企業の実質的な業務を担う社員の育成は、企業の存続に必要不可欠である。その育成の機会となるのが企業研修だ。目的や階級に応じてさまざまなスキルを習得させられる。今回は、企業研修の種類や内容、効果を高める方法などについて紹介する。
目次
企業研修とは?
企業研修とは、社員の人材育成を目的とした学びの機会です。
社員を雇用する企業は、職業能力開発促進法によって、社員の能力やスキルの育成はもちろん、キャリア設計の支援が義務付けられている。
社員の能力を開発する企業研修では、階級別や目的別に以下のような研修を行う。
・新入社員に業務に必要なマナーを学ばせる
・中堅社員にリーダーシップや若手育成の方法について学ばせる
・管理職層にメンタルヘルスについての最新動向を学ばせる
企業研修で重視される能力・スキル
企業側は、企業研修を通して社員にどのようなスキルを習得して欲しいのだろうか。
厚生労働省の能力開発基本調査によると、企業側が社員に求める能力やスキルは以下の通りだ。
会社の幹部候補者に求められるマネジメント能力やリーダーシップが最重要とされており、チームワークや個別業務に必要なスキルの育成なども重視されている。
企業研修では、会社に必要な能力の成長を促し、社員同士の結束を強くする効果も期待される。
企業研修の種類5つ
企業研修の内容を大まかな種類に分けて5つ紹介する。
種類1.新入社員研修
社会人経験がほとんどない新入社員に対して、ビジネスパーソンとして必要なマナーや電話対応スキル、コミュニケーションの基本などについて学ばせる。
種類2.中堅社員研修
中堅社員は、企業にとって次世代のリーダーとなる中核社員である。若手社員と管理職をつなぐ立場になる中堅社員に対して、リーダーシップやフォロワーシップなどを研修する。
種類3.管理職研修
管理職の役割は、経営者の意図を読み取って、部下に目標達成に向けた行動指針を伝えて、成果を出すことだ。
管理職研修では、管理職の役割についてはもちろん、リーダーシップの発揮や部下の育成方法についても学習させる。
種類4.マーケティング研修
企業が商品やサービスを開発し、顧客に提供するためのマーケティング戦略について学ぶ研修だ。
マーケティングの基礎はもちろん、マーケティング戦略の構築に必要なSWOT分析や3C分析などのフレームワークについて学ぶ。
種類5.メンタルヘルス研修
企業の健康経営においてメンタルヘルスの分野も重要だ。メンタルヘルス研修の学習内容は、メンタルヘルスの一次予防にあたるセルフケアや、管理職層に必要なラインケア、精神的不調者の早期発見方法などである。
企業における社員の育成方法3つ
企業における社員の育成方法は主に3つだ。育成方法の種類をおさらいしながら、企業研修の位置づけを確認していく。
方法1.OJT
OJT(On The Job Training)は職場内訓練をさす言葉であり、上司や先輩が職場内の実業務を通して直接社員を指導する方法だ。
実業務を通した指導であるため、業務習熟度は高まる。ただし、指導者による影響が大きく、指導人材や育成時間の不足などが課題だ。
方法2.OFF-JT
OFF-JT(Off The Job Training)は職場外訓練をさす言葉であり、職場から離れた場所で開催される研修やセミナーに社員を参加させる方法だ。
企業研修は職場外で行われる教育であるので、OFF-JTに該当する。
方法3.自己啓発
社員が自ら必要とするスキルを選択して学習するのが自己啓発である。
業務に関連する資格を取得したり、外部の研修やセミナーに参加したりするなど、自分のキャリア設計を考慮した上で自主的に学ぶ。
企業側は、社員が自己啓発に支払った費用を一部負担するなどして、能力開発を支援する。
企業研修の実施方法
企業研修に該当するOFF-JTの実施方法は、能力開発基本調査の結果によると下記の通りだ。
OFF-JTを自社で行う割合が高い。
たとえば、自社の研修センターに対象者を定期的に集合させ、社員の育成計画に沿って計画的な研修を行うこともある。
民間企業に研修を委託する場合、研修テーマについてすり合わせた後、派遣された担当講師が研修する。もちろん、民間企業や各種教育機関が開催している研修に、社員が参加する場合もある。
企業研修は対面方式による座学が一般的だが、新型コロナウイルスの感染拡大もあり、オンライン開催も普及しつつある。
企業研修の効果を高める方法3つ
企業研修にただ社員を参加させれば、社員が望み通りに成長するとは限らない。ここでは、企業研修の効果を高める方法を3つ解説する。
方法1.社員の育成計画を明確にする
