8月第3週(8/16~8/20)の東京株式市場は値を消す展開となりました。

8/16(月)は453円下げる大幅安となり、8/20(金)は2020/12/28以来、およそ8ヵ月ぶりの安値となるなど、軟調な値動きとなっています。

こうした中、象徴的な存在となったのが8/16(月)の大引け後に決算発表を行った東京エレクトロン(8035)です。

今期の好決算および、通期業績見通しの上方修正を発表し、8/17(火)は買い先行となりましたが、一転売り優勢に。

半導体関連銘柄は世界的にも調整気味となっている中、日本でも東京エレクトロンなど、値がさの半導体関連銘柄全般が波乱の展開となっています。

そこで今回は、今後の半導体関連銘柄の先行きや投資ポイントについてお話します。

当ページの内容につきましては、SBI証券 投資情報部長 鈴木による動画での詳しい解説も行っております。ぜひ、ご視聴ください。

日本株投資戦略
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■執筆者のプロフィール

鈴木英之
鈴木 英之
SBI証券 投資情報部長 
ラジオNIKKEI(月曜日)、中部経済新聞(水曜日)、ストックボイス(木曜日)、ダイヤモンドZAIなど、定期的寄稿も多数。
・出身 東京(下町)生まれ埼玉育ち
・趣味 ハロプロの応援と旅行(乗り鉄)
・特技 どこでもいつでも寝れます
・好きな食べ物 サイゼリヤのごはん

半導体市況の動向について

日本株投資戦略,上方修正期待銘柄
(画像=PIXTA)

これまで半導体はパソコンやスマートフォンを中心に利用されていましたが、近年は車載システム、5G通信網、データセンターなど、需要は増加傾向にあります。

新型コロナウイルスの感染拡大で需要の鈍化が懸念されていましたが、リモートワークや巣ごもり消費の拡大などを背景に、パソコンやゲームの需要が大幅に増加。半導体はいわゆる“スーパーサイクル”と呼ばれる歴史的な拡大局面に入りました。

一方、世界的な半導体不足が問題となっています。

新型コロナウイルスの拡大による予想外の需要増加や米中問題などによって半導体メーカーは注文や生産を抑制。さらに、2020年に相次いだ半導体工場の火災も半導体不足の要因の一つです。

WSTS(世界半導体統計)による2021年春季予測(6/8公表)では、2021年の世界の半導体市場の成長率は+19.7%、2022年は+8.8%と予想されています。なお、昨年末の予想では2021年の成長率は+8.4%でしたので、異例の大幅上方修正といえます。半導体市場の拡大が、いかに予想を上回っていたかお分かりいただけるかと思います。

図表1はSOX指数(フィラデルフィア半導体指数)の推移です。

新型コロナウイルスがパンデミック(世界的な大流行)となり、SOX指数は2020/3/18(水)に安値を記録。以降、2021/8/4(水)の過去最高値まで約2.7倍に上昇しました。

なお、SOX指数(フィラデルフィア半導体指数)とは、世界の主要な半導体関連銘柄で構成されています。半導体市場の動向や先行きを示唆する指標として、日本の半導体関連銘柄にも大きな影響を与える傾向にあります。

図表1 SOX指数(フィラデルフィア半導体指数)の推移

SOX指数(フィラデルフィア半導体指数)の推移
(画像=SBI証券)

期間:2018/8/2~2021/8/18(日足)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

SOX指数は8/4(水)を高値に下落傾向に転じています。

さらにここにきて、半導体メモリーDRAMの大手である米マイクロン社の株価が下落。

携帯電話やパソコンメーカーなどで、DRAMの在庫が増加。供給不足は解消し、需給サイクルはピークアウトしつつあるとの見方が出ています。

なお、2021年10~12月期にDRAMの価格は5%下がるとの予想もあります。半導体市場の先行指標の1つともされるDRAM市場の先行きに不安材料が出てきたことで、半導体関連市場は調整が長引く可能性が出てきたように思われます。

図表2では、SBI証券の「テーマキラー!」で半導体関連として紹介されている銘柄や、SBI証券企業調査部のレポート(7/8以降)で公表されている銘柄について、株価や業績動向をまとめました。

半導体関連銘柄の株価は目先、軟調となる可能性もありそうですが、押し目買いのチャンスとなる銘柄もあるかもしれません。

※SBI証券企業調査部の個別銘柄レポートは、当社WEBサイト「マーケット」タブ>「レポート」>「セクター別アナリストレポート(国内株式)」からご確認いただけます。

主な半導体関連銘柄
(画像=SBI証券)

