学研HDといえば「学研教室」やかつての「学習と科学」など教育系のイメージが先行するが、今や教育事業と並ぶもうひとつの柱となっているのが高齢者福祉事業だ。2020年9月期の高齢者住宅・介護を含む医療福祉サービス事業の売上は、全社売上のうちの約42%を占める。学研HD取締役であり子会社の学研ココファンHD社長を務める五郎丸徹氏に、高齢者福祉事業の今後について話を聞いた。
全国472棟・1万4129室の高齢者住宅を運営
学研グループの高齢者住宅は、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とグループホームが中心だ。全国30都道府県に拠点を展開し、運営棟数は472棟、居室数は1万4129室(21年6月1日現在)。内訳は、サ高住が136拠点7483室、グループホームが283拠点5399室、他に、有料老人ホームや都市型経費老人ホームなど。また、居宅介護支援事業所や訪問介護事業所、デイサービス等の在宅サービスも運営する。
学研HDの20年9月期の売上高は1435億6400万円、営業利益は50億7500万円。セグメントは、教育分野(教室・塾、出版コンテンツ、園・学校)と、医療福祉分野(高齢者住宅、認知症グループホーム、子育て支援)の2つ。医療福祉分野における高齢者福祉事業の売上は、20年9月期の実績で558億円だ。学研HD内では、学研ココファンと、18年にM&Aでグループ入りし、認知症高齢者向けグループホーム「愛の家」を全国展開するメディカル・ケア・サービス(以下、MCS)の2社が、高齢者福祉事業を担っている。
学研グループとして
04年に介護事業参入
学研グループが高齢者福祉事業に参入したのは、2004年。学研では長らく、昼間在宅する主婦に向けた「学習と科学」等の訪問販売事業が売上を牽引していたが、女性の社会進出による在宅率の低下と少子化という、世の中の大きな流れに逆らうことは難しかった。一方で顕著だったのが、高齢化による介護需要の高まりだ。急増するそのニーズに対応すべく、五郎丸氏を含む3名で高齢者福祉事業を担うココファン(現・学研ココファンHD)を立ち上げた。
当時は介護保険スタートから4年が経ったタイミングで、既に新規参入組は一巡していた。学研ココファンは、当初は在宅の訪問介護事業からスタートし、様々な試行錯誤の後に、サ高住を中心とした展開へと軸足を移していった。
「当時はなぜ学研が介護サービスをということで社内からも反対されることが多かったですね。(学研ココファンは)会社として軌道に乗るのに10年かかりました。かなりの出店コストがかかる中で最初から積極的に増やしてきたのは、当時の経営陣の英断だったと思います。一番苦しい時でしたから」(五郎丸徹取締役)
学研グループとしては、後にこの出店攻勢が実を結ぶこととなる。出版が厳しくなり教育事業が伸び悩む中、高齢者福祉事業は逆に売上を伸ばしていき、第二の柱へと成長した。
今後5年でサ高住100棟
グループホーム50棟以上出店
学研のサ高住は、年金生活を想定し、月あたりの費用が全て込みで15万円~20万円程度から用意している。ターゲットはサラリーマン層だ。物件は、主にサブリースによるもので、オーナーとの20年契約だ。サブリースの表面利回りは7%前後という。建設費は600坪で6億円程度だ。
サ高住は、運営側にも住み手にも「フレキシブル」である点が利点だが、経営を考えると、それ故にマニュアル化しづらく、運営の難易度は低くない。また、介護事業は制度ビジネスのため、介護保険適用者の利用が一定以上ないと介護保険収入が見込めないリスクがある。
「僕らは高齢者住宅ではサ高住が一番いいと思っています。入居者の自由やサービスを選ぶ権利があり、安心・安全と共にその人らしい暮らしができます。ただ、経営は難しい面もあります。介護度これくらいの人が何人、元気な人が何人いて、とビジネスモデルを組んでも、例えば全部元気な人が入って介護事業が赤字になるというケースも考えられます」(同氏)
介護業界全体としては今、高齢者住宅の建設数はペースダウンしていると五郎丸氏は言う。
「サ高住も老人ホームや特養も、建設は停滞しています。それは、施工費が高いから。あとは、人手不足が影響しています。100床の特養をオープンしても50床だけ開けるというのも珍しくありません。しかし学研グループとしては、まずこの5年は徹底的に出そうというのは決めています。サ高住は年間25棟、5年で100棟・5000室以上。グループホームについては、年間10棟以上は開設していく計画です」(同氏)
学研グループが出店の手を緩めないのは、団塊の世代が本格的に高齢者住宅を利用するようになる、「少し先」の未来を見据えているからだ。
「団塊の世代が高齢になり切る2025年問題が広く取沙汰されていますが、実は75歳だとまだまだお元気な方も多く介護保険もあまり使われません。むしろ2035年問題の方が大きな問題だと考えています。そういう意味では、今しっかり整備していかないと足りなくなります。介護も必要ですし、夫婦のパートナーのどちらかが亡くなって…とか、子供が独居を心配して、など、介護や高齢者住宅のニーズが顕在化するのは80代の方が圧倒的に多い。その点を踏まえて今から準備しておかなければなりません」(同氏)
これからの高齢化社会は人口減少社会だ。年老いたその先に住まう場所として、「自宅以外の家」がますますその存在感を強めている。
「5年10年経ったら本当に人材不足で、場所によってはヘルパーさんが個別の家に行くのが難しくなってきます。飛び地の居宅を少ない人数でカバーするにも限られた時間では廻りきれなくなります。その観点でもこれからの日本では、後期高齢者になってどこか具合が悪くなった時の住まいの選択肢は、集合住宅を勧めたい。(人手がいなければ)見守りもできないし介護もできない。そういう意味ではサ高住や老人ホームは、もっともっと重要になると思います」(同氏)
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