SDGsのゴール12「つくる責任つかう責任」の目標達成に向けファッション業界が苦悩しています。衣料品の廃棄があまりにも多いからです。製造するアパレルメーカー、販売する小売業界、そして使用するユーザーが力を合わせて廃棄の削減に取り組む必要があります。衣料品廃棄の現状とファッション業界の取り組みを紹介します。
ファッション業界のSDGsの課題は「つくる責任つかう責任」
ファッション業界はSDGsのゴール12である「つくる責任つかう責任」を背負っています。例えば「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、自社で生産した商品をユニクロの直営ショップで販売しています。つくる責任があると同時に、生産した商品をつかって販売を行う「つかう責任」も負っていることになります。
各アパレルメーカーは、受注データを基に適正な製造数量を割り出しているものと思われますが、販売機会の逸失を避けるため、どの程度の在庫を用意するかは難しいところでしょう。小売店も適正な在庫を持つように販売データを分析しながら発注の精度を上げることが必要です。
そして、最終ユーザーである消費者にも当然「つかう責任」があります。製造・小売・消費のすべての段階で廃棄を減らすように意識を高めることが大事なのです。
衣料品の廃棄はどれくらいあるのか
衣料品の廃棄は年間どれくらいあるのでしょうか。2020年1月28日に放送されたテレビ番組「ガイアの夜明け」によると、日本で1年間に供給される29億着のうち、実に約半数の15億着が売れ残っているといわれます。
衣料品の廃棄が増えている理由の1つは、売れ残った服をセールなどで販売するとブランド価値が下がるため、得意先とのルールによって廃棄処分にせざるを得ないという事情があります。アパレルブランドの服が売れ残った場合は、業者が抱え込むことになるというのです。
もう1つの理由がトレンドの細分化です。消費者の服の好みが多様化したことで、衣料品の種類自体が増加しているという事情があります。そのため、メーカーは販売機会の逸失を防ごうと十分な量を生産しようとして過剰生産になってきたのが実情です。
衣料品の廃棄が環境に与える影響
衣料品の廃棄は環境にも負荷を与えます。衣料品は多くの場合焼却処分されますが、焼却処分場から発生するCO2(二酸化炭素)が地球温暖化を加速させる一因になっています。
店舗だけでなく、家庭で処分される衣料品も相当な数に上るものと思われます。その大きな原因になっているのが、ファッションの低価格化です。デフレ社会という要因もありますが、服を安い価格で気軽に購入できるため、季節ごとに1~2回着て捨ててしまう人もいるようです。
グラフのように、衣料品購入単価は1991年を100とした場合、2017年には56.9まで下がっています。購入単価が下がって販売数量が増えた結果どうなったか。アパレルメーカーからの供給量が大幅に増えた半面、市場規模は1991年の15.3兆円から2016年には10.4兆円まで右肩下がりで減ってしまったのです。
アパレルメーカーは低価格の商品を大量に販売するため生産量を拡大し、その結果売れ残ったものが廃棄になるという悪循環に陥っていきました。衣料品の大量廃棄はファッション業界の構造的な問題であると考えることができます。
アパレルメーカーの「つくる責任」だけでなく、消費者も買いすぎに注意して服を大切に着る「つかう責任」を意識した消費行動が求められます。
人と地球環境に配慮した「エシカルファッション」とは何か
SDGsを考えるうえで、最近注目されているのが「エシカルファッション」という言葉です。エシカルファッションのエシカルとは「倫理的な」という意味を持つ形容詞です。人や社会、地球環境に配慮して素材を選び、製造・販売するファッションをエシカルファッションと呼びます。
近年は流行を取り入れながら低価格で販売する「ファストファッション」が隆盛を極めています。しかし、その裏には開発途上国の労働者が低賃金で大量に働いているという事情があります。その象徴になっていたのが、バングラデシュのシャバールにある「ラナ・プラザ」でした。8階建てのこの商業施設には、27のファッションブランドの縫製工場が入居していました。
2013年4月24日に、この施設で崩落事故が起きたのです。死者1,127人、行方不明者約500人、負傷者約2,000人を数える大惨事になりました。原因になったのが建物のずさんな安全管理で、耐震性を無視した違法な増築が繰り返されていたといいます。
さらに、なかでは約4,000人の従業員がすし詰め状態で働かされていました。生産性至上主義によって人間を道具としてしか考えない非人道的な経営方針が引き起こした事故といえます。
この事故をきっかけに適正な労働環境を確保して生産し、環境負荷がより低い素材を使ったエシカルファッションを買いたい、着たいという考え方が広まったといわれています。それはおそらく大切に服を着るという精神にもつながっていくのでしょう。
リユースに取り組むファッション業界の事例
ファッション業界も大量廃棄の問題を、手をこまねいて見ているわけではありません。アパレルメーカーや販売店も独自に廃棄削減に取り組んでいます。国内と海外の大手メーカー、小売店が衣料品のリユースに取り組む事例を見てみましょう。
国内メーカー ファーストリテイリング
ファストファッション最大手のファーストリテイリングは、子会社のGUと共同で使用しなくなった衣料品をそれぞれの店舗で回収しています。一度倉庫に集められた服は、難民キャンプなど世界中で服を必要としている人たちに届けられます。
寄贈されなかった服は、廃棄物固形燃料にして再利用されます。固形燃料は石炭などの化石燃料の代替になるため、CO2削減にもつながり、無駄のないリユース体制が敷かれているといってよいでしょう。リサイクルの場合は再製品化の段階でCO2が排出されますが、リユースは集めた服をそのまま使用するためCO2の排出がないというメリットがあります。
海外メーカー H&M(エイチ・アンド・エム・へネス・アンド・マウリッツ)
スウェーデンのアパレルメーカーで日本にも法人を持つH&Mは、服のみならず靴下や下着でもOKという大胆な回収活動を行っています。同社では2013年から全世界の店舗で古着の回収活動を始め、カーテンやテーブルクロスなど布製品であればすべて回収する方針を掲げています。
「2019年世界SDGs達成度ランキング」で国別2位にランクされるスウェーデンのメーカーらしく、SDGsに対する精神が徹底されているようです。
小売 近鉄百貨店
近鉄百貨店は、2021年8月にアパレルメーカーの在庫処分品など買い上げるshoichi(ショーイチ/本社:大阪府大阪市)と共同で廃棄衣料品削減プロジェクト「次へ活かす服」を開催しました。プロジェクトは、家庭などで不要になった衣料品を近鉄百貨店9店舗にあるギフトサロンで回収します。
回収した品はshoichiに引き渡し、同社で仕分けを行ったのちに東南アジア各地へ発送し、現地のNPOやNGOの協力で孤児院や養護学校などの、服を必要とする人に届けます。
このようなアパレルメーカーや小売店の取り組みが一定の効果をあげ、ピーク時には年間40億着近かった供給量が、最近では30億着前後まで減ってきています。供給量が減れば比例して廃棄量も減ることが期待できますので、この流れを継続させたいものです。
SDGsのゴール12「つくる責任つかう責任」を達成するには、製造元のアパレル企業、販売する小売店、購入する消費者が、それぞれの立場でこれからも協力していくことが求められます。
(提供:Renergy Online )
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