中期経営計画はなぜ重要?経営者が知っておくべきポイント
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中川 崇
中川 崇(なかがわ・たかし)
公認会計士・税理士。田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。

会社経営にあたり、経営計画を立てずに経営することはありえない。経営の方向性を決定する上でも会社の目標や行動計画を内外に示すことが重要だ。

ここでは、会社が中期的に目指す姿を計画する「中期経営計画」について、その基本や利用方法、経営計画の作成方法について説明する。

目次

  1. 中期経営計画とは
    1. 中期経営計画は経営計画の一種
    2. 中期経営計画の期間は3年から5年程度
  2. 経営計画が必要な3つの場面
    1. 1.融資依頼
    2. 2.補助金・助成金の審査
    3. 3.社内への周知
  3. 経営計画の立て方6ステップ
    1. 1.自社を分析する
    2. 2.定量分析で分析する
    3. 3.定性分析で分析する
    4. 4.将来の目標を設定する
    5. 5.目標の実現方法を決める
    6. 6.矛盾点がないかチェックする
  4. 経営計画を実行する際の2つの注意点
    1. 1.こまめにチェックする
    2. 2.計画通りとならないならば挽回策も必要
  5. 経営計画に役立つ2つのツール
    1. 1.日本政策金融公庫の書式類
    2. 2.経営計画つくるくん
  6. 目的に応じて経営計画を作成しよう

中期経営計画とは

中期経営計画は経営計画の一種

「経営計画」とは、一般的に会社の現状と「将来なりたい姿」や「あるべき姿(経営ビジョン)」とのギャップを埋めるべく、どのような経営を行うかを示したものである。

経営計画では、到達すべき会社の姿について、いつまでに売上をいくら計上して利益をいくらにするなどの「数値」を示すことが重要である。しかし、顧客の満足度を上げるなどの「定性的な目標」を経営計画に上げることもある。

現状と将来の姿との差をどのように埋めるかが経営計画の肝となるが、それらは以下のような「5W3H」でその中身を決める。

・なぜ(Why)
・いつまでに(When)
・何を(What)
・誰が(Who)
・どこで(Where)
・どのように(How)
・いくらで(How much)
・どのくらい(How many)

最初の6つは、「5W1H」としてよく知られるものだ。残りの2つは、資金や資産をどれだけ投入するか示すことが求められる経営計画について、特に求められている。

中期経営計画の期間は3年から5年程度

経営計画は、計画の設定期間によって「短期」「中期」「長期」の3つに分類される。経営計画の期間の分類については厳密な決まりはないが、一般的には以下のようなスパンで計画される。

短期:1年間
中期:3年から5年間
長期:5年から10年間

計画の対象期間以外の違いは、以下の通りである。

長期経営計画:最終的に会社が目指すべき会社のあるべき姿である経営ビジョンを示す
中期経営計画:直近3年から5年間の経営計画をより具体的に示す
短期経営計画:直近の具体的な数値を示し、現状すべきことを示す

経営計画を作成する際には、作成しやすい短期経営計画をまず作る経営者が多い傾向にある。しかし、本来は自社事業の最終的なゴールを見据えた長期経営計画か、作成が難しければ中期経営計画から作るのが望ましい。

経営計画が必要な3つの場面

経営計画は、単に経営方針を決めるためだけではなく、さまざまな目的で作成される。ここでは、経営計画がどのような場面において求められるのか紹介する。

1.融資依頼

経営計画の使用頻度の高さで言えば、銀行などへの融資依頼があげられる。

銀行は融資を実行する際に、貸した金銭が回収できるか否かを検証しなければならず、そのために重要なのが経営計画である。

とくに複数年にまたがる融資について、融資する側は返済の原資となる収益を捻出するシナリオを確認する必要がある。会社の経営が計画通りに上手くいき、その結果として貸し出した金銭が予定通り返済されるか事前に判断しなければならないのだ。

2.補助金・助成金の審査

国や地方自治体などが募集する補助金・助成金の審査において、経営計画の提出を求められることがある。

例えば「IT導入補助金」では、ITツールを導入することによる、経営上の数値の改善予測を経営計画に盛り込むことが求められる。補助金や助成金を受給することで、経営改善にいかに効果的かを証明する必要があるのだ。

3.社内への周知

経営計画の内部的な使い方としては、自社の具体的な将来目標について社員に周知させる意味合いもある。

会社の業績をどのように達成するかを周知することで、社員や会社に関わる人の協力を得やすくするために、経営計画を作成・公表することがある。

経営計画の立て方6ステップ

経営計画は目的を満たす前提で立てる必要があるため、作成にあたって注意すべきポイントがある。ここでは、中期経営計画の策定方法について説明する。

1.自社を分析する

経営計画は、自社のあるべき姿と現実とのギャップを埋めるものである。

そのため、まずは自社の現状分析が重要である。どれだけ高い理想を掲げても現状がわからなければ、目標達成のために必要な具体的な行動目標が分からない。

分析の具体的な方法は次項以降で説明するが、数字であらわす「定量分析」とそれ以外の「定性分析」に分けられる。

2.定量分析で分析する

経営計画における定量分析は、通常の経営分析で使われる「総資産利益率」などの複数の異なる数値を組み合わせた指標を用いるケースもあるが、「売上高」や「経常利益」などの単純な数値が使われることも多い。

