ビジネス界をリードする経営者は、今の時代をどんな視点で見ているのか、どこにビジネスチャンスを見出し、アプローチしようとしているのか。特集『次代を見とおす先覚者の視点』では、現在の事業や未来構想について上場企業経営者にインタビュー。読者にビジネストレンドと現代を生き抜いていくためのヒントを提供する。

約100年にも及ぶ歴史の中で事業の多角化を実現し、インダストリー以外の異分野への展開にも意欲的な三谷産業株式会社。その意欲の源泉は、単純な利益だけを追い求めない公益性を見据えた経営姿勢にある。

社内、社外すべてのステークホルダーに対しての価値を創造したいと願う同社の代表取締役社長・三谷忠照氏に、多業界に身を置く同社が起こす未来のイノベーション構想について伺った。

(取材・執筆・構成=山崎敦)

三谷産業株式会社
(画像=三谷産業株式会社)
三谷 忠照
三谷産業株式会社代表取締役社長
1984年富山市に生まれ、金沢市で育つ。慶應義塾大学卒業後に渡米し、ベンチャーキャピタルのアナリストに就任。その後、シリコンバレーでの起業等を経て、2010年に三谷産業(株)取締役就任。2017年同社代表取締役社長に就任。

多角化する業態の原点と、根底にあるビジネスマインド

―まず、御社の来歴と事業内容についてお聞かせください。

三谷産業株式会社は創業から93年の会社になりまして、現在は化学品、樹脂・エレクトロニクス、情報システム、空調設備工事、住宅設備機器、エネルギーと多岐にわたるビジネスを展開していますが、創業当時は石炭の卸売りの仕事をしていました。

当時は「煙突を見たらお客さんだと思え」という感じの商売でしたが、第二次世界大戦の影響で石炭が統制物資になり自由に売買できなくなりました。そこに、取引先の化学品メーカーから「三谷産業はおもしろい石炭の売り方をしている」と声がかかり、そのご縁で石炭だけでなく化学品商社の道を歩んでいくことになりました。

おもしろい売り方というのは、たとえば10トンの石炭をオーダーされたのであればお客様の生産設備や生産現場を見ることによって、必要量が10トンより少ないと判断すれば最適な量を納品するようにしていたということです。これは同業他社からはみすみす数を減らしているということで不思議に思われていたようですが、今で言えばエンジニアリングセールスにあたる、計算の上で最適な石炭投入量を提案するという売り方を実践していました。

この考え方は、今も幅広く事業展開している上で息づいています。たとえば情報システム事業は石炭とはまったく別の分野になりますが、注文や見積もりが来た際にお客様の要望が状況や課題解決に繋がらないと思えば別の提案もします。

注文とは異なる内容の提案をお客様にご説明し納得いただけたときには、その瞬間から競合他社さんは競合でなくなる。それが私たちにとってのベストケースで、お客様にとって最適なものがご要望そのままではないかもしれない、最適解が枠の外に存在するかもしれないと考えることを大事にしています。

―なぜ、現在のように事業を多角化するに至ったのでしょうか。

創業当時、現在の当社の金沢本社がある場所には陶磁器メーカーのニッコー株式会社さんがありまして、当社は石炭を供給していました。当時のニッコーさんは釜山にグローバル工場を構えて世界に進出するぞというタイミングで戦争が終戦し工場も接収されまして、経営難になった時に私の祖父が経営再建を引き受け、欧米向けにも食器の販売、製造を行うことになりました。

その過程で、アメリカではどんな店にもコンピューターがあり、どの町にも車が走り、住宅にはエアコンなどの近代的な設備があり、非常にショックを受けつつも、こうした近代的な工業製品は、日本でもお客様の経営に資するところがあるのではないかと思ったそうです。

当時、終戦後はダイキン工業株式会社さんがエアコン事業に新たな活路を見い出されたり、富士通株式会社さんがコンピューターを作るようになっていたり、お客様の事業が現代に近いドメインに変わりつつあるときに、当社は販売代理店を担わせていただくことになりました。こういった経緯をきっかけに、当社も今取り扱っている6つの事業領域に多角化をしていきました。

その後、お客様の本当に必要なものが必要な条件で揃わなかった場合に自分たちがメーカーとして機能するということも試行しながら、30年ほど前から新たな生産拠点としてベトナムに進出しました。

日本や東南アジアの多層的な産業構造の中で、メーカーの機能を備えた商社というのが、今の当社の姿かなと思います。

貯炭場
(画像=貯炭場)

