フードロス削減のトレンドとして、廃棄可能性のある食材や規格外の食材などを原料にしたサステナブルなお酒が次々に誕生しています(発泡酒、ビール、酎ハイ、スピリッツなど)。その代表的な事例をご紹介します。
フードロス削減のお酒の事例1「売れ残りのパンから生まれた発泡酒・ビール」
発泡酒やビールなどの主な原料は大麦の種子を発芽させた麦芽などです。サントリーによると、大瓶1本(633ミリリットル)のビールをつくるのに必要な大麦は両手ひと盛り分(約110~120グラム)。それなりの量が必要ですが、売れ残りのパンを代用することで大麦の使用量を減らす効果があります。
使用する麦の23パーセントを売れ残りのパンで代用
横浜高島屋の地階にあるパンのセレクトショップ「ベーカリースクエア」では、約40ブランド500種類以上のパンを揃えます。取り扱うパンの量が多いだけに一歩間違えると大量の廃棄商品が発生しかねません。同店ではフードロスを抑えるため、冷凍販売や廃棄パンの堆肥化などに取り組んでいます。
2021年8月、ベーカリースクエアがさらにフードロス削減を進めるために始めたのが、同店で売れ残ったパンでつくった発泡酒「RE:BREAD(リ ブレッド)」の販売です。この商品では廃棄間近のパンを発泡酒の原料になるよう加工。本来使用する麦の23パーセントを廃棄間近のパンで代用しました。
気になる価格は330ミリリットル瓶で税込693円。一般的な発泡酒350ミリリットル缶の価格130〜150円程度と比べると約5倍もの価格差があります。
この価格について「サステナブル商品とはいえ割高では?」と感じる人もいるかもしれませんが、「2021年ジャパン・グレートビア・アワーズ金賞」など数々の受賞歴を持つ醸造所を併設した人気ビアパブ「ON TAP 江戸東京ビール」が製品化に協力しているということで値段分の付加価値を感じさせます。
RE:BREADの売れ行きについてベーカリースクエアに午後の早い時間帯に問い合わせると「RE:BREADは大変人気で本日分はすでに完売しています。また、在庫があるときでもお一人様2本限りとなっています(2021年8月27日時点)」とのこと。サステナブル発泡酒の人気の高さを実感しました。
シンガポール発のフードテック企業が日本にも進出
RE:BREADと同様、売れ残りのパンをアルコール飲料の原料にするプロジェクトは海外でも行われています。
フードロスのアップサイクルをテーマにする企業「CRUST(クラスト)」では、シンガポールのカフェやベーカリーから売れ残りのパンなどを回収してビールの原料に活用。ブランド創設から1年間で344キログラムの廃棄パンを削減したとのことです。
なお、CRUSTでは2021年2月より日本法人(CRUST JAPAN株式会社)を立ち上げ、日本進出に着手しています。日本国内の売れ残りパンから同社がつくった「CRUST LAGER(クラストラガー)」は国内の人気ビアハウスなどで取り扱われています。
フードロス削減のお酒の事例2「熟し過ぎたマンゴーから生まれた缶酎ハイ」
オリオンビールは沖縄県を本拠地に全国展開するアルコール飲料メーカーです。同社では2021年6月、フードロス削減に貢献する商品として缶チューハイ「WATTA(ワッタ) キーツマンゴー」を発売しています(沖縄県エリア並びに公式サイトで発売の数量限定品)。
WATTAは沖縄県素材にこだわったチューハイブランド。シークヮーサーやパッションフルーツなどの種類がありますが、ここに加わったのが熟し過ぎて廃棄される(可能性のある)豊見城市産キーツマンゴーを原料に使ったサステナブルな缶チューハイです。
キーツマンゴーの特徴は圧倒的な糖度の高さ。一般的なマンゴーの糖度10〜14パーセントに対し、キーツマンゴーの糖度は16〜19パーセント程度もあります。
地元メディア、沖縄タイムスプラスでは「WATTA キーツマンゴー」の商品開発エピソードを報じています。それによると、オリオンビールの早瀬社長が豊見城市の市長を表敬訪問した際にキーツマンゴーと出会ったのがきっかけとのこと。サステナブル商品のネタはちょっとしたところにあるようです。
ちなみにオリオンビールは、沖縄だからできるSDGs活動に積極的に取り組んでいる企業です。一例では、サンゴの植え付けを行っている「チーム美らサンゴ」への参加、循環型サイクルでつくるビールなどです。循環型ビール(商品名:オリオン ザ・ドラフト 初仕込)では「伊江島産の大麦を原料に使用→製造工程で出たビール粕(かす)の堆肥で大麦を生産→収穫した大麦を使用」というサイクルを実現しています。
オリオンビールでは「WATTA キーツマンゴー」をフードロス削減に向けた商品の「第1弾」として位置づけています。SDGsに積極的に取り組む同社から、今後どのようなサステナブル商品が生まれるのでしょうか。沖縄には数多くの特産品があるだけに期待が膨らみます。
フードロス削減のお酒の事例3「廃棄いちごから生まれたスピリッツ」
鹿児島県志布志市にある焼酎メーカー、若潮酒造が2021年7月に発売したのが廃棄可能性のあるいちごを使ったお酒「Fスピリッツ -ストロベリー&カルダモン-」です。このお酒は若潮酒造の本業である芋焼酎に志布志市産のいちごを漬け込んだものです。
同社では「いちごの自然な甘みと色合いを楽しんで欲しい」との想いから糖分・着色料・保存料が無添加のお酒に仕上げました。フードロス削減というメインテーマに自然志向という付加価値が合わさり、商品の魅力が高まっています。
今回、いちごのお酒が生まれたきっかけは、志布志市が主催したSDGsの勉強会です。新型コロナウィルスの影響で志布志市の特産品であるいちごの出荷量が減少。廃棄されるいちごがあることが話題にのぼりました。そして、いちごの廃棄削減を実現するために、生産者の「農lifeいちご村」と焼酎蔵元「若潮酒造」のコラボが実現しました。
若潮酒造では今回のいちごのお酒の企画がSDGsの17の目標のうち、No.12「つくる責任、つかう責任」とNo.17の「パートナーシップで目標を達成しよう」にあたるとしています。
加えて、入社3年目の女性社員が開発を担当したことからNo.5「ジェンダー平等を実現しよう」とNo.8「働きがいも、経済成長も」にも該当すると考えています。このように、サステナブル商品を企画する際には「SDGsのどの目標に貢献しているのか」を整理する視点も必要です。
今回のいちごのお酒の企画は「新たな問題点を見つけ、それを解決するため」に生まれたました。机上で企画を考えるのではなく、現実と向き合うこと。これがサステナブル商品の企画を立案するときのポイントなのかもしれません。
今後、サステナブルなお酒市場が拡大する可能性も
こうやって複数の事例を通して見ていくと、お酒というものが廃棄品などで新たな価値のある商品を生む「アップサイクル」向きのジャンルということがよくわかります。
SDGsの意識が高まるなか、大手飲料メーカーなどがサステナブルなお酒の分野に進出してくる可能性は十分あります。最近では、若い世代のお酒離れが進んでいるといわれます。一方、若い世代ほどSDGsの意識が高いともいわれます。
もし、世の中にサステナブルなお酒が増えれば、両者の溝を埋めることも可能かもしれません。SDGs時代に合った新しい感性のお酒が生まれることに期待しましょう。
(提供:Renergy Online )
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