売上高や経常利益といった単純な数値を用いる際には、これまでの推移を見て増減の分析を行ない、その理由や将来の推移を推定する。また、その数値の内容分析では、各種指標を活用する場合が多い。

指標で分析を行う場合、自社における指標の推移を見極めて収益性の増減を見極めるだけでなく、同業他社の平均などと比較して優劣があるか比較する場合もある。

3.定性分析で分析する

経営計画を策定する際には自社の状況把握が求められるが、何も数値ばかりではなく、数値化できない社内外の状況を文章にして認識することもある。手法としてよく知られているのが、「SWOT分析」である。

SWOT分析は、以下の4つの視点から、自社の内部環境や市場などの外部環境について分析するフレームワークである。

・強み(Strength)
・弱み(Weakness)
・機会(Opportunity)
・脅威(Threat)

「強み」「弱み」については、自社に内在する状況についてリストアップする。主な内容としてはブランドの力、設備の有無、シェア、会社や工場の所在地、業種の特性上景気に左右されやすいか否かなどがある。

「機会」「脅威」については、自社外の状況についてリストアップする。主な内容としては、法規制の見通し、為替の影響、自社が属する業界の動向などが挙げられる。

なお、分析の際は4つの項目を独立して検討することもあるが、実際は「この強みはこの脅威が大きくなった場合弱みに変化する」など、他の要素との関連性も考えて分析することが望ましい。

4.将来の目標を設定する

経営計画に必要なものは、将来あるべき姿としての目標である。

将来どうなりたいかを設定するのは自由だが、中期経営計画では通常3年から5年後の自社のあるべき姿を設定することとなる。

あるべき姿はどのように設定しても差し支えないため、一見突拍子もない目標が決まることもあるが、中期経営計画を洗練する過程で修正することとなる。

5.目標の実現方法を決める

現状分析と目標設定を行ったら、それを実現させるためにはどうすればいいかを決める。

例えば、売上を現状の倍にしたいという目標を定めたとする。そのためには1年ごとにどうすべきか、例えば以下のようなことを考える必要がある。

・店舗や工場などを倍にするのか
・広告を増やすのか
・営業担当の社員を増やすのか

その結果、売上はどの程度上昇するのか見極めた上で、固定資産に支出する金銭が追加費用として必要か見積もることとなる。

また、1年毎の目標を達成すべく、短期経営計画を立てることもある。

6.矛盾点がないかチェックする

経営計画を作成していると、前提から間違っているような計画も出てくる。

例えば、現状は1日1人が10件しかこなせない状況なのに、計画では100件こなさないと達成できない設定となることがある。この場合、目標を下げるか人数を増やすか、実際に1人が100件こなせることを示すことが求められる。

また、定性的な計画として「お客様からの評価を上げる」と書いているものの、教育費を増やすなどといった具体的な施策がないこともある。

このように数字の間に矛盾がないかあるいは、目標と他の記述の間に食い違いがないかどうかをチェックして、計画をより適切なものとする必要がある。

経営計画を実行する際の2つの注意点

中期経営計画やそれに伴って策定された短期経営計画は会社の目標達成のためのものであり、実際に活用しなければ意味がない。経営計画に沿って事業活動を進めながら対策を練る必要がある。

1.こまめにチェックする

まずは、経営計画と実績との比較が重要だ。実績を見るには、記帳やチェックをこまめに行って、早めに結果を出す必要がある。

その上で実績と計画を比較して、計画を上回っているか下回っているかに関わらず、そのギャップの原因を解析するのが望ましい。

2.計画通りとならないならば挽回策も必要

経営計画通りに進まない場合は、その差異が挽回可能か否かを見極める必要がある。挽回可能であれば、挽回策を策定して実行することとなる。

挽回できないのであれば計画策定のやり直しを行うこととなり、実際にできることと将来あるべき姿とをすり合わせた上で策定を行う。なお、融資を実行するために中期経営計画を策定しているのであれば、銀行などと今後の対応について話し合う必要がある。

経営計画に役立つ2つのツール

中期経営計画を策定する上で役立つツールが様々なところで提供されている。ここでは、2つのツールを紹介する。

1.日本政策金融公庫の書式類

中期経営計画を策定する目的が経営の立て直しのための融資であれば、日本政策金融公庫の書式が参考になる。

参考URL:https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_chusho.html

日本政策金融公庫に提出する書類が収められており、その中には経営計画を策定する書式もある。そのまま即使えるとは限らないが、まとまった様式になっているので、中期経営計画策定の際にはある程度役立つだろう。

2.経営計画つくるくん

独立行政法人中小企業基盤整備機構が提供している、Windows、iPad、Androidで利用可能な経営計画書作成ツールが「経営計画つくるくん」だ。

参考URL:https://tsukurukun.smrj.go.jp/

複数の項目から選択することで経営計画書が作成でき、作成した経営計画書をExcelファイルで出力することも可能だ。

目的に応じて経営計画を作成しよう

今回は、中期経営計画書を策定するための目的や方法、策定後の対応などについて説明した。

融資や補助金・助成金を受ける際に役立つ中期経営計画であるが、その作成にはさまざまな視点を持って行う必要がある。記述内容に矛盾がないようにチェックし、作成後は中期経営計画と実績の比較をしなければならない。

会社経営のために、中期経営計画を役立てていただきたい。

文・中川崇(公認会計士・税理士)

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