新型コロナウイルスは、世界中のあらゆる国や個人、そして企業に影響を与えた。非対面・非接触が要請され、思うように事業展開できずに成長期を逸した企業もあれば、残念ながら衰退の一途をたどっている企業もあるだろう。

ティアンドエス株式会社は、コロナ禍である2020年8月に東証マザーズへの上場を迎え、その後21年11月期第2四半期決算では過去最高収益を記録している。その成長要因とは何なのだろうか。代表取締役社長・武川義浩氏に、同社の事業と戦略について伺った。

ティアンドエス株式会社
(画像=ティアンドエス株式会社)
武川義浩
ティアンドエス株式会社代表取締役社長
1980年代にシステム開発企業において原子力発電所用ソフトウエア開発の業務に従事。バブル崩壊後の長い不況から回復の兆しが見え始めた1997年、前身である株式会社テックジャパンの代表取締役に就任。2016年11月に株式会社シナノシステムエンジニアリングとの新設合併によりティアンドエス株式会社を設立し代表取締役に就任。両社の社員の持つ技術力と営業力のシナジーにより業容を拡大し、2020年8月東証マザースへの上場を果たす。

AIアルゴリズムの調査から実装を支援する、新しい価値提供の形

――はじめに、御社の来歴をお聞かせください。

ティアンドエス株式会社は、1996年創業の株式会社テックジャパンと85年創業の株式会社シナノシステムエンジニアリングの新設合併により、2016年に設立しました。

合併の背景には、リーマンショックや東日本大震災による国内の経済的不況があります。テックジャパンの代表を務めていた私は、「このつらい時期を乗り越えたとしても、不景気は必ずまた来る。そのときにどう対応していこうか」と思案していました。そんな折、数十年来の親交があったシナノシステムエンジニアリング元会長の日下理、そして同社元社長の渡辺照男と話し合いをし、合併の方向で話が進みました。

ただ、合併して大きくなるとしても、継続的な成長をしていくには資金や信用度が必要だということで、その目的の一環でIPOを目指すことにしました。最短4年での上場準備を進め、1年の足踏みを経て、5年目の20年に上場を果たしました。

――ありがとうございます。具体的な事業内容についてもお伺いします。

一言で言うと、当社は「システム開発の会社」です。メインは「ソリューションカテゴリー」、システムの受託開発です。特に当社が得意としているのは重電や半導体といった、重たくて大きな領域のシステム開発です。主要顧客には東芝様、日立様、キオクシア様があります。大手企業様はシステムの規模が大きく開発期間も長いため、一度お取引いただくと数十年とお付き合いいただけるという特徴があります。

 

システム開発に紐づく形で、その先の保守・運用業務も行っております。特に半導体工場に技術者を派遣し、システムの保守運用を行う業務の割合が大きいため、これを「半導体カテゴリー」として事業の柱の1つとしています。

3つ目は「先進技術ソリューションカテゴリー」です。AIアルゴリズム関連の事業となっており、今伸び盛りの領域です。先の2カテゴリーとは毛色が違い、お客さまのニーズに合ったアルゴリズムを世界中から探してきてご提供するという、特殊なサービスになっています。

――確かに、先進技術ソリューションカテゴリーは他のシステム開発に携わる会社ではあまり行われていないサービスだと感じます。具体的な価値提供フローをお聞かせいただけますでしょうか。

現在の主なお客さまは、メーカー企業となっています。まずお客さまから「AIを使ってこういう製品をつくりたい」といったニーズをお伺いし、AIアルゴリズムを開発している世界中の研究機関やベンチャー企業のデータベースの中からお客さまのニーズに合うロジックや論文などを探します。

次に、プログラムを実際に組んでみて動作確認をします。その後、そのアルゴリズムを活用してアプリケーションをつくり、お客さまにご提供していきます。18年からサービスを開始しましたが、非常に引き合いも多く、成長率も高い(前年同四半期比48%増)事業になっています。

――独自のシステム開発はされていないのでしょうか。

はい。システム開発はもちろん、AIアルゴリズムの独自開発もしていません。当社の特徴は「持たない経営」で、情報システムの運用、開発部分に特化しています。

コロナ禍で過去最高収益を実現した背景

――業界における御社の強みはどこにあると認識されていますか。

強みは大きく3つあると考えます。

1つ目は、「高付加価値ビジネスの創造力」。先ほど「持たない経営」と申し上げましたが、当社は独自の技術は持っています。それをAIのアルゴリズム開発や次世代に向けたR&D(研究開発)に生かしています。独自の技術があるからこそ、労働集約に依存することなくビジネスを展開できるのです。

2つ目は、東芝様、日立様、キオクシア様という大手企業と長年の関係を築いているところです。この業界は多重請け構造になりがちですが、当社は一次請けが多く、結果的に利益率が高くなります。また、新規顧客開拓に焦ることがないため、営業部隊は少なく、技術者にリソースを割くことができます。当社の従業員構成は95%ほどがエンジニアとなっています。