図表2 主な半導体関連銘柄
コード / 銘柄 / 株価(8/19) / 時価総額(8/19) / 前期営業利益 / 今期予想営業利益 / 来期予想営業利益 / 時価総額÷来期営業
<4063> / 信越化学工業 / 17,605 / 73,353 / 3,922(-3) / 5,040(+28) / 5,321(+6) / 13.8
<8035> / 東京エレクトロン / 42,820 / 67,318 / 3,207(+35) / 4,937(+54) / 5,390(+9) / 12.5
<6723> / ルネサスエレクトロニクス / 1,083 / 20,926 / 651(940) / 1,509(+132) / 1799(+19) / 11.6
<6920> / レーザーテック / 19,410 / 18,301 / 261(+73) / 367(+41) / 577(+57) / 31.7
<6857> / アドバンテスト / 8,880 / 17,722 / 707(+21) / 1,028(+45) / 1113(+8) / 15.9
<6479> / ミネベアミツミ / 2,782 / 11,881 / 512(-13) / 885(+73) / 1,012(+14) / 11.7
<6146> / ディスコ / 30,950 / 11,162 / 531(+46) / 685(+29) / 749(+9) / 14.9
<6963> / ローム / 9,790 / 10,084 / 385(+31) / 574(+49) / 684(+19) / 14.7
<4185> / JSR / 3,580 / 8,095 / -616 / 479 / 566(+18) / 14.3
<4062> / イビデン / 5,450 / 7,677 / 386(+96) / 534(+38) / 642(+20) / 12.0
<3436> / SUMCO / 2,215 / 6,427 / 379(-25) / 464(+22) / 671(+45) / 9.6
<7735> / SCREENホールディングス / 8,900 / 4,521 / 245(+95) / 452(+84) / 511(+13) / 8.8
<4043> / トクヤマ / 2,243 / 1,617 / 309(-10) / 277(-10) / 283(+2) / 5.7
<4971> / メック / 2,980 / 598 / 24(+45) / 36(+50) / 41(+15) / 14.6
<6871> / 日本マイクロニクス / 1,372 / 549 / 28(決変) / 67 / 61(-8) / 8.9

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
※単位は「株価」が円、「時価総額」が億円、「各営業利益」が億円・カッコ内は前期比増減率、「時価総額÷来期営業」は倍です。
※「時価総額÷来期営業」は時価総額を来期予想営業利益で割った数値です。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

抽出銘柄の投資ポイント

上記、図表2に掲載した銘柄の一部について、投資ポイントなどをご紹介します。

信越化学(4063) シリコンウエハーで世界トップシェア

信越化学(4063)
(画像=SBI証券)

期間:2019/8/26~2021/8/20(日足)
※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

■シリコンウエハーと塩ビ樹脂でトップ

半導体の基本材料であるシリコンウエハーで3割程度の世界シェアを有するトップ企業です。なお、塩ビ樹脂(電線、建材、日用品等幅広い製品の材料)でもトップ企業です。

2022年以降、シリコンウエハーの値上げが実現しそうなことに加え、塩ビ市況の高騰により、業績の拡大基調が見込まれます。

2022/3期第1四半期の営業利益は前年同期比41%増。市場では通期28%、来期6%の営業増益を予想。 これに対してSBI証券企業調査部では、今期30%、来期6.9%、再来期6.4%の営業増益を予想(7/30付)しています。

■業績は安定拡大の傾向

同社が生産するシリコンウエハー価格は、顧客との交渉により長期的に決定されるため、同社の業績は比較的安定拡大傾向にあるといえるでしょう。

世界的な景気回復で塩ビ市況の好調が期待できることも追い風です。

8/19(木)の株価は17,605円で、高値からは12%超下げた水準です。しかし、SBI証券企業調査部では目標株価26,000円を設定(7/30付)しています。

半導体市場への不透明感で株価がさらに下げた場合、押し目買いの検討対象の1つとなりそうです。 なお、ライバルはシリコンウエハーで世界シェア第2位のSUMCO(3436)です。

東京エレクトロン(8035) 半導体製造装置で国内首位。世界でも上位。

東京エレクトロン(8035)
(画像=SBI証券)

期間:2019/8/26~2021/8/20(日足)
※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

■半導体製造装置で世界有数

1963年東京放送(現TBS)の出資で誕生し、当初は輸入商社的な活動が中心でしたが、製造で業容を拡大させました。

世界シェアの高い製品が多く、特にフォトレジスト(感光剤)の塗布や現像を行うコータ・デベロッパは世界シェア87%(2020年)と圧倒的。この他、ドライエッチング装置で27%(同)、成膜装置で38%(同)で高シェアを誇ります。

なお、同社は、SBI証券の「テーマキラー!」の「半導体」の購入金額10万円以上のコースで組み入れ比率がトップです。

■会社側が今期予想営業利益を上方修正

2022/3期第1四半期の営業利益は前年同期比92%増。これを受けて、会社側は今期予想営業利益を4,420億円から5,080億円(前期比58.4%増)に上方修正。市場コンセンサスでは、今期54%、来期9%の営業増益を予想しています。

