新しい商品やサービスを企画の段階でインターネット上に発表、消費者が応援購入という形で先行購入できるサイトを運営するのが、マクアケだ。マザーズ上場からほどなくして、当初のクラウドファンディングからシフトチェンジを図ったことが奏功。いまや、同社のサイトを通じて世に送り出される商品やサービスは年間6000~7000プロジェクトにのぼり、今期の応援購入総額は250億円を記録する勢いだ。
「商品と出会えた喜び」を生む
ワクワク感もたらす買い物体験
マクアケの行うビジネスは、事業者と消費者との間を繋ぐインターネットサイト・Makuakeの運営だ。事業者は新しい商品やサービスを企画の段階からMakuake上で公開・先行販売することができ、消費者はそれを先行購入することが可能だ。プロジェクト掲載料は無料で、消費者から集まった額の20%がマクアケに入る。掲載期間は平均2~3カ月程度。集まる金額はプロジェクトにより差があるが、ヒットすれば数億円になることもあるという。
掲載を希望する事業者の各プロジェクトには同社のキュレーターが付き、商品情報の構成や写真などについて細かな助言を行っている。同時に審査法務部門にて実現可能性や違法性がないかなど多角的に審査し、審査を通過したプロジェクトは掲載へと進むことができる。
事業者にとってのメリットは、顧客を獲得してから商品を作って売るという、通常とは逆の商流を作れる点だ。事前に一定の資金を調達でき、具体的な販売数も決まることから、銀行との融資交渉が進めやすい。また、在庫・量産リスクが軽減される点も大きい。
一方、消費者にとってのメリットは、いわば雑誌をめくるような感覚でMakuakeを見て、「自分好みの世の中にない新しいもの」に対し、「出会いのある買い物体験」ができる点だ。この購入体験そのものが、購入者の4人中3人をアクティブなリピーターが占めるという好循環を呼んでいる。
「eコマースの場合、買うものを決めてから検索する『一直線』型が多いと思うが、僕らの場合はどちらかというと『ウィンドウショッピング』に近いユーザー体験を掘り起こしている。(買い物において)『そうそう、こういうものを求めていた』という形でお金を使っていくことは、実は非常に大きな部分を占めているのですが、これまでのインターネット業界は、そういうところを掘り起こせていなかったのではないかと思います」(中山亮太郎社長)
顧客獲得後に製造販売
マーケットに大きな変革
マクアケの20年9月期の売上高は32億2500万円、営業利益は5億1000万円。21年9月期の業績予想は、売上高46億7000万円、営業利益3億1100万円となっている。
同社がこのビジネスを軌道に乗せることに成功した背景には、2つの大きなポイントがある。ひとつは、ネット上での資金集めよりもマーケティングに、より大きなニーズを見出したことだ。
13年の設立当初、同社はクラウドファンディングサイトを標榜していた。しかし、中山社長が産業界における製造業やコンテンツメーカー等を回る中で、新商品や新サービスの先行マーケティングにこそ大きなニーズがある点に気づく。その後マザーズ上場からほどなくしてサービス概要のブランディングチェンジを実行、成長を加速させた。
もうひとつは、まず新商品の商流に着目し、そこで、新商品ができる前の市場の存在を「発見」したことだ。
「新商品の商流にフォーカスすると、お店の中で新商品が占める割合は年間売上の10~15%、業種によっては30%のところもあり、経済上インパクトもあるのだなと感じました。そして新商品はどこからやってくるのだろうと思った時、卸業者さんや展示会、直接の取引など、新商品をお店に売ってもらうための商流がほとんどオフラインであり、オンライン化が進んでいないことに気づいたのです」(同氏)
一次流通に流す前の商流は、実は大きなマーケットにも関わらず、全く合理化が進んでいなかった。しかし企画の段階で「作る前に消費者に売る」ことができれば、マーケットに非常に大きな変革をもたらすことができる。そして、流通前の新商品に特化した市場を、中山社長は「0次流通市場」と名付けた。
「0次流通市場は世界的に盲点だった市場だと思っています。この切り口は僕らが事業展開する中で見つけたチャンスポイントです」(同氏)
対BtoBの事業や
世界進出も視野に
マクアケでは、数年前から地方銀行などの金融機関との連携を深め、約100社と提携を結んだ。いまや「4行に1行はパートナー」(同氏)だ。海外からの引き合いに加え、それら銀行を通じた地方発の新商品計画も、同社に届くようになった。
購入者のボリュームゾーンは、30代から50代。新しいものに飛びつくというより、人生経験を重ねてきたからこそわかる自身の趣味嗜好を、持ち物に対しても投影していきたいと考え、「自分自身のアイデンティティを高めていくような商品や、こだわりをより発揮できる商品」(同氏)を探す人が多いという。
これまではプロジェクトの傾向としてガジェットなどが多く、購入者は男性が多かったが、コロナ以降は女性比率が高まっている。食品やキッチン関係、お風呂周りなど、家の中を豊かにするアイテムが人気だ。
「今、2つの軸でマーケットを無理なく拡げていけるチャンスがあると考えています。ひとつはグローバルカスタマーにリーチしていくこと。もうひとつがBtoB、TOバイヤーの商流です。世の中に流通前の、しかもどれだけヒットしているかが数値的にわかる場所は、バイヤーにとっても大きな価値になる。BtoCだけでなくBtoBをも取り込んだ拡張ができればと考えています」(同氏)
(提供=青潮出版株式会社)