医業税務の3つのポイントとMS法人を活用する際の注意点
(画像=PIXTA、ZUU online)

第4回は医業税務のポイントやMS法人を活用する際の注意点について見ていこう。野村證券にてプライベートバンキング業務に従事し、現在は佐野比呂之税理士事務所代表である佐野税理士に話を聞いた。(聞き手:菅野陽平)

佐野 比呂之
佐野 比呂之(さの・ひろゆき)
1998年、立教大学経済学部卒業。複数の中小税理士事務所に勤務。2006年、中央大学国際会計研究科修了MBA取得。税理士登録。2007年、税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(PwC)入社(一時期、野村證券へ派遣)、主にオーナー企業向け税務顧問及び事業承継業務、国際相続案件に従事。2011年、野村證券株式会社にて上場・未上場企業オーナー向けプライベートバンキング業務に従事。2014年、佐野比呂之税理士事務所を開所。2015年、合同会社パープル・リングスを設立。税理士、行政書士、1級FP(CFP)、宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、証券外務員一種(内部管理責任者)。

医業税務を考えるうえで抑えておきたい3つのポイント

まず、医業の税務を考えるうえで重要なのは、「医業は通常の事業法人と異なり、税制が優遇されている部分もあれば、規制が厳しい部分もある」(佐野氏)ということだ。医業の税務を考えるうえで抑えておきたい3つのポイントを挙げてもらった。

1.医業は非営利事業

まず大前提として抑えておきたいのが「医業は非営利事業」ということだ。非営利事業といっても、儲けてはいけないという意味ではなく、株式会社でいうところの配当をしてはいけないという意味だ。「通常の事業法人において、オーナーが法人からお金を吸い上げる方法には大きく分けて役員報酬と配当の2つがあるが、医療法人は配当ができない。役員報酬しかオーナー(理事長)が法人からお金を吸い上げる手段がないことが第一のポイント」と佐野氏は解説する。

医療法の改正により、平成19年4月以降は、出資持分がある医療法人を設立できなくなった。「医療法の改正前より存在している『出資持分ありの医療法人』は経過措置として存在し続けることができるが、持分はあっても、非営利なので出資に対する配当を受け取ることはできない。新法に基づいて設立された医療法人は、そもそも出資の概念がないため、当然、配当という概念もない」(佐野氏)ということは抑えておきたい。

一方でメリットもある。非営利事業であるため、税制優遇が大きいということだ。代表的なものが「概算経費の特例」だ(詳細は第5回にて解説)。非営利事業であるゆえに、規制もあるが、税制優遇もあるということは医業の大きな特徴と言えるだろう。

2.所得の分散が難しい

オーナーが配当で吸い上げることができないこともあり、「所得の分散が難しい」ということが2点目に挙げられる。言い換えれば、医療法人にキャッシュが貯まっていってしまうということだ。法人の資金は個人が自由に使えるわけではないため、いくら医療法人にキャッシュが貯まっていても、オーナー(一族)がそれを全て有効活用できるわけではない。

だからといって役員報酬を大きく上げることも難しい。所得税は累進課税であるため、一定額を超えると税負担が重くなりすぎるためだ。また、個人開業医は事業所得に該当するため、法人のように「役員報酬の金額を調整する」ということができない。そのため、「どうやって効率的に所得の分散を図っていくのか」が大きなテーマになってくる。

ひとつの答えが「MS法人(メディカル・サービス法人)を活用して所得分散していくこと」(佐野氏)だ。MS法人とは、本業である医業をサポートするための事業法人だ。具体的な業務として、不動産賃貸、車両などのリース、医薬品・医療機器・器具などの仕入や管理、販売業務、人材派遣などが挙げられる。

これらの業務をMS法人に外注することで、MS法人への支払いを経費として計上し、税負担を抑えつつ、MS法人には利益が貯まっていく。これを配偶者や子どもに配当や給与という形で支払えば、所得分散ができるというわけだ。

3.利益相反が通常の事業法人に比べて厳しい

医業は地域住民の健康を支える公共性の高い事業だ。医業の裏側にはたくさんの患者がいるため、「利益相反が通常の事業法人に比べて厳しい」ことが3番目に挙げられる。上記の所得分散対策を行うときに、十分に気をつけなければならないポイントだ。

例えば、医療法人のオーナーがMS法人を設立し、MS法人の代表に就き、医療法人からMS法人にお金を流すと、利益相反に該当し、また実質的な配当と見なされてしまう。「MS法人を使って節税を行う場合は、利益相反に該当しないか、実質的な配当に該当しないか、といったことに十分に配慮する必要がある」(佐野氏)だろう。

MS法人を活用する際の注意点

まとめると、医療法人は配当ができず、個人開業医は概算経費以外に経費を作ることが難しいため、開業医は所得分散に課題を抱えている。その対策のひとつがMS法人を活用した所得分散だが、MS法人を絡ませるときは、利益相反や実質的な配当にあたらないよう配慮することが重要だ。

具体的には、個人開業医や医療法人の理事長が、MS法人の代表になることはできない。出資者として株主になることは問題ないが、「大体の場合は配偶者に設立してもらって、配偶者が代表取締役になる」(佐野氏)という。MS法人は基本的に利益が貯まっていく会社であるため、個人開業医や理事長が代表になると、彼らの財産になってしまい、相続税負担が大きくなってしまう。所得分散という視点に立てば、配偶者などが設立することが合理的というわけだ。

「MS法人で不動産を所有して、それを個人開業医や医療法人に賃貸するケースも多い」と佐野氏は指摘する。医療法人は営利事業を手広くやってはいけないこと、医療法人で不動産を所有していても最終的に国に帰属してしまうことなどがその理由に挙げられるという。

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