ビジネス界をリードする経営者は、今の時代をどんな視点で見ているのか、どこにビジネスチャンスを見出し、アプローチしようとしているのか。特集「次代を見とおす先覚者の視点』では、現在の事業や未来構想について上場企業経営者へのインタビューを通して、読者にビジネストレンドと現代を生き抜いていくためのヒントを提供する。

日本でもインターネットが急速に普及し始めた頃に小田原で起業し、eコマースのパイオニアとして急成長を遂げたHamee。2008年にはリーマンショックという世界的な経済危機が訪れたが、同社がこの年に本格提供をスタートさせたプラットフォーム事業はさらなる成長を力強くけん引した。Hameeの具体的な事業領域や独自の強み、今後の戦略などについて、2021年7月から新社長を務める水島育大さんから話を伺った。

(取材・執筆・構成=大西洋平)

Hamee株式会社
水島育大(みずしま・いくひろ)
Hamee株式会社代表取締役社長
1982年神奈川小田原市生まれ。慶応義塾大学商学部卒。
大学卒業後、銀行勤務を経て2008年にHameeに入社し、CFOとしてIPOに向けた管理体制の構築を主導し、2015年に東証マザーズ上場、2016年に東証一部への市場変更を達成。2018年より事業担当取締役、2020年からはHameeGlobal Inc.の理事も兼任し事業成長をリードしてきた。M&Aやスタートアップ企業への投資事業にも携わる。剣道五段。

黎明期にeコマースで創業し、一元管理システムで第2の成長

―日本における黎明期に、いち早くeコマースのビジネスを立ち上げていますね。

当社は1998年5月に、樋口敦士代表取締役会長が自分自身の地元である神奈川県小田原市で創業しました。天然石を使った携帯電話のストラップやブレスレットなどといったアクセサリーの企画・販売が当初のビジネスで、これが現在におけるコマース事業の出発点となっています。当時は携帯電話が急速に普及し、国内でも楽天をはじめとするeコマースが勃興し始めていた時代でした。当社も創業の翌年には自社直販サイト「携帯アクセ市場」をオープンする一方、2000年には販路を拡大するためにインターネットショッピングモールの「楽天市場」にも出店しました。さらに翌年には、海外展開を視野に入れたグローバル対応のECサイト「StrapyaWorld」もスタートさせています。お陰様で当社のスマホアクセサリーブランド「iFace(アイフェイス)」は、2020年12月末時点で世界累計販売数が2000万個に達しています。

Hamee株式会社
(画像=Hamee株式会社)

―2008年にローンチしたプラットフォーム事業が第2の成長エンジンとなりました。

コマース事業は順調に規模を拡大していましたが、当時は商品の発送に関するメールや電話での対応を人の手でこなしていたことから、従業員の業務負担が一気に重くなってしまいました。外部の受注管理システムを導入して負担の軽減を図ったものの、なかなか当社にマッチした状態で運用できません。なぜなら、楽天市場やヤフーショッピング、さらに自社サイトなど、様々な方面に販路を拡大していく中で、自社のニーズに見合うシステムがなかったからです。そこで、自前で開発に取り組みました。こうして生まれたクラウド型バックエンドソリューションシステムを他のEC事業者にも外販することになり、2007年11月から稼働を開始したのが「ネクストエンジン」です。当時としてはまだ珍しい初期投資不要のSaaS型システムとして翌年5月から外部向けサービスを開始し、月額従量課金制にしたことも先進的でした。2013年12月には「ネクストエンジン」のAPIを公開し、プラットフォームとしての提供も開始しています。

―「ネクストエンジン」の強みは、どういったところにあるのでしょうか?

eコマースを運営するユーザー目線から設計されており、楽天やヤフー、アマゾンといった複数のショッピングモールに出店する際に極めて効率的な一元管理を行える点です。受注から出荷に至るまでのプロセスをすべて管理できることに加えて、必要に応じてオプションのアプリを加えたり、他のシステムと連携させたりすることも可能です。サービスを立ち上げたタイミングとしても先駆者的な存在となり、現在の契約数は4,949社(2021年7月末時点)まで拡大して、導入実績で業界トップクラスとなっています。

―2008年に他の業界から転職した水島さんは、ちょうど「ネクストエンジン」が立ち上がってきた頃に参画したわけですね。

私も樋口と同じく小田原市の出身ですが、大学卒業後は銀行に勤務していました。2007年頃に知人を介して樋口会長と出会い、IPO(新規公開)をめざしているのでCFO(最高財務責任者)を務めてくれる人を探しているという話を聞いたのが入社のきっかけです。2008年からCFOとしてIPOの準備に着手し、2015年4月に東京証券取引所マザーズ市場への新規上場を果たした後、2016年7月には東証第一部へ市場変更を行いました。IPO後に実感したのは、やはり知名度と社外的な信頼性の向上ですね。大手企業にも「ネクストエンジン」を選んでいただけるようになりましたし、パートナーとしての協業もしやすくなりました。なお、私は2018年5月から事業担当取締役、翌年5月から取締役兼執行役員としてコマース事業のマネジメントに携わり、2021年7月から樋口に代わって代表取締役社長に就任しています。

新たに韓国製コスメ物販への参入も計画中

―水島新社長と樋口会長との役割分担はどうなっていますか?