企業研修に参加させる前に、社員の育成計画について明確にしておかなければならない。社員が所属する部署はもちろん、担当業務によっても育成方針は変わってくる。
自社内のロールモデルとなる社員を基準として、必要な能力やスキルを習得させるための育成計画を立てる。計画を立てないと、成長が見込めないどころか研修費用の無駄遣いになりかねない。
方法2.研修の目的を社員に共有する
企業研修に参加する社員に対して、研修で学んで欲しいことや期待することについて共有し、学習意欲を向上させる動機付けを行わなければならない。
社員は、業務を中断して企業研修に臨むことになる。社員の時間を無駄にしないよう、経営者や上司から習得して欲しいスキルを伝えることが大切だ。
方法3.研修終了後のフォローアップを行う
企業研修で学んだことを職場で活用できなければ意味がない。企業研修の終了後には、以下のような継続的フォローアップが重要である。
・企業研修の感想や業務における活用目標を報告させる
・上司から研修内容を活かせる業務を依頼する
・フォローアップ研修の実施で企業研修後の活動報告を共有する
企業研修を支援している企業5つ
企業研修を自社で行う企業も多いが、民間の教育訓練機関の活用も積極的に行われている。ここでは、企業研修やセミナーの実施経験が豊富な企業を5つ紹介する。
企業1.グロービス
グロービスは、1992年に創業した人材育成をメイン事業とする企業だ。新人からリーダーの育成まで、さまざまな研修プログラムを展開。企業内研修による人材育成や組織開発支援も行っている。
e-ラーニングによるオンライン研修を行う「グロービス・デジタル・プラットフォーム」や、ビジネスリーダー育成を目的としたMBAプログラムである「グロービス経営大学院」などのサービスがある。
企業2.SMBCコンサルティング
SMBCコンサルティングは、三井住友グループ傘下のコンサルティング会社だ。教育事業では、ビジネスセミナーや講師派遣による社内研修を行っている。
SMBCビジネスセミナーでは、年間1,000本を超えるセミナーを開催しており、産業能率大学提供の200を超える通信講座も展開している。
経営層や管理職層といった階層、経営戦略やマーケティングのような目的などをふまえ、企業の方針に合わせてマッチ度の高い研修を提案してくれる。
企業3.インソース
インソースは、講師派遣型研修事業や公開講座事業などを展開するIT企業だ。
2020年9月期における講師派遣型研修の実施回数は、年間で11,390回にのぼる。e-ラーニングやオンラインセミナーの代行など、IT経験を活かしたサービスも実施している。
企業4.リクルートマネジメントソリューションズ
リクルートマネジメントソリューションズは、人材採用や開発、制度構築、組織開発などを一手にサポートするリクルートグループの企業だ。人材開発事業において以下のようなテーマでさまざまな研修や教育を行っている。
・グローバル化に対応できる社員の育成
・経営幹部候補のマネージャー育成
・新入社員の即戦力化や定着促進
・ビジネススキル習得に特化した選択型の研修
企業5.ヒューマンアカデミー
ヒューマンホールディングスは、人材派遣や人材紹介といった人材事業、リカレント教育や企業向け研修を提供する教育事業など、複数事業を展開している。
ヒューマンアカデミーでは、800講座以上の教育コンテンツを持ち、企業や学校などへの研修実績は1,000社以上にのぼる。
企業研修の参考になる職業能力開発基本計画
厚生労働省では、職業能力開発促進法にもとづいて、労働者の育成やキャリア形成に関する計画として職業能力開発基本計画を5年おきに策定している。
2021年度からの5年間は、コロナ禍によるデジタル技術の更なる進展なども盛り込まれた第11次職業能力開発基本計画が施行されている。
内閣府の科学技術政策である「Society5.0」の実現に向けて、IT人材の育成・強化に取り組む内容となっている。
職業能力開発基本計画では、日本政府として特に職業能力開発に注力する分野が示されており、計画に沿って公的職業訓練の整備や企業の人材育成支援制度の拡充なども行われる。経営者も一度内容を確認して欲しい。
企業研修では外部サービスも活用!
経営者は社員の職業能力開発を支援する義務を有しており、自社が継続的に存続するためにも社員のスキルや能力の成長は欠かせない。
OFF-JTに分類される企業研修は、OJTに比べてマネジメント能力や個別スキルなどといったスキルを体系的に学べる。
民間企業には、企業研修の実績が豊富で、社員の育成ノウハウに詳しい企業もある。自社で企業研修を完結させるのに固執せず、教育が難しい分野であれば積極的に外部サービスを利用して欲しい。
文・隈本稔(キャリアコンサルタント)