意欲的に事業へと貢献し、後進の育成にも励んでくれるだろう。夢を描くと同時に、発信して同志を集めることも大切だ。
2.先を読む力
企業経営の根底には、存続という大原則がある。環境は常に変化しており、2020年の新型コロナウイルスの世界的なパンデミックやIT技術革新など、大きな変化が起こることもある。
経営者には、このような環境変化に柔軟に対応しながら、企業を存続させていくために「先を読む力」という資質が求められる。
「先を読む力」には、「知的好奇心」と「仮説思考」が重要となる。直接的、短期的には事業に影響しないような情報に対してもアンテナを張り、知的好奇心を持つ。
その上で、集めた情報を基に将来を予測し、仮説を立てる。情報収集と将来予測を日常的に行うことで、会社の行き先や時代の行く末を読めるようになるだろう。
3.他者を思いやる力
どんなに優秀な経営者でも、独りよがりな考えで行動していては成功できない。顧客を思いやれなければ、いい商品・サービスは生まれないし、自分の利益にしか興味がなければ、誰もついてこない。顧客に求められる商品・サービスを生み出し、人を惹きつける魅力を持つためには、「他者を思いやる力」という資質が欠かせない。
需要のある商品・サービスを生み出して周りの人間がついてくることで事業が拡大し、企業は成長していく。「他者を思いやる力」は事業の根底に通ずる、なくてはならない資質といえるだろう。
4.他者に任せる力
事業の成長が頭打ちになって悩むケースでは、経営者自身の「他者に任せる力」が不足していることが少なくない。経営者はもともと高い能力を持っているが故に、「人に任せるより自分でやった方が速いし確実だ」と思ってしまいがちだ。
しかし、経営者がプレイヤーのままでは、事業をそれ以上成長させることはできない。経営者も人間でありキャパシティがあるため、どれだけ優秀でもできることに限りがある。
事業を成長させるためには、他者を信頼して仕事を任せて管理の仕組みを作る必要がある。そのためには、経営者には「他者に任せる力」が必要とされる。逆にいえば、「他者に任せる力」さえ身につければ、事業の成長の可能性は無限大となる。
5.数字と向き合う力
経営者の中には、「会計の知識を身につけたい」「税務を理解したい」と思う人もいるだろう。しかし、経営者にとって必要なのは「数字と向き合う力」だ。会計や税務については専門家を信頼して任せて、経営の意思決定に専念した方が良い。
数字と向き合うことは、会社の資産や負債、売上・経費・利益に関心を持つことから始まる。そして、結果をきちんと受け止めて、原因を分析した上で対策を練らなければならない。
企業経営に失敗する経営者の4つの特徴
企業経営を成功させるために必要な経営者の資質を紹介したが、ここでは企業経営に失敗する経営者にありがちな特徴を紹介する。あくまで傾向なので、「この特徴があれば必ず企業経営に失敗する」わけではないが、参考にして欲しい。
1.計画性や継続力がない
経営を存続させるための事業目的は一朝一夕で実現できるわけではなく、目的の達成に向けて粘り強く努力し続ける必要がある。そのため、発想力豊かでアイデアマンの経営者であっても計画性や継続力が乏しければ経営を続けていくことが困難になる。
2.うまくいかない原因を周りのせいにする
人間が自分の意志で動かせるのは自分だけであり、他人を簡単に変えることはできない。そのため、成功する経営者は困難にぶつかったとき、まず自分自身に目を向けて原因を分析する。
最初からうまくいかないことを周りのせいにするようでは、困難にぶつかった時にたやすくくじけてしまい、周囲の信頼や助けも得られないだろう。
3.過去の成功体験にしがみつく
環境は常に変化するものであり、経営を続ける上で変化への対応は欠かせない。過去の成功体験にしがみつくのは、変化に対応するのと真逆の行為であり、変化を拒めば時代の変化に合った商品・サービスを創り出すことも困難であろう。
4.利益以外の目的を見出せていない
事業の目的は経営者の考えによるものであるが、「お金のため」という目的だけでは、周りはなかなかついてこない。「お金のため」という目的を堂々と掲げている商品・サービスは、市場から受け入れられにくい。そのため、利益以外の目的を見出せないと、経営に成功することは困難になるだろう。
企業経営を成功に導く要因と経営者が具体的にすべきこと5つ
企業経営を成功へと導くために、経営者として具体的にできることは何なのか。最後に、経営を成功させるためにすべきことを5つ紹介する。
1.理念を策定する
まず、事業の目的ともいえる「理念」を策定する。経営者自身の心の中にあったとしても、明文化することが重要だ。理念を明文化することで、顧客に伝えたり従業員に共有したりできる。そうすれば、顧客がリピーターになってくれたり、従業員の定着率が上がったり、事業にとっていい影響がもたらされるだろう。また、経営者にとっても、理念は経営方針に迷った時の道しるべとなる。
2.戦略を立てる
理念を策定したら、実現するための具体的な戦略を立てる。そしてやるべきことを洗い出す。次に、整理して取捨選択し優先順位をつける。選択肢を整理するために、経営資源である「ヒト・モノ・カネ」にフォーカスして洗い出すのもいいだろう。戦略は一人で立てるのではなく、役員や友人の経営者、信頼するブレーンの意見も積極的に取り入れよう。
3.事業計画を作成する
戦略を立てたら事業計画を策定する。事業計画では期間に応じた目標を設定し、具体的な行動計画まで落とし込む。目標は数値などを上手に活用し、厳密に効果測定できるようにしておくことが重要だ。
4.人材を育成する
事業計画に沿って実行して理念を実現するには、従業員の力を借りる必要がある。そのための人材育成も欠かせない。
採用においては、まず自社に合う人物像を整理した上で採用したい人材が魅力を感じる制度・風土が整っているか自問する。そして、採用した人材の能力開発・キャリア形成のための研修制度や教育制度を整備する。従業員にどう貢献してもらうかを考える前に、会社が従業員にどう貢献するかを考えることが大切だ。
5.増収増益を実現する
事業が軌道に乗ったとしても、増収増益の視点は常に持つようにしたい。売上を伸ばす方法は、単価を上げるか数量を増やすかの2つしかない。「商品・サービスの向上によって単価を上げる」「従業員の営業力を磨き数量を増やす」など、たゆまぬ企業努力によって事業は成長していく。増益に関しては、生産性向上や経費削減の観点も大切だ。
企業経営の意味は一人一人の経営者の心にある
経営者という立場にあると「企業経営とは何だろう?」という疑問に悩まされることも多いだろう。経営コンサルタントなどの専門家の言葉に触れたり情報収集したりするのもいい。しかし、答えは常に経営者自身の中にある。自社の理念を見失わず、そこに立ち返ることが、自分自身を立て直すきっかけになるはずだ。
文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)