コロナ禍でも最高益、社会貢献まで視野に入れた活動を行う

―現在日本はコロナ禍と呼ばれる情勢ですが、事業展開する業界の現状や、コロナ禍における自社事業の強みをどう捉えていますか。

昨年度はコロナ禍にもかかわらず当社は最高益を更新することができましたが、私たちが属しているあらゆる業界で営業活動が止まってしまったような瞬間はありました。

その際、早期に商談のオンライン対応や、セミナーやイベントのオンライン対応など、コロナ禍に合わせて打った施策の多くがうまくいったことが、最高益更新の要因だったと思います。

当年度はコロナ禍の長期化やベトナムでの感染拡大の影響もあり、製造業や建設業は少し厳しい状態です。一方で、情報システムは非常に好調、化学品の分野も引き続き堅調です。 いずれにせよ、軸足を置く業界が複数存在していますので、会社総体としては大きく崩れることもないと思っていまして、良い意味でリスク分散できていると思っています。

当社は、どれかの業界がうまくいっていなくても、他の業界がうまくいっているという歴史の繰り返しでもありました。たとえば、最初に設備投資があるのは工場の生産設備から始まり、順を追って好景気がやってきていましたので、それに合わせて当社も一歩一歩成長させていただいてきたと思います。

―コロナ禍において、早期に治療薬として期待される「アビガン」原薬の生産を発表されましたが、どういった経営判断で行われたのですか。

生産受諾についての経営判断についてですが、国家や全世界の危機に対して当社としてできることがあるというのは大変ありがたいことだと思っています。当時は別の会社さんも生産していましたが、急な需要増でキャパシティが足りなくなり、そこでお声がけいただいたのが一番のきっかけでした。

ただ、既にさまざまな品目で生産計画が立っていましたので、お客様に対して頭を下げて生産ラインを空けさせていただいたということもありました。

アビガンは治療薬としての期待も高かったので、医薬品の事業に関わる会社として他の製品よりも優先して貢献していこうと思い取り組みました。

日々の仮説検証や、社員ひとりひとりの能力を底上げする組織風土づくり

―多角的に事業展開していますが、経営判断する上で最も重視している点は何でしょうか。

思い切ってお答えしてしまうと、一番重視しているのは「そのビジネスがいいビジネスなのかどうか」という点で、儲かるだけのビジネスではいけないと思っています。

中長期的に価値を生む事業かどうか、自社以外のプレーヤーやステークホルダーに対してポジティブな作用をもたらすものかどうかというところを重視していますね。

細かい部分、マネジメント上のテクニカルな部分で言いますと、先行指標として機能するKPIを見ることで、仮説をアップデートし続けるということを会社のやるべきこととして掲げています。最終目標であるKGIに至るプロセスのうち、どこを見ると仮説を実行したと言えて、どこを見れば仮説の正しさを実証できるのかというところを一番重視していると思いますね。

最終的な売上をKGIにした時に、営業部で言えば売上の前には商談のクロージングがあり、その前にはお客様企業のキーマンの納得があり、その前にはご担当者様がキーマンの方に説明したくなるような魅力的な提案があって…… といったような営業プロセスの流れを、自社事業の中でのバリューチェーンのように捉えることができると思います。

それぞれが分母と分子のような関係性になっていて、展示会で得た100名分の名刺の中から50件の引き合いをいただいて、30件のデモを行い、20件のご提案に繋がり、10件は意思決定者にリーチし、5件受注できるというのが現状の実力だということが分かれば、単純に展示会での接触を増やせば売上が増えるかもしれないけど、どこかにボトルネックがあるかもしれない。

そういったKPI改善のためにどんな施策を打つのかといえば、名刺をいただいたお客様に対し商品のオンライン説明会や商品に対してのセミナーを開催したり、何らかの新しい施策を打ったりすることによって興味を持ってもらえる機会を増やそうとするはずなんです。

その仮説が正しく反映されているかどうかが、最重要指標として確認したい数字になります。仮に施策の効果が出なかったとすれば、何が足りなかったかの分析をして施策のクオリティを高めていくか、あるいは見切りをつけて別の打率を高める努力に切り替えるか、ということです。

考え方が固着化される前に新しい施策を考えて実行することを善として、経営判断をしているという感じですね。

私としては専門家である社員さんの肌感覚を信じていますが、肌感覚の寄せ集めだけでは経営として成り立たないですし、経営者自身が肌感覚に頼るのではなく最小限にとどめるべきなのではないかなと考えています。

この考え方はもっと抽象度の高い、組織風土の醸成みたいなものにも応用が可能です。ボトムアップできず企画が出てこなくて困っている企業さんであれば、新しいアイディアが生まれてから企画になるまでのチェーンを想定し、メンバーのKPIはアイディアを100件出す、課長のKPIは部長に対して30件のアイディアを提示する、部長のKPIは本部長に何件の企画書を提示しますといったような設計にし、それぞれのプロセスごとに評価できる仕組みにすると風土が変わってくるという実体験をたくさんしました。うまく使えれば非常に機能する考え方だと思っています。

