ESGやSDGsの観点から木造の大型建築に注目が集まります。海外では80メートル級の木造ビルもありますが、国内では耐火基準などが壁になって中高層木造ビルが増えにくい環境でした。

しかし近年、施工技術や部料の進化によって、中高層木造ビルのプロジェクトが次々に実現・発表されています。ここでは国内の木造ビルの主な事例をご紹介します。

木造ビル建設は「炭素の固定化」と「エネルギー抑制」で環境貢献

ESGやSDGsに貢献する木造ビル 大林組、竹中工務店、清水建設などが本格化
(画像=Dominique/stock.adobe.com)

脱炭素はESGやSDGsで重要なテーマがですが、これを実現する方法の1つが木材の使用です。とくにビルなどの大型の建物は木材の使用量が多いため、脱炭素への貢献度が大きいです。

木材の使用が脱炭素に貢献する理由は、樹木が成長する過程で大気中の二酸化炭素を取り込むためです。この木材を建物などに活用すると、二酸化炭素の固定化(長期的に貯め込むこと)につながります。林野庁によると、木造の建物は鉄骨や鉄筋コンクリート造の建物と比較して約4倍も炭素を貯め込む効果があるそうです。

合わせて、製造や加工のときの二酸化炭素の排出量で見ても、木材は鉄やコンクリートなどに比べて少なくて済みます。このように「二酸化炭素の固定化」と「製造や加工の二酸化炭素排出の抑制」で効果のある木材でつくったビル建設プロジェクトが国内で複数動き出しています。

木造ビルの事例1:地上7階建ての純木造ビルが仙台に誕生

はじめにお伝えしておきますと、この項で「純木造ビル」と呼んでいるのは主な構造体を木材でつくった「鉄骨造・鉄筋コンクリート造と組み合わせていない」木造ビルのことです。この純木造ビルで最近注目される事例では、2021年3月に宮城県の仙台駅近くに完成した「髙惣木工ビル」があります。

髙惣木工ビルは地上7階建て(建物高さ約27メートル)。用途は1・2階がテナント、3~6階がオフィス、7階が発注者の事務所 兼 住宅となっています。

ESGやSDGsの観点でいえば、この純木造ビルに使われた木材の中身のチェックも大切です。どのような木材が使われたのでしょうか。木材の種類はスギまたはヒノキですべてJAS規格のものです。また、木材の調達先は岩手、宮城、福島、青森、栃木など国内産に限定しています。ビルの施工現場である仙台近郊から木材を調達したことで輸送距離が短くなり、二酸化炭素の排出量を低減している効果があったと考えられます。

なお、この純木造ビルの俊工時には、持続可能な森林から伐採された木材を使ったことを証明するために「SGEC/PEFC CoCプロジェクト認証」が取得されています。

この純木造ビルの施工を担当したのは株式会社シェルターという山形市に拠点のある会社です。シェルターは木造の大型建築を得意にしていますが、それを可能にしているのは同社が開発した数時間の耐火性能を持つ「COOL WOOD」という木質耐火部材です。

シェルターでは「COOL WOOD」などの技術力によって、2018年3月に新潟市で5階建て純木造ビルを施工、翌2019年8月には木造5階建ての山口県の長門市本庁舎を施工した実績などがあります。これまで培った大型木造建築物のノウハウをもとに今回、地上7階建てという高さに到達したといえるでしょう。

木造ビルの事例2:地上11階建ての純木造ビルの建設が横浜で進行中(大林組)

大林組は、横浜市のJR関内駅近くで地下1階・地上11階建て(建物高さ約44メートル)の高層木造ビルを建設中です。地下1階は鉄筋コンクリート造りですが、地上部の11階は主な構造に木材を使う純木造ビルとなっています。前出の仙台の純木造ビルと比べて、階数で4階、高さで17メートル上回っています。

このビルの竣工自体は2022年3月の予定ですが、2021年5月に工事の途中経過を報道陣に公開しています。木造ビルの用途は大林組自身の自社研修施設です。

この木造ビルは防火地域に立地するため耐火構造が欠かせませんが、大林組が開発した木造部材「オメガウッド(耐火)」を柱と梁に採用。さらに、前出の仙台の木造ビルを手がけたシェルターの協力によって開発した耐火性能を持つ柱が採用されています 。

木造ビルの事例3:地上12階建ての木造オフィスビル計画が日本橋で始動(竹中工務店など)

さらなる木造ビルの高層化を目指すのは、三井不動産と竹中工務店が連携する東京・日本橋のプロジェクトです。地上12階建て(建物高さ約70メートル)にも及ぶ木造オフィスの建設を2020年9月に発表しています。 完成予定は2025年と先になりますが、実現すれば国内最高層の木造ビルになる予定です。

このプロジェクトでも実現するためのポイントは耐火性能ですが、竹中工務店が開発した耐火性能の高い木材を採用することでハードルをクリアします。施工技術では、「木造建築と鉄筋コンクリート造を組み合わせた技術を活用する」との報道もあります。その場合、前出のシェルターや大林組の純木造ビルとは前提条件が変わってきます。

とはいえ、木造ビルを脱炭素への貢献の観点から見ると、大切なのは「純木造にこだわること」ではなく「二酸化炭素を固定化すること」にあります。純木造ビルでなくても脱炭素に貢献することに変わりはありません。

木造ビルの事例4:地上12階建ての木造ハイブリッドビル計画を検討(清水建設など)

第一生命保険株式会社と清水建設が東京・京橋に地下2階・地上12階建て(建物高さ56メートル)の木造ハイブリッドビル計画を検討していることが発表されています。このビルには、木材・鉄骨・コンクリートを適材適所で組み合わせる清水建設の技術「シミズハイウッド®」が採用される予定です。
※木造ハイブリッドビルの建物規模は計画発表段階の想定です。

2021年6月、両社が連名で出したニュースリリースでは「今後、詳細の検討を進める」としています。一方、「多摩産材を含めた国産材を使用すること」「2025年以降の竣工を目指すこと」などの概要が明かされています。

このプロジェクトのもうひとつの注目点は、工事電力をすべて「再生可能エネルギーでまかなう予定(木質バイオマス発電由来のグリーン電力証書)」としていることです。これにより、削減できる二酸化炭素の排出量を約230トンと見込まれています。

国内の木造ビル本格普及には「木材価格の安定化」がポイント

2021年は国内の「中高層木造ビル元年」といっても過言ではありません。ここでご紹介してきたように、2021年前後を機に中高層木造ビルの竣工、あるいは、中高層木造ビルのプロジェクトが動き出しています。

今後、中高層木造ビルが増えてきそうな流れに水を差すのが「木材価格の高騰」です。アメリカの住宅需要の高まりを受けて、2020年末頃から世界的に木材価格の値上がりが鮮明になり、さらに2021年3〜4月頃に木材の価格が急騰しました。このいわゆる「ウッドショック」が国内の木材価格に長期的な影響を与えています。

この影響の一例としては、日本経済新聞 電子版(2021年8月3日付)では愛媛県の原木市場の平均単価が2ヶ月間で4割以上も上昇したことを伝えています。

ただでさえ、木造ビルのデメリットとして「コストが割高なこと」が挙げられます。木造ビル施工の現場では国の補助金利用などでこのコスト高を緩和する努力がされていますが、それにも限界があるでしょう。国内で木造ビルが普及し脱炭素に貢献するためにも、木材価格が安定化を願ってやみません。

(提供:Renergy Online



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