3つ目は、品質管理力です。大手のお客さまが多いことも関係していますが、プロジェクトの失敗を起こさない管理力があります。具体的には、開発スケジュールに余裕を持たせる、工程の進捗管理をしっかり行う、むやみに外注を使わないなど、あらゆる方法で赤字プロジェクトを未然に防ぐ工夫をしています。これらの強みを持つ当社の営業利益率は競合他社に比べてかなり高くなっています。

――直近の決算補足資料によれば、2021年11月期第2四半期では過去最高収益となっています。コロナ禍においてこのような業績を挙げられた要因は何だったとお考えでしょうか。

結果的には過去最高収益となりましたが、コロナがなければもう少し伸長できたと思いますので、マイナスの影響はあったと言えます。大きく影響したのは採用の部分です。当社はエンジニアをはじめとする人材の確保が急務となっていますが、昨年夏は緊急事態宣言の影響で動きが鈍化していました。

その一方で、秋ごろから動きが活発になったため、今期のスタートダッシュが切れました。また、在宅勤務の取引先が増加していることによる動きにくさも感じています。

――それらの影響に対してどのような対策をされたのでしょうか。

ほとんどの常駐型の社員はお客さまの勤務体系に合わせて在宅勤務していますが、それ以外の社員については、緊急事態宣言が解除され次第、出社して業務を行える体制をつくります。管理体制を整えることも重視しています。

全社的に在宅勤務を行っている現在(21年9月)は、毎日朝9時~9時半の間に必ずミーティングをしています。特に受託開発業務は遅れが出ると困りますので、その日の進捗状況を細かく管理し、質問などがある場合は随時受けられる体制を取っています。

事業の急成長に伴い、エンジニア人材の増員が急務

――昨年、上場審査の最終盤で緊急事態宣言の発令等があったと思います。コロナ禍での上場準備はいかがでしたか。

東証の上場審査は非常に厳しかったです。ただ、事業は伸びていましたし、会社としては当初から1年前に上場する想定で準備を進めていましたので、しっかり内部体制もつくれており、予定どおり上場できました。

――今期のテーマとして「証明への第一歩」と掲げられています。その意図は何でしょうか。

上場から1年経過し、上場時に調達した資金もこれから使っていくところです。まさに今、実践していく段階で、上場時に立てた計画を証明するための第一歩であると位置づけ、キャッチフレーズとしました。

――上場後の変化はありましたか。

知名度や信用度が上がった分、採用への効果はありました。上場時には約260人だった従業員数は今年7月末時点で約300人となり、順調に人員確保をしています。ただ、現在はそれ以上にたくさんの引き合いのお話をいただいており、人員不足でご要望にお応えできないケースも出てきています。まだまだ採用を強化していきたいと思います。

――エンジニアの採用募集で意識していることはありますか。

技術力もさることながら、私自身は面接の際、「やる気」と「ヒューマンスキル」をよく見るようにしています。私たちの事業は情報サービス業なので、必ずお客さまがいる仕事です。お客さまと対話できる力があるかどうかを見ています。

――武川社長は、日々のインプット方法で工夫されていることはありますか。

ほとんどの情報収集はネットで行っています。ネットで気になったキーワードがあれば深掘りするようにしています。今は、やはり事業に直接かかわる半導体の動向やAI関連のニュースに注目しています。

私は話すことが好きなので、取引先の役員や代表の方々とお話しする機会をつくり、情報を得るようにしています。大手の取引先の上層部とお会いし、情報交換させていただける場は非常に大切にしています。

次世代メモリ開発への投資でさらなる成長とSDGs貢献を目指す

 

――今、注力しているのはどのような点でしょうか。

直近では、先進技術ソリューションカテゴリーの急成長に伴い、AI に強い技術者を採用していきたいと考えています。そこで私どもが今行っている次世代メモリの研究開発の取り組みを打ち出して採用活動をしています。

――次世代メモリの研究開発とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センターとの共同研究開発で、MRAM(磁気記録式メモリー)という次世代メモリの製品化を目指す取り組みです。MRAMが量産化して世に出ると、あらゆることが変わります。今のメモリと比べて、MRAMは消費電力が1/100から1/1000になると言われています。

今使用されているメモリでは、量子コンピュータやスパコン、AI技術などを動かすために莫大な電力が必要とされます。消費電力を落とすことができれば、地球温暖化の問題などにも貢献できます。普段家で使っている冷蔵庫やエアコンなど、あらゆるデバイスの消費電力を落とすことができる技術になるので、将来に向けて可能性は大きく広がっていきます。

――ありがとうございます。最後に、御社の未来についてお聞かせください。

私どもは100年企業をつくっていこうとしており、今はまだ基盤づくりの段階です。そのための1つのステップとしてIPOをしました。今後成長しながら社会に貢献していきます。上場はあくまでも通過点だと位置づけていますので、これからを楽しみにしていただければ幸いです。

プロフィール

氏名
武川 義浩
会社名
ティアンドエス株式会社
役職
代表取締役社長