株価は13週・26週等の主要移動平均線を下回って調整中で、次の下値支持ラインは52週移動平均線が位置する4万円近辺とみられます。2020/3安値から2021/4の上昇幅に対する3分の1押しは39,656円の計算です。

ルネサスエレクトロニクス(6723) 「日の丸半導体」で“最後の砦”に近い存在か

ルネサスエレクトロニクス(6723) 
(画像=SBI証券)

期間:2019/8/26~2021/8/20(日足)
※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

■車載向けに強みを有する大手半導体メーカー

日本では数少なくなった半導体メーカーの1社。世界的にも大手の一角を形成しています。自動車分野、産業分野、インフラ分野、IoT分野の半導体を提供しています。

特に自動車分野を得意としています。エンジンや車体などの制御向け、カーナビゲーションなどの車載情報機器向けに、SoC(system-on-a-chip)、アナログ半導体、パワー半導体等を中心に提供しています。

2021/12期・上半期は営業利益が前年同期比114.8%増。会社予想は未公表ですが、市場では今期132%、来期19%の営業増益を予想しています。

■受注残は四半期売上高の3.6倍

2021/4~6期の売上高は2,178億円。それに対して6月末の受注残は約8,000億円で、四半期売上高の3.6倍と豊富にあります。長期リードタイムの注文を先行的に受注したことが要因とみられます。

SBI証券企業調査部では2021/12期営業利益を1,646億円(市場コンセンサス1,509億円※)、2022/12期1,996億円(同1,799億円)を予想。時価(8/19)1,083円に対し、目標株価1,900円を設定(8/18付)しています。

ただ、テクニカル的には正念場とみられます。2020/3安値から2021/1高値に対し、3分の1押し水準は1,024円と計算されます。心理的節目で1,000円近辺も重要となりそうです。

ミネベアミツミ(6479) EV化でベアリングの大幅増加が期待される中、アナログ半導体も戦力に

ミネベアミツミ(6479)
(画像=SBI証券)

期間:2019/8/26~2021/8/20(日足)
※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

■ベアリングや小型モーターが得意分野

ベアリングや小型モーターを得意とする総合電子部品メーカーです。2017年にミネベアとミツミが統合して誕生。

情報通信機器や家電、自動車制御モーターに使われる小型ボールベアリングでは世界シェア60%を誇ります。

2022/3期・第1四半期(8/4発表)は売上高2,483億円(前年同期比32.5%増)、営業利益196億円(前年同期比5.8倍)と急回復となりました。これを受け、2022/3期の営業利益は800億円から870億円へと上方修正されました。

■EV化でベアリング増加も。アナログ半導体も期待

8/4(水)の決算発表と合わせ、会社側は自社株買い(上限300万株・100億円)の計画も発表しました。

中期的にも主力のミニチュアボールベアリングはEV化が進むことによって、1台当たりの搭載数量が加速的に増加すると期待されます。市場予想営業利益は2023/3期997億円と、拡大継続の見込みです。

オムロンの半導体工場を買収(6/30)しており、アナログ半導体も中期的成長ドライバーとして期待できそうです。

株価は目先下離れの様相ですが、SBI証券企業調査部では目標株価4,000円を設定(6/14付)しています。

イビデン(4062) 米国の国策が追い風に

イビデン(4062) 
(画像=SBI証券)

期間:2019/8/26~2021/8/20(日足)
※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

■ICパッケージ基板・プリント配線板が主力業務

電子機器に広く使われているICパッケージ基板、およびプリント配線板等が主力業務です。ディーゼル排出ガス浄化フィルター(DPF)等も手掛けています。

このうち、ICパッケージ基板はICチップを保護し、プリント配線板へ接続する役割を果たす部品で、同社と新光電気工業(6967)が高いシェアを占めています。

ICチップは、コスト競争や性能向上の観点から小型化が求められますが、回路線幅の微細化や、複数チップをひとつのパッケージに格納する積層化が、具体的な手段となります。また、同社は高い技術力で、米大手半導体インテルと取引を拡大しています。

■インテル向け売上高がけん引

2022/3期・第1四半期も、営業利益が157億円(前年同期比140.5%増)と好スタートです。

新型コロナウイルスの感染拡大や米中対立の影響もあり、米国は半導体の国内生産を増やす見込みです。 これに対して、米インテルも生産増強のため、高いICパッケージの技術を持つイビデン等と結びつきを強めています。 インテルは米アリゾナ州に200億ドルで新工場を増設する予定で、それに対応すべく、イビデンは岐阜県大垣市の工場に総額1,800億円の設備投資を行う方針です。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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鈴木英之
SBI証券 投資調査部

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