経理処理の計上では、資本的支出と修繕費の判断に迷う場面がある。計上を誤ると税務当局から否認され、余計な手間や出費が発生しかねない。この記事では、資本的支出とは何かをおさらいし、資本的支出の判定フローチャートなどをわかりやすく解説する。
目次
資本的支出とは?
法人が所有する固定資産を修理した場合、そのすべてが修繕費に該当するとは限らない。
法人が所有する固定資産を修理するために支出した金額のうち、固定資産の価値や耐久性を高める支出を資本的支出と呼ぶ。
資本的支出の例
資本的支出と修繕費は、別々に経理処理しないといけない。たとえば、次のような金額は、原則として資本的支出に該当する。
(1) 建物の避難階段の取付けなど、物理的に付け加えた部分の金額
(2) 用途変更のための模様替えなど、改造や改装に直接要した金額
(3) 機械の部分品を特に品質や性能の高いものに取り替えた場合で、その取替えの金額のうち通常の取替えの金額を超える部分の金額
固定資産の価値が元の価値より上昇しないのであれば、修繕費として計上してよい。具体的には、壊れていたものを元に戻したり、定期的な取り換えやメンテナンスをしたりする場合だ。
資本的支出と修繕費の違い
修繕費は原状回復の費用、資本的支出は価値を増加させる費用といえるだろう。
なお固定資産の部品を交換する際に、元の部品よりもグレードの高い部品に取り替えることで、固定資産の価値が増加する場合もある。
その場合、元の部品に取り換えたと仮定した金額を修繕費として計上してよい。その差額のみを資本的支出として計上する。
資本的支出の会計処理
資本的支出の場合、修繕費と見なされる部分を抜き出して、残りは資産計上して複数年に渡り減価償却する必要がある。
修繕費の場合、支出したときに損金算入が認められている。損金に算入することで利益が減り、結果として税額が減る。
そのため、該当会社の経理状況にもよるが、修繕費として計上するほうが節税上は有利だという。
資本的支出と区別したい修繕費に含まれる費用
国税庁のホームページによると、以下のような金額は修繕費に含まれる。
・建物の移えいまたは解体移築をしたときの費用
※解体移築の場合、旧資材の7割以上がその性質上再使用でき、当該旧資材をそのまま利用して従前の建物と同一の規模および構造の建物を再建築するものに限る
・機械装置の移設に要した費用
※解体費を含む
・地盤沈下した土地を沈下前の状態に回復するために行う地盛りにかかった費用
※土地の取得後直ちに地盛りをした場合や、土地の利用目的の変更その他土地の効用を著しく増加するための地盛りをした場合、地盤沈下により評価損を計上した土地について地盛りをした場合は除く
・建物や機械装置などが地盤沈下により海水等の浸害を受けたために行う床上げ、地上げまたは移設に要した費用
※従来の床面に対して明らかに改良工事であると認められる場合は改良部分を差し引く
・使用している土地の水はけをよくするために行う砂利・砕石などの敷設にかかった費用および砂利道または砂利路面に砂利・砕石などを補充するための費用
資本的支出と修繕費の判定フローチャート
固定資産の価値を増加させる支出は資本的支出、固定資産の下がった価値を元の価値に戻す支出は修繕費と覚えておけば間違いはない。しかし、それでも資本的支出と修繕費を区別しづらい費用もあるだろう。
そのようなときは、以下のフローチャートを参考に判断しよう。
ここからは、フローチャートの各項目について詳細を説明していく。なお、判断したい支出の金額を該当金額、対象となる固定資産を該当資産と呼ぶことにする。
判定要素①:20万円未満
該当金額が20万円に満たない場合、該当資産の価値が増加する支出であったとしても、修繕費として経費計上できる。
判定要素②:約3年以内の周期
修理や改良が約3年以内の期間を周期として行われることが既往の実績その他の事情からみて明白なとき、該当金額が20万円以上であっても修繕費として経費計上できる。
ただ、購入してから一度も修理や改良をしていない場合もありえる。その場合でも、一般的に3年以内の周期で行われる修理や改良であれば、修繕費として経費計上して問題ない。
判定要素③:維持管理や原状回復
該当資産の価値が元の価値より上昇しない場合、修繕費として計上してよい。
維持管理とは該当資産が通常の機能を発揮し続けるようにすること、原状回復とは価値が低下した該当資産を元の価値に戻すことだ。
該当金額が明らかに維持管理や原状回復を目的とした支出であるなら、3年周期や20万円という数字を気にせず修繕費として経費計上できる。
判定要素④:資産価値や使用可能期間の増加
該当金額が、該当資産の価値や使用可能期間を増加させる支出である場合、資本的支出として計上する。
判定要素⑤:60万円未満もしくは前期末取得価格の10%以下
資本的支出と修繕費の判断が明らかでないケースにおいて、「該当金額が60万円に満たない場合」もしくは「該当金額が修理や改良に係る該当資産の前期末における取得価額の約10%相当額以下である場合」は、修繕費として損金経理できる。これに該当しない場合は資本的支出として計上する。
そのほか、災害により被害を受けた場合の特例があったり、ソフトウエアに係る資本的支出と修繕費の定めがあったりするので、見落とさないようにしたい。
資本的支出は不動産オーナーにも関係する
資本的支出と修繕費の判断は、事業会社の経理処理だけではなく、不動産オーナーにも関係する。
特に収益不動産を保有している場合、入居者が退去するたびに原状回復の作業が発生する。入居者が入居する前の状態に戻す作業であれば、原則として修繕費で問題ない。
しかし、入居者が入居する前の状態よりもグレードが上がる場合は原則として資本的支出になる。
不動産の場合、退去時の原状回復以外にも固定資産に関するさまざまな費用が発生する。
たとえば、外壁の塗装工事、屋上の防水工事、エレベーターの点検、消防設備の設置、トイレの修理、エアコンの交換、間取変更の工事などの費用だ。
固定資産の価値を増加させた費用であっても、フローチャートの選択肢によっては修繕費で問題ない場合もある。
なるべく多く損金を計上して税負担を圧縮したいなら、「どうせ資本的支出だから…」と諦めず修繕費にできないか確認しよう。
もし資本的支出と修繕費の判断に迷う場合はフローチャートを活用してほしい。
文・菅野陽平(ファイナンシャルプランナー)