目次

  1. 1. グリーン投資とは?
  2. 2. グリーン投資の各国の動きは?
  3. 3. 投資戦略にも「グリーン投資」が求められている
  4. 4. グリーン投資で注目の成長分野は?
  5. 5. 経営者はグリーン投資と向き合わざるを得ない
  6. 6. グリーン投資は新たな投資、ビジネスチャンスとなる
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(画像=SpicyTruffel / PIXTA(ピクスタ))

環境保護問題の解決に貢献する投資のアプローチ、「グリーン投資」。現在、世界各国の企業はこぞってグリーン分野に投資をしている。本記事では、グリーン投資の具体的な方法やその取り組み事例を紹介する。

1. グリーン投資とは?

グリーン投資とは、環境問題に配慮した投資のことをいう。「投資家が直接受ける経済的リターンに加え、社会全体に対して波及する効果(経済的および非経済的リターン)も期待されるという意義を有する」(環境省見解)投資であるとされる。

1.1. 環境に配慮した経済活動への投資

環境に配慮した経済活動の展開により、資源や生態系の保全支援が期待できる。そもそも現在の環境問題は、これまでの人類の経済活動が大きな要因となってきた。環境省は「経済のグリーン化は経済活動と環境保全の両立を図るものであり、持続可能な社会を実現するために、不可欠な基盤である」との見解を示している(環境省「経済のグリーン化とは」)。グリーン投資は地球環境の保全に資する投資といえる。

1.2. サステナブルファンドに資金が流入している

いま金融市場には、サステナブルファンドに資金が流れ込んでいる。財務省 財務総合政策研究所が発表した資料によれば、2021年第1四半期のサステナブルファンドのネット流入は前期比で17ポイント増加、2021年3月末の残高は1.9兆ドル(1ドル110円換算で209兆円)で2020年9月の1.5倍に達している。

2. グリーン投資の各国の動きは?

グリーン投資を巡る世界各国の動きはどうなっているのだろうか。海外と日本に分けてその動きを見てみよう。

2.1. グリーン投資の各国の動きを解説

アメリカ合衆国ではジョー・バイデン大統領が2021年3月31日に、「米国雇用計画(アメリカン・ジョブズ・プラン)」と題して、8年間で2兆2,500億ドル(1ドル110円換算で250兆円)を環境インフラ(地域環境を支える基盤:上下水道や廃棄物管理施設など)の増強に投資することを宣言した。気候変動対策として、2035年までに100%カーボンフリー電力の導入を目指すとする。太陽光発電を含むクリーンエネルギーへの転換を推進するため、老朽化した送電網のインフラ増強を行うほか、電気自動車の市場拡大を目指し、充電ステーションを2030年までに50万ヵ所設置する。

欧州連合(EU)では、欧州委員会が2050年までにEU域内の温室効果ガス排出ゼロを目指す「欧州グリーンディール」を最優先政策に掲げている。目標達成のために今後10年間で1兆ユーロ(1ユーロ130円換算で130兆円)規模の投資を行う予定。

アジアでは、韓国が2020年7月に新しい経済発展戦略「韓国ニューディール総合計画」を発表した。JETRO(日本貿易振興機構)のレポートによると、2025年までに総額160兆ウォン(1ウォン0.0936円換算で14兆9,760億円)を投入する巨大プロジェクトだ。このプロジェクトは3つの「ニューディール」に分かれているが、そのうちの1つが「グリーンニューディール」である。

2.2. 日本もカーボンニュートラルを宣言

日本の菅義偉首相(当時)は2020年10月、所信表明演説にカーボンニュートラル宣言を盛り込んだ(「我が国は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会を目指す」)。

2.3. 2021年度の政府予算

2021年度の政府予算にグリーン投資はどのくらい計上されているのか。

経済産業省は、令和2年度(2020年度)第3次補正予算において、「グリーンイノベーション基金事業」の予算として、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構に2兆円の基金を造成した。同省では「官民で野心的かつ具体的目標を共有した上で、これに経営課題として取り組む企業等に対して、10年間、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援する」(経済産業省見解」)としている。

3. 投資戦略にも「グリーン投資」が求められている

ここではグリーン投資を行う方法と注意点を確認しておこう。特にESG(環境、社会、企業統治)投資商品に注目する。

3.1. 運用会社のESG重視傾向、具体的な事例は?

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)と並んでESGへの取り組みも企業に対する評価の重要な基準になりつつある。長期運用を主体とするファンドを中心に、ESG投資を強調する動きが加速している。アセットマネジメントOneが発売した「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(為替ヘッジなし)、愛称:未来の世界(ESG)」は2016年発売当時、大きな話題になった。「未来の世界」の当初の設定額は3,830億円、歴代2位の規模でスタートした。その後も純資産を増やし、2021年10月6日現在の純資産総額は1兆1,279億7,800万円である。

3.2. 「グリーンウォッシング」に注意

企業の環境保護活動を判断するときに、「グリーンウォッシング」に注意する必要がある。グリーンウォッシングとは、環境面の配慮を行って活動しているように見せかけながら、実はそうではない活動をしていることをいう。Bloombergの報道によると、いくつかの金融機関の環境保護活動は、(2020年以降の地球温暖化対策の枠組みである)「パリ協定」のガイドラインを満たしていない。

3.3. 個人投資家がグリーン投資をするには?

