スパイダープラス【4192・マザ】建設業界向け図面・現場管理アプリで急成長 大手ゼネコンなどで採用広がる
伊藤 謙自社長

 今春、マザーズに新規上場したスパイダープラス(4192)が好調だ。上場初日の株価である1685円(21年3月31日終値)を抜き、2461円を更新(21年6月2日終値)。建設系DXに対する期待感もあり、市場でも注目されている。事業の詳細と成長性について、同社を率いる伊藤謙自社長に話を聞いた。

伊藤 謙自社長
プロフィール◉伊藤 謙自(いとうけんじ)社長
1973年8月生まれ、北海道出身。建設資材商社営業、熱絶縁工事の施工管理を経て、97年伊藤工業を創業。建設業界のIT化の遅れを体感し、タブレット登場とともに建設業をターゲットにしたICT事業を開始。2000年、ケイ・ファクトリー(現スパイダープラス)設立、代表取締役就任(現任)。

 今、建設業界を取り巻く潮流が劇的に変化している。2021年から2035年までの国内の建設業投資額が63兆円とほぼ横ばいの予測※1に対し、建設業従事者は2014年から2025年までで約100万人のマイナスになる見込み※2だ。建設現場の急速な高齢化と若者離れが進み、年々と就業人数が減少。さらに労働時間は全産業が年間1630時間に比べ、建築業界は2005時間※3と、2割超も多い。追い討ちをかけるように3年後の2024年から建設業界にも働き方改革関連法が施行されるため、建設業界の業務効率化、労働時間短縮は急務となっている。

 そんな中で、建設業に特化したDX(デジタルトランスフォーメーション、IT化による業務効率を図る)を推進するアプリの開発・販売を行なっているのがスパイダープラスだ。同社アプリ「SPIDERPLUS(スパイダープラス)」は、建設現場で使われる建築図面をデジタル化し、写真管理、報告書作成などをタブレットひとつで完結できる。同社顧客の2・5割がビルや商業施設などの元請けとなる大手ゼネコン、7割が大規模な建設現場で建設作業、電気・空調・配管などを担うサブコンである。

「例えば、商業施設開発の1案件でもゼネコン1社に対してサブコン6社などが入り、現場監督も複数人、設計図は1000枚以上にのぼることもあります。そうした図面を全て持ち歩くのは大変ですし、必要な図面が現場になくて事務所に取りに戻って時間をロスすることもあった。多くの人が関わる現場なので、情報共有が即座に、スムーズにできることが業務効率化に直結します」(伊藤謙自社長)

 スパイダープラスを導入することで業務効率が上がり、1日につき平均2・5時間も労働時間が削減した例もあるという。

大手ゼネコン・サブコンが導入
月次解約率は1%未満

 同社アプリの導入企業は鹿島(1812)、鴻池組といった大手ゼネコン、電気設備関連では九電工(1959)、きんでん(1944)、空調設備関連では高砂熱学工業(1969)が並ぶ。2011年にスパイダープラスをリリースし、ID単位の月額制をとり顧客のニーズを反映しながら機能を次々に追加。顧客ID数は前年同期比約30%伸び、4万IDを超えた。主要顧客がサブコンという点が成長の根源の一つ。

「例えば、サブコンの一部の現場監督が導入してくれて、社内で使いやすいとクチコミで広がって会社全体のID数が増えていくケース。また、複数のサブコン間で共有アプリを使おうということで、1つの工事案件で複数社が同時に導入してくれたり。業界全体が使っているというデファクトスタンダード効果もあります。建設現場では実はサブコンが発言力を持っていることもあり、『もうスパイダープラスを使っているからこっちにしてくれ』と言って、それがゼネコンへの導入のきっかけになったという事例もあります」(同氏)

 前述の通り建設業界は働き方改革適応などでDX関連は高い成長可能性が見込まれる市場だが、他社の参入障壁となっているものはあるだろうか。建設系DXというとANDPAD社も有名だが、同社は戸建ての木造個人宅がメインであり、住宅以外のビル・商業施設など鉄筋施設をターゲットとするスパイダープラスとは市場が異なるという。

「個人住宅以外の建物は配管などもより複雑で、現場監督も常駐しており顧客層が違います。当社は現場監督が欲しい機能に特化し、10年前から先陣を切って主要なゼネコン・サブコンに入り、実績を積み上げてきました。さらに、営業とカスタマーサポートが協力して顧客の支援にあたり、会社単位の月次平均解約率が1%を切る状態を保っています」(同氏)

顧客との対話力を大切に
サービスに終わりがないから面白い

 IT企業というと少々ドライなイメージもあるが、同社は顧客との対話力に重きを置いている。

「当社ではアクティブ率が一定以下の場合、フォローする体制を整えてます。こちらから積極的に勉強会の実施やヒアリングをして、お客様を支える仕組みづくりをしています。私が前職で断熱材の営業をしていた時は、担当企業に毎日通いました。根性と誠意の大切さは、今のプロダクトでも一緒です。黙っていても売れるだろうと思っては終わりです。このビジネスが楽しいのは、サービスの終わりがないこと。お客様との対話の中で現場で必要なサービスは何かを教えてもらい、これからも共に作り続けていきたいと考えます」(同氏)

 前期の年間経常収益は30%以上の伸び率。今期予想は増収の一方、広告や採用関連での積極的な先行投資により、赤字計上を見通す。

 株主還元については「今は配当というよりも、成長投資に使ってトップラインを伸ばし、営業利益の伸長に注力するフェーズにあります。今は株価を上げていくことが一番の投資家に対する還元だと考えます」(同氏)

※1 (社)建設経済研究所「建設投資の中期予測(2035年度までの見通し)(2021年3月26日発表)」参照
※2 日経BP「建設テック未来戦略(2020年3月13日発行)」参照
※3 厚生労働省「毎月勤労統計調査」2020年9月確定版参照

(提供=青潮出版株式会社