ソフト99コーポレーションは、自動車用ワックスなどのカー用品を主軸とする化学品メーカーだ。業界では珍しくカー用品全般を幅広く手掛け、製造販売を行う自動車関連アイテムは約2000種に及ぶ。近年では一般消費者向け自動車用ワックスから業務用コーティングへと軸足を徐々にシフトしつつ、産業資材や生活資材などの分野にも参入、М&Aを行いながら事業領域の拡大を図っている。
営業利益の7割を稼ぎ出す
主力のファインケミカル事業
同社の2021年3月期の売上高は前期比9・7%増の268億200万円、営業利益は同32・5%増の32億800万円。セグメントは、ファインケミカル、ポーラスマテリアル、サービス、不動産関連の4つだ。
そのうち主軸事業は、祖業のファインケミカル事業。全売上高のうち51・1%を占めると共に、営業利益では69・7%と全体の7割近くに及ぶ。同事業のうちで最もボリュームが大きいのは、セグメント売上138億円のうち約100億円を占めるという、消費者向け自動車用ケミカル製品の製造販売となる。
「モノ売り」から「コト売り」へ
業務用コーティングにシフト
同社は1952年に創業。家具用ワックスの製造販売からスタートし、メーカーの下請けをしていたが、60年代に入り脱却を目指すようになる。着目したのは、当時の日本にはなかった国産の自動車用ワックスだ。ガソリンスタンドのセールスルームを販売チャネルとして一般消費者向けに商品を販売。その後、世の中が量販の時代へと突入したタイミングで同社もいち早く量販流通へと転換を図ったことが奏功し、アイテム数を増やしながら売上を拡大していった。
「総合的にカー用品を幅広く手掛けるメーカーというのは、世界で見ても我々以外は少ないのではないかと思います。ただ、消費材だけではサービス化していく社会に対応できないということで、20年程前から業務用のコーティングも手掛け始め、そちらに少しずつシフトしてきています」(田中秀明社長)
業務用コーティングをスタートした当初は、先行していた一般消費者向け自動車用ワックスとバッティングするケースも当然出てきた。「上顧客ほどそこにとられていくというジレンマ」(同氏)を感じた時期もあったが、現在では業務用コーティングがよりメジャーな存在となって、相互シナジーを持ちながらビジネスを展開できている状況にあるという。
カネボウ化成品事業を傘下に
半導体向け洗浄資材が好調
前述のファインケミカル事業に次ぐ事業が、PVA※1を原料とした精密多孔質体(スポンジ)の製造販売を手掛けるポーラスマテリアル事業だ。カー用品業界全体の成長率は90年代をピークに、緩やかな下降曲線を描いている。そこで同社が打開策として求めたのが、事業領域の拡大という選択だった。99年にカネボウから譲渡を受けた化成品事業の技術力をベースに、同社はこのポーラスマテリアル事業を2つ目の基幹事業と位置づけ、注力してきた。
ポーラスマテリアルにおける牽引役のひとつに、精密洗浄用ブラシローラーがある。半導体・ハードディスクなどの製造ラインで、精密部品の洗浄装置に利用される消耗材だ。
「半導体用途でのスポンジの注文は増加しています。20年はコロナ禍で『物流が止まるだろう』ということで、半導体メーカーさんからはストックレベルを通常の1カ月分から3カ月分へと引き上げて運用するという方針が出されました。そのため、ストックを積み上げるための出荷が多かったのですが、その後半導体の需要が高まっていったことで、在庫調整が起こらないまま今(2021年8月時点)に至っています」(同氏)
スポーツ・医療分野への参入で
さらなる事業領域の拡大へ
今日の自動車産業は、CASE※2という100年に一度とも言われる変革期に直面している。その中で同社は、「グループの中に存在するノウハウやスキルを掛け算することで、新しい価値を生み出そう」(同氏)としながら、長年培ってきた技術とフットワークの軽さを武器に、事業領域の拡大に向けて継続的に動いてきた。
ファインケミカル事業で検討しているのが、家庭用製品分野におけるメガネケアカテゴリーでの、スポーツ分野への参入だ。今後の注力事業である、海外市場の深耕、国内市場での業務用コーティング材への緩やかなシフト、そしてその他の家庭用製品の開発という3つと併せ、新たな商品を投入する方針だ。
「スポーツの分野は比較的付加価値がとれる商材が多い。色々なものができるのではないかということで、(家庭用製品分野で販売しているメガネ関連製品とも繋がる)スポーツ用アイウェアを足掛かりにした展開を考えています」(同氏)
また、ポーラスマテリアル事業においては、医療分野への進出を行う考えだ。
「PVAでスポンジを作る当社の技術は、元々カネボウさんが開発された非常に特殊な技術によるもので、当社は非常にニッチなマーケットで特殊な物をずっと作って売っているというような立ち位置です。半導体1本ではなかなか(会社としては)伸びて行かないため、コストが高くても使っていただける分野を探したところ、医療分野があり、販売チャネルを持っている会社とご縁をいただいてグループに入っていただきました。今後は、医療分野を次なる柱にしたい」(同氏)
※1 PVA: ポリビニルアルコール
※2 CASE: C(Connected:コネクテッド)、A(Autonomous:自動運転)、S(Shared & Service:シェアリング/サービス)、E(Electric:電動化)を総称した自動車業界の技術革新
(提供=青潮出版株式会社)