ドリコム(3793)はモバイルゲームの開発・運用を行うIT企業で、「ONEPIECEトレジャークルーズ」「ちょこっとファーム」など、人気IPゲームを数多く手掛ける。2021年3月期は開発・運用が好調、かつ収益性の向上により利益面で過去最高を記録した。将来はIPを軸に、音楽など多様なコンテンツをグローバルに提供することを目指す。
コンテンツ事業が9割超新規で
先進的サービス創出
ドリコムの2021年3月期の業績は、売上高が前期比16・7%増の118億4000万円。営業利益は同232・7%増の20億5200万円と過去最高、経常利益、純利益の全てにおいても、最高益を達成している。
セグメント別に見ると、モバイルゲーム開発・運用を主に行う「ゲーム事業」が売上高の9割超を占める。自社でキャラクターやストーリーを開発したゲームも配信するが、現時点では他社がIPを持つ原作をモバイルゲーム化した「他社IPゲーム」が全体の約6割と比率が多い。これまで25本以上のIPタイトルを手掛け、うち14本を今も継続して運営している。
「ONEPIECEトレジャークルーズ」「アイドルマスターシャイニーカラーズ」(両作品とも配信元はバンダイナムコエンターテインメント)など同社が手掛けたゲームアプリには、人気の作品が多い。プレイステーション向けの人気ゴルフゲームをモバイル向けに最適化した「みんゴル」(配信元:フォワードワークス)はリリースから3年、20年6月に累計ダウンロード数が800万を超えた。また、自社配信の農園育成ソーシャルゲーム「ちょこっとファーム」は10周年を迎えるロングランタイトルだ。
その他「メディア事業」では、新規事業の創出を目的として先進的なサービスを試験的に立ち上げる。18年には位置情報と3DリアルマップによるARスマートフォンアプリ構築プラットフォーム「AROW」、21年3月期はツイッター上でファン同士が繋がれるマーケティングツール「Rooot」、音楽と物語のプロジェクト「AKROGRAM」をリリースしている。
IP軸でゲーム開発
愛好者募りチーム編成
同社の大きな特徴といえるのが、ロールプレイングゲーム(RPG)、スポーツ系など特定のゲームジャンルに特化せず、IPを軸に様々なゲーム開発を行う点にある。開発にあたっては「IPへの愛を重視している」(内藤裕紀社長)と語り、それぞれのIPの愛好者を社内で募り、開発チームを編成する。
「IPによって何がポイントで何を外してはいけないのかはファンでないと分からない。魅力的なIPの話をいただいても、当社でチーム編成ができなければお断りします」(同氏)
オリジナルIPゲームを1つ作るのに約10億円、2~3年と多額の資金と長い年月が必要とされる。その点、他社IPゲームは固定ファンを取り込め、大きく外す危険性がないという利点があるが、一方でライセンス料が発生し、IPごとに異なる著作権やレギュレーションの読み解きなど、知識と経験が不可欠となる。
「外から見ると分かりにくいですが、IPの扱いは結構難しい。当社はいち早くこの事業に移行したので、いろいろなIPホルダーさんとの開発の機会に恵まれ、ノウハウがかなり蓄積されているのが強みです」(同氏)
コスト管理を徹底
enza事業にも挑戦
同社は01年、大学在学中の内藤社長が創業。当初は法人向けのブログ事業などを行い、06年には当時史上最年少でマザーズ上場。09年に成長性のあるモバイルゲーム事業に舵を切った。
以来、12年にはウェブブラウザを使わずにアプリをダウンロードしてプレイできるネイティブゲーム、14年からはオリジナルゲームタイトルへの投資を行うなど、常に新事業に挑戦し続けてきた。
業界内では上場企業としての経験も長く、コスト管理能力も長けている。17年からはバンダイナムコエンターテインメントとの共同出資で設立したHTML5ゲーム開発・運営企業「BXD」が展開するゲームプラットフォーム「enza」への投資をスタートしたが、20年3月に譲渡した。
「やるなら今だと思い、プラットフォームに挑戦しましたが、一方でここまでと決め、以降は回収するので、PLの改善は早い。株主の方々から見て安定感はあると思います」(同氏)
自社IP比率を6割
海外比率を5割へ
前期は新規タイトルのリリースをなくしたが、年末年始イベントの増収、不採算タイトルの赤字幅を縮小させ費用効率化を図ることなどで過去最高益を記録した。21年4月末時点で、ゲーム事業・新規事業を合わせ、12の開発プロジェクトが進行している。今後はオリジナルIPを育成し、自社IPの比率を6割まで上げることを目指す。
20年3月には「ぼくとドラゴン」運営のスタジオレックスを子会社化。同年10月には、海外でも人気のあるRPG「Wizardry」の一部タイトルの著作権と国内外での商標権取得、また同10月にノックノートのゲーム事業の一部を取得し、BlasTrainを子会社として設立した。自社開発に加え、特に海外での人気が高いIPを保有する企業のM&Aを引き続き積極的に行っていきたいという。
「日本のスマホゲーム市場の伸びは1ケタですが、海外は2ケタ成長が続いています。オリジナルIPを元に、海外比率を半分くらいまで上げたい。さらにIPを音楽など新規事業と掛け合わせ、ゲーム以外のエンターテインメント領域にも参入したい。ライトノベルや漫画への進出も考えています。マネタイズが複数になることで、IPへの投資回収も見えやすい。安定性と成長性を示せればと思っています」(同氏)
今年秋に20周年を迎える同社では、事業の姿を重視しトップラインは定めないが「結果として純利益を上げ、PER50倍以上を目指したい」(同氏)と語る。
(提供=青潮出版株式会社)