「RE100」は、100%再生可能エネルギーを利用して事業活動を行うことを目標とする企業連合です。加盟企業はどのような目的を持って活動を行っているのでしょうか。今回はRE100が目指す目的、日本で加盟企業が増えるための課題と併せ、不動産会社の取り組みについて紹介します。

RE100の目的は「脱炭素社会」の実現

【連載】出遅れるな。RE100加盟企業が行っている取り組み|不動産会社編
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

RE100は2014年に、国際環境NGOのThe Climate Groupが主体となって開始されました。RE100の最大の目的は「脱炭素社会」の実現です。

RE100加盟企業が世界で300社以上に増えている背景には世界的な脱炭素化への要求があります。投資家もESG投資を重視しており、年金基金などの巨額な資金を運用する機関投資家ほどその傾向が強くなっています。

欧州では化石燃料に関連する企業を投資対象から外す動きもあります。世界をマーケットにしている大企業にとって地球温暖化への対策は無視できない状況になっているのです。

日本の企業も状況は同じで、RE100への加盟がESG重視企業として1つのステータスになりつつあります。日本ではJCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)が加盟の窓口になっています。国内の参加企業は2021年8月現在で58社(JCLP公式サイト掲載のデータ)となっており、月を追うごとに少しずつ増加しています。

RE100に加盟するには以下の条件のうち、1つ以上該当する必要があります(JCLP公式サイト見解)。

  1. グローバル又は国内で認知度・信頼度が高い
  2. 主要な多国籍企業(フォーチュン1000又はそれに相応)
  3. RE100の目的に寄与する、何らかの特徴と影響力を有する
  4. 消費電力量が100GWh以上(日本企業は50GWh以上に緩和)

このうち4の条件が必須事項であるため、RE100にはある程度大きな規模の企業でないと加盟できないのが現状です。

日本企業がRE100を実現するためのハードルとは

日本企業がRE100を実現するためにハードルになるのが調達コストの問題です。世界的には太陽光発電のコストが火力・原子力よりも安くなっていますが、日本ではまだ割高です。

自然エネルギー財団の資料によると2019年における海外の太陽光発電コストは4セント(1ドル110円レートの日本円換算で5円/kWh弱)ですが、日本では2019年の実績値で13.1円/kWhとなっています。2030年には5.8円と海外並みに下がる見込みですが、現状どう調達するかが問題です。加えて調達方法も限定的です。

この問題に対し、2021年4月15日に行われた自然エネルギー庁の作業部会で、「急速にニーズが増大している電気の再エネ価値への需要家アクセスの向上を実現するため、異なる価値の取引について別の市場を形成している欧米の例を参考に、高度化法上の義務達成のための市場と別に、需要家が市場取引に参加できる再エネ価値の取引市場(再エネ価値取引市場(仮称))を新たに創設してはどうか」という提言がなされました。

この提言が実現すると、これまでの「高度化法義務達成市場」では小売電気事業者のみ購入可能で、取引対象も「非FIT(再エネ指定)証書」及び「非FIT(再エネ指定なし)証書」に限定されていましたが、新たな「再エネ価値取引市場」では大口需要家も購入可能になり、FIT証書も対象になります。

併存する2つの市場で3種類の非化石証書がすべて取引できるようになるのは大きな改革といえるでしょう。実現を期待したいところです。

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不動産会社はどのような取り組みを行っているか

では、不動産会社はRE100達成のためにどのような取り組みを行っているのでしょうか。各社の公式サイトを参考に見てみましょう。

東急不動産

東急不動産は、ビル賃貸を主力にする東急グループの大手不動産会社です。同社はRE100の目標を2050年から2025年に前倒しで達成するために、積極的な再生可能エネルギー事業を展開しています。

身近なところでは2021年4月に、「渋谷ソラスタ」を含む本社事業所および広域渋谷圏のオフィスビル・商業施設の計17施設で使用する電力を再生可能エネルギー利用に切り替えています。

再生可能エネルギー事業は2020年12月現在、総事業数53、定格容量1,145MWという規模です。北海道小樽市で風力発電所、千葉県長生郡で太陽光発電所を運営しています。

また、北海道松前町で地域マイクログリッド(小規模発電網)の構築に向けた取り組みを開始するなど、再生可能エネルギーと地域がともに発展することを目指す事業展開を行っています。