―ベンチャー企業との協業や共創についての考えはいかがですか。

自分たちの強みを生かすためにも、ベンチャー企業さんとのお付き合いは欠かせないと思っています。そもそも、これからの時代に単一の事業部だけで勝負するというのは危険だという考えです。

当社で言うと6個の事業セグメントがあり、たとえば空調とITで言えばAIによって熱源が複数ある箇所のエアコンの制御を最適化したり、化学品のタンクをIoT化するであったり、事業領域の掛け算というのが可能性の幅を広げると思っています。

その間に隙間がいっぱいあるので、そこにベンチャー企業さんの技術や製品、サービスが必要になる時があります。自社でゼロから開発していくのが辛いというときに、技術を持っている会社さんと手を組んで製品の一部に技術を組み込ませていただくことがあります。

シンプルな事例で言いますと、北陸の図書館向けに利用者カードをアプリ化する際に技術を持っているベンチャー企業さんと手を組み、当社のお客様である自治体の図書館に共同でセールスをし受注いただくというケースも増えてきました。

その増えてきた背景にあることとして、当社が北陸で「MITANI Business Contest」というベンチャー企業向けのコンテストを開いていることであったりとか、インキュベーション施設のスポンサーとなり出入りできるベンチャー企業を増やすであったりとか、イノベーションに関するビジネスマガジン「Carbon」を作り取材先としてベンチャー企業さんにアクセスしたりとか、そういった活動すべてを通じてベンチャー企業さんの方から出資要請や技術の売り込みなどをいただいたりしています。

当社としては、ベンチャー企業さんに対して「三谷産業はみなさんの営業部だと思ってください」というような言い方をしております。そういったベンチャー企業さんとの一連のタイアップ作りというのをこの3、4年熱心に取り組んでおりまして、今ではベンチャー企業さんやベンチャーキャピタルさん側から認知いただけるようになってきたと思っております。

―無期限の継続雇用制度を導入した背景についてお聞かせください。

最近だんだんと盛り上がってきている話だと思いますが、時代の流れとして他社さんでも定年の延長をしている話を聞くようになりました。当社としては、無期限の継続雇用という形を取りました。

当社は以前から継続雇用自体はしていましたが、従来の雇用形態と何が違うかというと会社側から「ご苦労様でした、今年いっぱいで」とは言わない制度にしたというのが一番大きいと思っています。社員さんの側からまだ働きたいですと言われれば、社員さんの能力にマッチした業務を探します。つまり、年齢を理由に退職させないということです。

会社の内部的な話で言えば、グループ会社に転籍してもらって、そこから今の職場に出向してもらうという形を取り、組織の新陳代謝という意味でも良いとこ取りをしています。

背景にあるのは、80代のとある社員さんがいまして、年齢にもかかわらずとてもアクティブかつ聡明で、定年なんて関係ないといった雰囲気の人物です。結局は、年齢によらない、その人自身がどういったライフスタイルを送りたいかという問題で、一方でどのように能力を発揮できるのか。年齢に応じて下がっていってしまう能力というのもあるとは思いますが、自分の加齢に合わせて働き方をギアチェンジしている方も結構いらっしゃるんじゃないかとずっと考え続けていて、年齢によらず活躍できる会社にしたいと思っていました。

年齢を理由に退職するような時代じゃないというのももちろんなのですが、個別の方々のケースを見ても、70代や80代でもバリバリ働ける力を持った方の能力を会社としても活かしていきたいと思っています。仮に年齢の高まりに応じて成果が出せなくなるような仕事に就いている方に関しては外してあげなければと思いますが、会社としてはその人その人の年齢や経験に合わせて輝ける場所を提供していきたいというのが一番の狙いですね。

―読書やセミナーなど、経営者における知識に対する日々のインプット方法などについてお聞かせください。

この質問、実はちょっと困りました(笑)。

元々は、中国の古典から経営学の本、デザインやアートの本など、結構な多読家でした。ただ、正直な話最近はあまり本を読む時間も無くなってしまい、今はインプットしたものをすぐにアウトプットするという連続の中で生きているので、特別にインプット時間を意識しているということはありません。

ただ、今はアウトプットする人に情報が集まってくる時代だと思っていまして、会社としてはプレスリリースのような形でさまざまな分野でのアウトプットができているので、知人や周りの経営者の方から関連情報をいただいたりしています。本などからインプットしていた頃とは全然違う形で、生の情報がどんどん入ってくるようになっています。