個人投資家にとってもグリーン投資は有望な投資アプローチとなるだろう。個人投資家がグリーン投資を行う方法として、次の4つの商品への投資が挙げられる。

個人投資家のグリーン投資方法1:グリーン関連投資信託 グリーン投資に関連した投資信託を購入するのが最もわかりやすいだろう。先に紹介した「未来の世界(ESG)」のほかにも、ESGをテーマにした投資信託が数多く発売されている。

「損保ジャパン・グリーン・オープン(愛称:ぶなの森)」は、1999年から運用を開始した国内ESG投資の草分け的存在だ。環境保護問題への取り組み状況と銘柄本来の投資価値の両面を分析し、総合的に評価の高い銘柄に投資することを方針としている。2021年10月6日現在の基準価額は1万4,000円である。2021年の分配金(年1回)は300円。

個人投資家のグリーン投資方法2:ソーシャル・インパクト・ボンド ソーシャル・インパクト・ボンドとは、「経済的利益を目的とした株などに対する一般的な投資と異なり、社会的な利益(社会課題解決など)を第一の目的とし、経済的な利益も同時に目指す仕組み」(日本財団 社会的投資推進室「新たな官民連携の仕組み ソーシャル・インパクト・ボンドについて」)。債券は発行されないため、個人投資家は関連する投資信託に投資する形となる。

グリーン分野のインパクト投資を扱うファンドに「ブラックロック・世界株式インパクト投資ファンド(DC)、愛称:明日(あした)をつくる」がある。インパクト投資とは、「財務的リターンと並行してポジティブで測定可能な社会的および環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資」(社会変革推進財団見解)のことをいう。リスク、リターンにインパクト(社会にプラスの影響)を加えた3軸を投資の基準としている。このファンドは「社会や環境問題の解決を促進すると考えられる製品やサービスを提供する企業の株式等に投資する投資信託証券に投資を行う」(ブラックロック公式サイト)。2021年10月6日の基準価額は1万2,884円で、分配金の実績はない。

個人投資家のグリーン投資方法3:グリーンボンド グリーンボンドとは、地球温暖化対策や環境プロジェクトなどの資金を債券市場から調達するために発行される債券のことをいう。グリーンボンドは券面1億円以上のものがほとんどで、個人投資家が手軽に投資できる商品ではない。しかし、投資信託を購入することで誰でも投資が可能になる。代表的なファンドに大和アセットマネジメントの「クリーンテック株式&グリーンボンド・ファンド(資産成長型)(愛称:みらいEarth成長型)」がある。「環境にやさしい」をテーマに株式と債券に分散投資するファンドである。2021年10月6日の基準価額は1万2,216円で、分配金の実績はない。

個人投資家のグリーン投資方法4:ESGスコアの高い企業への個別株投資 ファンドではなく、上場している個別株に投資する方法もある。環境問題に熱心に取り組み、ESGスコアの高い企業に投資することで、グリーン投資に近い意味合いを持たせることができる。ESG投資に適した銘柄を探すには、「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」の公式サイトが参考になる。構成銘柄リストには、指数に占めるウェイトやESG格付けが一覧で掲載されている。

4. グリーン投資で注目の成長分野は?

グリーン投資でこれからどのような分野が成長するのだろうか。

4.1. 企業のグリーン経営へのインセンティブ拡充

企業のグリーン経営へのインセンティブとして、2021年度から炭素技術に関する設備投資に対して、最大10%の税額控除または50%の特別控除が設けられている。さらに一部の金融機関は、グリーン分野への融資において金利を優遇する商品(「サステナビリティ・リンク・ローン」)を発表している。

4.2. 民間の投資促進が期待される領域

民間からのグリーン投資が期待される領域は、次の5分野が有力と考えられる。

民間からのグリーン投資が期待される領域1:洋上風力産業 洋上風力は、陸上から数キロ離れた位置に設置されるため、大型のタービンを導入できるメリットがある。2021年5月に東芝と米GE(ゼネラルエレクトリック)が洋上風力発電システム分野において提携を発表したことで話題となった。

矢野経済研究所によると洋上風力産業は、2021年は80億円程度の市場規模だが、2025年に3,970億円、2030年には9,200億円になるとする。

民間からのグリーン投資が期待される領域2:燃料アンモニア産業 燃料アンモニアは、燃焼時にCO2を排出しないという特性から、CO2削減に役立つエネルギーとして注目を集めている。燃料アンモニアは、発電分野(専焼、火力発電への混焼)、産業分野(混焼)、輸送分野(船用エンジン、燃料エンジン)などで用途が見込まれる。国内の大手電力会社が保有するすべての石炭火力をアンモニア専焼に転換すると、電力部門での排出量の半分に当たる約2億トンのCO2が削減できるという。