まだ新たな体制に移行した直後で試行錯誤を行っているというのが現状ですが、基本的に樋口は会長として会社全体を俯瞰しながら経営陣をサポートし、個々の事業を実際にマネジメントするのは各担当役員となっています。唯一、樋口が直接的に携わっているのは新規事業の中核であるHamicです。2019年から参入したIoT事業で、これまでに子ども向けの音声メッセージロボットやプレスマホなどの独自製品をリリースしています。一方で最高執行責任者である私の役割は、「クリエイティブ魂に火をつける」という当社のミッションを果たすことです。そのためにも、短期的な売上の拡大だけを目的とせず、世の中を持続的によりよい方向へと導くことに貢献できるか否かという視点で新規事業を開拓すべきだと考えています。

また、当社がこだわっているのは、お客様とダイレクトにつながることができる事業であることです。世の中に役立っていることを実感できることは、従業員にとって大きなモチベーションとなります。大手IT企業から当社に転職したクリエイターたちの間でも、「お客様の声が直接聞こえてくるのがうれしい」という感想をよく耳にします。

―創業以来、小田原という場所に拠点を構えていることには、どのような理由があるのでしょうか?

たまたま樋口会長や私の出身地であっただけで、特に小田原という場所に強くこだわっていたわけではありません。手掛けている中核事業がeコマースなので、どこに拠点を構えても特に差し支えはなかったのも確かです。ただ、コロナ禍では都心に業務拠点を集中させるメリットが薄れてきていますし、むしろ今は人材の獲得においても、都心からほどよい距離にある小田原にアドバンテージがあると感じています。優秀な人材の多くはグローバルな視野のビジネスを求めていると思いますし、小田原という場所からそういった夢にチャレンジできることも当社の強みになってきそうです。

―経営者として、どのようなアプローチで知見のインプットを行っていますか?

月並みですが、私が心掛けているインプットはもっぱら朝夕の読書です。最高執行責任者という立場になったので、最近は特に経営哲学に関する書籍を選んで読んでいます。細切れの隙間時間を活用し、オーディオブックによる「耳読書」も採り入れています。また、5キロのランニングを毎朝欠かさないことが私にとってのルーティンです。コロナ禍になる前は週に2〜3回は地元の道場で、子どもたちに剣道も指導していました。

―コロナ禍でeコマースの需要が大幅に拡大していることは、貴社にとって追い風ですね。

ご指摘の通り、コロナ禍でeコマースへのシフトが急激に進んでいます。今まであまり利用していなかった消費者の方々がステイホーム生活を通じてeコマースの便利さを痛感し、裾野が一気に広がっているようです。こうした状況下であっても、eコマースを中心に事業を展開していくという当社のスタンスに変わりはありません。ただ、今は一元管理システムを通じてお客様のバックオフィス業務をサポートしていますが、コンサルティングなどを通じてさらに新たな価値を生み出していくことが重要だと考えています。数年前から社内で「カスタマーサクセス」をテーマに掲げているように、お客様がしっかりと使いこなせるようになるまでフォローアップしていくこともその一環です。こうして当社のサービスをフルに活用できるお客様が増えるのに連鎖し、契約数も急激に伸びていくという現象が過去には見られましたし、これからもその流れを継続させたいと考えています。

コマース事業におきましても、新たなチャレンジを続けていく方針です。スマホのケースなどはそう頻繁に買い替えるものではありませんから、もっと頻繁かつ直接的にユーザーとの接点が生じる新商材の開拓も進めています。その一環として、韓国の子会社(Hamee Global Inc)が開発・製造したコスメを「iFace」のユーザー層(10代後半〜20代)を主なターゲットして販売することを計画しています。

Hamee株式会社
(画像=Hamee株式会社)

プロフィール

氏名
水島育大(ミズシマ イクヒロ)
会社名
Hamee株式会社
受賞歴
2016年 6月 経済産業省・東京証券取引所の選ぶ「攻めのIT経営銘柄2016」に選定
2017年 5月 経済産業省・東京証券取引所の選ぶ「攻めのIT経営銘柄2017」に選定
2018年 5月 経済産業省・東京証券取引所の選ぶ「攻めのIT経営銘柄2018」に選定
2018年 10月 フォーブス アジアの選ぶ 「Forbes Asiaʼs 200 Best Under A Billion 2018」に選出
2020年 8月 経済産業省・東京証券取引所の選ぶ「デジタルトランスフォーメーション銘柄」に選定
2021年 6月 経済産業省・東京証券取引所の選ぶ「デジタルトランスフォーメーション注目企業2021」に選定
役職
代表取締役社長
出身校
慶応義塾大学商学部
資格
剣道五段