あとは、自分にとって心地好い時間を過ごしながら、アイディアや答えが降ってくるのを待っているような時間も多いですね。

―クリエイターのような過ごし方ですね。

元々はクリエイターになりたかったんです。若い頃はデザインとかソリューションを考えたり、イベントを企画したりということを生業にしていきたかったので、結果として今も似たような脳の使い方をしているのかもしれないですね。

既存の事業と異分野の組み合わせが新たなイノベーションを生む

―いま注目している分野や業界はありますか。

当社も幅広くあらゆる分野に属しているので、接合技術や建築分野でのコンピューターの活用、ロボットの活用方法などインダストリーの分野で言うと最先端技術として当社自身が取り組み注目しているものも多いですが、すべての分野や業界がイノベーションというキーワードのもとでおもしろいことが起きやすい時代だと思っていますし、いま誰も注目していない分野というのも興味を持って見ています。

強いて言うと、美術や工芸、演芸という分野はこれまで当社としては事業に直結させ活かしていこうとは考えていませんでしたが、今の当社の事業とどう結びつくのか、異質な組み合わせから新しい価値が生まれることを期待しているので、非常に良い題材かと思っています。

インダストリー的な他分野については考え続けている会社だと思いますが、それ以外というのがこれからおもしろくなってくるのではないかと感じています。

その理由のひとつとして、オンラインでの活動が増えてきて画面越しに相手をエンターテインしなければならないという必要性が出てきたという部分もあります。

他にも、当社が作っている新製品が、単に技術ではなく意匠やデザインの領域に入っていっているものもあります。たとえば、これまでは壁の内側の配管配線だけをやってきたものが、内装や空間全体にも携わらせてもらえるようになりました。

あるいは新事業として「Tesera」という家具の製品を開発していまして、サステナブルな素材なのですべてリサイクル可能で、モジュールごとに机やシェルフ、テーブルやローボードなどに組み換えができます。従来であれば溶接して製品化しなければいけなかった家具が、この製品であれば組み換えによって一部増設したり減らしたりすることが可能になる。

オフィスであればフレキシビリティを高めることにも繋がりますし、住宅でも家族構成の変化に応じて形を変える家具を実現できます。

そういった事業をやっていく中で、地元金沢の工芸との組み合わせで新しい製品を開発したりもしています。

また、最高級のバスタブ開発にも関わっています。 これから実績を作っていく段階ですが、スペックに現れない価値というものを当社自身が開発、販売したりする過程では、自分たちの中に芸術や工芸などの要素を吸収しなければならないと思っています。

そういった経緯も踏まえまして、インダストリー以外の異分野に対しておもしろさを感じられているかなと思っています。

―新事業や既存事業の拡大プランなど、経営者として思い描いている自社の未来構想をお聞かせください。

ひとつは、異なる事業分野同士、異分野同士の重なるところに新しいイノベーションを見出すことです。これまで以上に自社の総合力を発揮していくことによって、新しい事業も既存の事業もどちらも発展するチャンスが大きいと考えています。

事業拡大とはまた異なる観点で言うと、今年6月にCompany Well-being Index(非財務的経営指標)を策定・公表しました。(https://www.mitani.co.jp/company/cwi) 社員がより豊かに仕事ができる「事業基盤の部」、未来の自社が非連続的な成長を遂げていくための「事業変革の部」、会社を社会の公器と捉えた時に自社だからこそ取り組む合理性のある社会貢献を行う「公益事業の部」という考えを持っています。

三谷産業
(画像=三谷産業株式会社)

これまでも社会や社員、取引先、株主への還元などを行ってきましたが、業績以外の面でも大事なことがあるということに対してしっかりとした指標を設け、社内外に対し目標を公表し実行していこうとしています。

いまの会計制度では当期純利益は配当か内部留保という形にならざるを得ないと思いますが、会社を社会の一員として捉え、その社会をいまの我々や未来の我々の価値を創出するための舞台と考えた時に、いまの財務諸表や会計制度は株主や一部のステークホルダーに対して会社の状況を表したもののように思います。または税金であれば政府に対して、ということになると思います。

事業活動で得られた価値を、未来の三谷産業といまの社員、取引先、地域社会、地球環境、株主と言った全方位のステークホルダーに対してどういう形で分配することができるのだろうかということを起点に考えていきたいというのが、未来に対する私の構想です。

得られた利益は配当か内部留保か、といったような二択ではなく、ステークホルダーに対し分配されるべき「創られた価値」というのがどれだけあるのかというところから考えていくことも大事にすべきなのではないかと考えています。

プロフィール

氏名
三谷 忠照
会社名
三谷産業株式会社
役職
代表取締役社長