ヒューリック

ヒューリックは、駅近ビルの好物件を中心に保有する独立系不動産会社です。同社は2050年を目標年とする「環境長期ビジョン」を掲げています。

RE100については2025年という早い時期に達成することを目指しており、その方策の一環としてFIT制度を採用しない太陽光発電設備と、小水力発電設備の開発を進めています。

また、ビルの長寿命化にも取り組んでおり、100年以上テナントのニーズに対応でき、安全に使い続けられる長寿命化設計を標準仕様にしています。これによって廃棄物発生量と資源投入量を削減する戦略です。

もう1つ注目されるのが、日本初の耐火木造12階建商業施設を東京・銀座に建築したことです。全体的に不動産会社らしい環境への取り組みが目立ちます。

三菱地所

三菱地所は、東京・丸の内地区を基盤とする三菱グループの総合不動産会社です。同社はCO2排出量について、2017年比で2030年までに35%、2050年までに87%削減することを目指しています。

丸の内地区に多くのビルを保有する同社は、2020年3月にENEOS株式会社と電気供給契約を締結。「丸ビル」「大手門タワー・ENEOSビル」で再生可能エネルギー由来の電力の供給を受けています。

さらにグループ会社が運営するアウトレットモールでも再生可能エネルギーを使用しています。2017年12月から酒々井プレミアムアウトレットに自家消費用カーポート型太陽光発電設備を導入し、年間想定発電量約100万kWhを確保する計画です。

同社は今後さらに脱炭素化社会を実現するためにクリーンエネルギーとして新水素エネルギーの実用化を目指す方針も示しています。

三井不動産

三井不動産は、ビル賃貸、マンション分譲などを展開する三井グループの大手不動産会社です。同社が運営する代表的な施設「日比谷ミッドタウン」は省エネ(蓄エネ)と創エネを組み合わせ、東京都のCO2基準排出量と比較し、約20%のCO2排出量削減を実現しています。

同時に敷地内に合計約2,000㎡の緑化空間(緑化率約40%)を整備し、ヒートアイランド対策も行っています。

同社は森林保護活動にも力を入れており、東京ドーム約1,063個分に相当する約5,000ヘクタールの森林の保有・管理を行っています。三井不動産グループの森が吸収・固定した二酸化炭素量は約5,343
トンに上り、地球温暖化の緩和に貢献しています。

同社では竹中工務店と共同で、構造材に木材を使用した地上17階建の「高層木材オフィスビル」の計画に着手しており、行方が注目されます。

いちご

いちごは、不動産再生事業、REIT(不動産投資信託)運用、太陽光発電など多角的に展開するいちごグループの不動産会社です。同社は2025年までに事業活動で消費する電力を100%再生可能エネルギーにすることを目標にしています。

いちごグループではREITの上場投資法人である「いちごオフィス」「いちごホテル」が保有する不動産で消費する電力を含めて100%再生可能エネルギーにすることを目指しています。

同社が掲げるコンセプトでユニークなのは、「新築」ではなく「心築」を事業の軸としているところでしょう。既存の不動産を壊すのではなく、「活かす」ことによって長寿命化・省資源化を図る戦略をとっています。

同社によれば欧米諸国の建物の平均寿命が100年に対し、日本では30年程度で半数が取り壊され、建て替えが行われるといいます。また、日本の不動産寿命を100年にしたいとの思いを持って、環境負荷を低減する改修工事を行っています。

さらに、再生可能エネルギー事業も行っており、太陽光発電所や風力発電所は約200MWの発電規模を誇ります。

参考:各社公式サイト

真似したい取り組みはどれ?

今回は大手不動産会社の取り組みを紹介したため、開発のスケールが大きすぎて中小企業には真似できる要素が少ないかもしれません。そのなかで参考にしたいのは、東急不動産の取り組みです。同社では地域との共生を目指した事業展開を行っており評価できます。自社と地域がともに発展するという姿勢です。

この姿勢を参考に、自社ビルに太陽光発電設備を導入する際も、単に節電・売電目的だけでなく、導入をきっかけに社用車をEV車に変える、自社ビルの周囲を緑化する、猛暑の日にはビル前の道路に打ち水をするなど、さまざまな環境活動を行うことによって周辺住民・企業からの評価が高まり、自社のイメージアップにつながります。

RE100という連合体に参加する企業は限られますが、自社消費電力の再生可能エネルギー100%を目指すことはどの企業でも可能です。太陽光発電を中心にRE100への流れが国内でもさらに拡大することが期待されます。

(提供:Renergy Online



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