ミドリムシを原料にしたヘルスケア食品などで知名度の高い会社ユーグレナですが、最近は「バイオ燃料分野」で存在感を高めつつあります。ユーグレナ社がバイオ燃料事業を進めている理由、プロジェクトの進捗状況、将来の可能性などをわかりやすくお伝えします。

ユーグレナ社が力を入れるバイオ燃料事業とは?

なぜ今、ミドリムシの会社ユーグレナはバイオ燃料事業に突き進むのか
(画像=scharfsinn86/stock.adobe.com)

ユーグレナ社といえば、ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養の技術を世界ではじめて確立したバイオベンチャーです。ユーグレナの特徴はビタミン、ミネラル、アミノ酸、不飽和脂肪酸など計59種類もの栄養素が含まれていることです。同社はユーグレナ入りの健康食品や化粧品の開発・販売を軸に、個人向けの遺伝子解析サービスなども展開しています。

今、ユーグレナ社が新たな事業として力を入れているのがバイオ燃料事業です。バイオ燃料とは、木や家畜の糞尿などバイオマス(生物資源)をもとにつくった燃料のことです。バイオ燃料は石油やガソリンなどと同様、使用時にCO2(二酸化炭素)を排出しますが、生産過程の光合成などでCO2が吸収されるため脱炭素につながります。

ユーグレナ社のバイオ燃料の場合、「使用済の食用油」や「ミドリムシを熱処理した油脂」などを原料としています。一例では、「使用済みの食用油90%・ミドリムシ最大10%」のような混合率でバイオ燃料を製造しています。

ユーグレナがバイオ燃料事業を進めている理由

バイオ燃料は従来の燃料である石油よりもコストが割高です。さらに廃棄物由来のバイオ燃料よりもミドリムシ由来のほうが、コストが1.5〜2倍程度も割高になります。それでもユーグレナ社がバイオ燃料を手掛ける理由について、同社社長の出雲充氏は著書のなかで次のように解説しています。

私は、一〇〇%(原文ママ)儲けるためだけにユーグレナ社でバイオ燃料事業を行っているわけではありません。それは、持続可能ではない現在の社会を持続可能な社会につくりかえるために必要不可欠な技術、仕組みだと考えているからやっているのです。
引用:『サステナブルビジネス 「持続可能性」で判断し、行動する社会へ』

この割高なコストについて、バイオ燃料事業をけん引してきた副社長の永田暁彦氏は、将来の需給バランスの変化によって「どこかで廃棄物(の燃料)とミドリムシの燃料の価格がゴールデンクロス(逆転)すると思っている」と対談で解説しています。
引用:ニューズピックス「成毛眞 2040 未来からの提言」

永田氏は対談のなかで、上記のゴールデンクロスが起こるまでは廃棄物由来の原料を使いつつ、バイオ燃料事業を回していく予定であると述べています。

ユーグレナ社のバイオ燃料導入企業は26社まで広がる

2018年、ユーグレナ社では横浜市鶴見区に約58億円(公的な助成金含む)をかけて、バイオ燃料製造のための実証実験用プラントを竣工。その生産可能量は年間125KL(1日あたり生産量目安:5バレル)で、バイオジェット燃料、バイオディーゼル燃料、バイオナフサを自社で製造することが可能になりました。

このプラントでつくられたバイオ燃料は、2020年から大型バス、配送車、船舶、消防車、ドローンなどで導入が進められています(実証実験含む)。

ユーグレナ社の直近の決算説明では、同社のバイオ燃料の導入企業数が着実に増えていることも紹介されています。

さらに、このプラントでつくられたバイオナフサを混合したハイオクの一般販売も期間限定で行われています。このような実績を見ると、ユーグレナ社のバイオ燃料事業が軌道にのれば、BtoB、BtoCの両方で幅広く展開できる可能性を感じさせます。

2021年に入ってバイオジェット燃料の事業が本格化してきた

このユーグレナ社のバイオ燃料事業で2021年に入って大きく進展したのが「バイオジェット燃料」です。同年6月4日、廃棄油由来・ミドリムシ由来のバイオジェット燃料が国土交通省の保有する飛行検査機「サイテーションCJ4」に使われました(羽田空港から中部国際空港間)。