民間からのグリーン投資が期待される領域3:水素産業 水素はさまざまな資源からつくることができ、エネルギーとして利用してもCO2を排出しないという特性がある。矢野経済研究所は、水素産業の国内市場規模を2020年(見込み)の時点で952億円とするが、2030年には1兆2,289億円の市場規模に拡大すると予測している。

水素エネルギーの関連ビジネスで注目されるのは自動車産業である。水素自動車はCO2や窒素酸化物を排出しないことから、電気自動車とともに今後の普及が期待される。

民間からのグリーン投資が期待される領域4:原子力産業:原子力は発電時にCO2を排出しないクリーンエネルギーとして知られている。世界的に脱原発の動きはあるものの、いまでも重要なエネルギーの地位にある。

日本原子力産業協会によると、2020年7月時点の原子力規模(4億400万kW)と将来の既存炉の閉鎖を考慮して、2020~2050年に約6.4億kWの原子力発電所の新規建設が必要とみられている。2050年までの原子力市場の規模は約8.6兆ドル(1ドル110円換算で946兆円)と推定される(日本原子力産業協会「世界の原子力市場見通しと米原子力企業の売上予測」)。

民間からのグリーン投資が期待される領域5:蓄電池産業 太陽光発電や電気自動車と組み合わせた「トライブリッド蓄電システム」の導入が進んでいる。関連ビジネスは電機、電力、太陽光発電、住宅、自動車と裾野が広い。矢野経済研究所は、2020年の定置用蓄電池の市場規模を、メーカー容量出荷ベースで3万3,692MWh(前年比142.7%)、出荷金額で121億6,800万米ドル(1ドル110円換算で1兆3,384億8,000万円)と推計している。

4.3. グリーン投資の将来性

世界各国がSDGsの2030年の目標達成に向けて、巨額の環境対策予算を付けることが見込まれる。日本も2兆円規模の「グリーンイノベーション基金」を創設し、環境保護問題に取り組む企業を支援する。

4.4. グリーン投資のリスク

一般的な投資家にとってのグリーン投資のリスクの1つが「ダイベストメント」ある。ダイベストメントとは、金融機関等が環境保護の面で問題のある企業への融資や投資資金などを引き揚げることをいう。「化石燃料ダイベストメント」「石炭ダイベストメント」が代表的。環境保護対策への取り組みが投資銘柄としてのポテンシャルを決める時代になってきたと言える。

もう1つのリスクは前述した「グリーンウォッシング」企業への投資。「グリーン(環境への配慮)」と「ホワイトウォッシング(=ごまかす、うわべを取りつくろうこと)」を合わせた造語。投資している企業が「グリーンウォッシング」であるとされた場合、社会的、政治的、経済的圧力がかけられる可能性がある。

5. 経営者はグリーン投資と向き合わざるを得ない

国をあげてグリーン投資が盛んになると、企業経営者はグリーン投資と向き合わざるを得なくなる。グリーン投資を経営戦略に活かした企業の事例を紹介する。

5.1. グリーン投資に向き合うことが企業の成長につながる

ESGやSDGsなどのムーブメントが社会に浸透してきたいま、企業の環境保護に対する取り組み姿勢にも消費者は高い関心を持つようになっている。上場企業の公式サイトを見ると、多くの企業で「ESG」「SDGs」「サステナビリティ」などのコーナーを設け、自社の取り組みをアピールしている。グリーン投資に向き合い、環境対策にしっかり取り組むことが企業の成長につながる時代になったと言える。

5.2. 経営戦略としてのグリーン投資の事例を紹介

企業は具体的にどのようにグリーン投資に取り組んでいるのだろうか。グリーン投資の事例を紹介する。

企業のグリーン投資事例1:日清食品 日清食品は、プラスチックの削減に取り組んでいる。「カップヌードル」で使用してきた「フタ止めシール」を2021年6月に廃止した。公式サイトによれば、廃止により、プラスチック原料の使用量を年間33トン削減できるという。また、冷凍食品でも麺製品ほぼすべてでプラスチックトレーを使っていない。

企業のグリーン投資事例2:アスクル アスクルはサプライチェーン全体でCO2の削減を進めている。サプライチェーンを資源循環型プラットフォームとして進化させ、廃棄物の削減、使用済み製品などの回収、再資源化を促進し、限りある資源の有効活用に努めている。

企業のグリーン投資事例3:GAFAM 米5大IT企業群GAFAM(Googleを運営するアルファベット、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)はCO2の削減に非常に熱心である。各社ともカーボンニュートラルやカーボンネガティブの目標達成のために、再生可能エネルギー100%供給を目指している。Googleはすでに2017年に電力を100%再生可能エネルギーに切り替えており、2030年までにカーボンフリーを目指す計画だ。

6. グリーン投資は新たな投資、ビジネスチャンスとなる

世界的なグリーン投資への取り組みは、企業の投資、経営戦略に大きな影響を与えている。グリーン投資で重視されるポイントや市場拡大が見込まれる分野を押さえ、ぜひ投資の成果を上げていただきたい。

*本記事はグリーン投資の概要について紹介するものであり、個別の商品への投資を推奨するものではありません。

丸山

丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している。