そして、その25日後の同年6月29日、ユーグレナ社のバイオジェット燃料を民間が所有するプライベートジェット機「ホンダジェットエリート」のフライトでも使用されました(鹿児島空港から羽田空港間)。

商業用プラントを予定通り稼働させられるかが大きな分かれ目

ここまで見てきたように、ユーグレナ社はバイオ燃料の実績を積み重ねてきました。ここから先は商業化のフェーズに入り、まさに正念場といえるでしょう。

分岐点になるのは、実証実験用プラントの約2,000倍の生産能力を持つ商業用プラントの行方です。ユーグレナ社では、商業用プラントの稼働する目標を2025年と発表しています。これが実現することで、現在赤字のバイオ燃料事業の黒字化が見込まれます(2020年9月期は約10億円の赤字)。

一方、日本経済新聞 電子版では「建設などの進捗次第では黒字化が26年9月期以降にずれ込む可能性もある」としています。

この商業用プラントを予定通りのスケジュールで稼働させられるのか、大幅な変更があるのかでとくに投資家の評価は大きく変わりそうです。加えて、実証実験用プラントよりも大型の商業用プラントの建設には莫大なコストがかかります。既存のヘルスケア事業などと先行投資がかさむバイオ燃料事業で、うまく折り合いをつけて安定経営をしていけるかにも注視したいところです。

なお、直近のユーグレナ社の売上高は通期・四半期どちらで見ても好調です。2021年8月発表の2020年10月−2021年6月期の連結決算の売上高、2021年4−6月期の四半期の売上高ともに前年同期比27%増となっています。

国内外で藻類の研究や実証実験などが進んでいる

バイオ燃料事業は、次世代の産業を支える存在だけに成功を収めれば莫大な利益が見込めます。ただそれだけに、国内外の競合は多いです。そのなかでユーグレナ社がシェアをしっかり確保できるのかも今後、同社が成長していくためのポイントとなります。

このテーマでは日本産業新聞に掲載の日本総合研究所常務理事・足達英一郎氏のコラム「日米欧、藻類活用で知恵比べ 燃料代替やCO2吸収」がくわしいです。このコラムなどをもとに、まずは国内企業の藻類をベースにしたバイオ燃料の開発状況を見てみましょう。

ユーグレナ社のプロジェクトと同じ藻類をテーマにバイオ燃料では、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)とIHIが藻類を用いた航空機用バイオ燃料を開発し実証実験に成功しています。合わせて、デンソーでは新種の藻類にCO2を吸収させてバイオ燃料を生産する研究を進めています。ただし、ユーグレナ社ではデンソーの藻類を原料のひとつにする計画があるとも報じられています。

また、バスや飛行機の燃料分野ではないものの、日本製鉄らのグループが海藻を製鉄所の高炉炭素源として使うプロジェクトに着手しているのも見逃せません。

海外に目を転じると、さらに競争が激しくなります。域内や国による支援で藻類をエネルギーなどに活用する動きが活発になっています。欧州ではエネルギーや食料などの原料となる藻類の可能性に着目し、欧州委員会が2022年頃に藻類に関する戦略文書を打ち出そうとしているとのことです。アメリカではエネルギー省が藻類を活用してCO2削減を進める企業に800万ドルの予算を投下すると発表しています。

ヘルスケア主体の会社から脱却できるか、地力が試される

ユーグレナ社単体で見ると、バイオ燃料事業が着実に進んでいて将来の可能性を感じさせます。一方、視野を広げて藻類をテーマにしたバイオ燃料の国内や海外の動向を見ると、競合の多い厳しい市場ということを痛感します。

ユーグレナ社は2020年、それまでの経営理念やビジョンを刷新し、「サステナビリティ・ファースト」のフィロソフィーを掲げました。同社がこの厳しい市場環境をかいくぐり、バイオ燃料事業の成功によってヘルスケア主体の会社から脱却し、サステナビリティを通して広く社会貢献する会社に進化できるか、地力が試されています。

(提供:Renergy Online



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