TOTO【5332・東1】節水、CO2削減…環境問題解決にも数値目標設定 2030年売上高9000億円以上へ
清田 徳明社長

 TOTOは10年先を見据えた新戦略「TOTO WILL2030」を公表した。特徴は2030年の売上規模や利益率、海外売上高比率といった経営目標に加え、世界で深刻化している水問題や環境配慮商品の普及等、社会的・環境的価値向上のための数値目標も盛り込まれていること。取り組むべき課題を「きれいと快適」、「環境」、「人とのつながり」とし、これらをSDGsとも紐付けた計画にした。2020年4月、世界的パンデミックの渦中で社長に就任し、ブレーキとアクセルを交互に踏みかえながら舵取りを進めてきた清田徳明社長に、今、なぜこのような新戦略を策定したのか、話を聞いた。

清田 徳明社長
Profile◉清田 徳明(きよた・のりあき)社長
1961年10月生まれ、長崎大学経済学部卒。84年4月TOTO入社後、98年ウォシュレット企画部長、05年国際事業部長、08年ウォシュレット生産本部長兼TOTOウォシュレットテクノ社長に就任。10年執行役員レストルーム事業部長、12年取締役常務執行役員レストルーム事業部担当、16年代表取締役副社長執行役員を経て、20年4月代表取締役社長執行役員に就任(現任)。
TOTO【5332・東1】節水、CO2削減…環境問題解決にも数値目標設定 2030年売上高9000億円以上へ

新共通価値創造戦略『TOTO WILL2030』とは?
2030年にTOTOが目指すべき姿を掲げ、その実現のため今何をすべきかを考えるバックキャスト型の戦略として今年4月に発表。売上規模は2020年の5778億円から、2030年に9000億円へ。住設事業の海外売上高比率は同25%から50%以上などの経済的成長目標を掲げた。さらに、サスティナブル商品(環境配慮型商品)の構成比を同69%から78%へ、商品使用時の水消費削減量同9億㎥から17億㎥など、社会的・環境的目標も明示された。

想定外が起こる時代
短期目線より長期目線

─前回の「TOTO WILL2022」(2018~22年度)は5年間の中期経営計画でしたが、今回は2倍の10年間の戦略となります。その背景は。

 前計画では私も副社長として喜多村(前社長)を支える立場にあり、取締役間で1年くらいかけてディスカッションをして作り上げましたが、今回のようなパンデミックなど想像もしていませんでした。想定外の大きな波が来る時代、細かな短期の数字の積み上げは、さほど意味を持たない。緻密な計画は1回捨て、長期的に目指すべき姿を掲げれば、後は単年単年、やらなければならないところは決まってきます。長期のゴールに向けての基本的なストーリーラインを決めれば、その都度起こる変化に対し、組織や個の能力を高めて動けるしつらえに変えました。

─業績の数値目標に関してですが、2030年の売上高計画を9000億円以上としており、かなり野心的な数字です。

 私の気持ちの上では、数字はあまり出したくありませんでした(笑)。9000億円は一つの目標物として置かせていただいたもので、私の考えですが、30年に8500億円でも、9500億円でもいいと思っています。大事なのはその次の2040年までもっと成長していける勢い、ストーリーラインを保っているか、ということ。そちらの方が重要です。

─その成長ストーリーでは経済的規模の拡大と共に、社会問題も解決していくという考えです。なぜこのような社会問題への貢献を今回の構想に取り入れることになったのでしょうか。

 私どもも今、度重なる自然災害で、調達ラインが崩れたりしており、それはいわゆる環境破壊の結果です。また昨年10月、菅首相も2050年カーボンニュートラルの実現を宣言されました。TOTOのあるべき姿を考えたときにそこを意識せざる得なかったということです。

エコ商品構成比は
69%→78%に

─エコ商品であるサスティナブルプロダクツを69%から78%に引き上げる計画を掲げています。

 私どもの商品は一旦お使いいただくと10年20年、毎日、繰り返して使っていただくわけですから、商品のライフサイクルから見たCO2排出量でみると、商品使用時が93%くらいを占めます。そのため、お客様の半歩先、一歩先をいって技術を磨いて価値を高め、お客様にご支持をいただかないといけないと思っています。

─便器の洗浄水量は今後も削減されますか。

 今、私どもの製品で1番少ない水量は3・8リットルなのですが、これを例えば2リットル、1リットルにすることを器具でやっていくのは難しい。しかし例えば周辺の配管等の組み合わせによって、もうちょっとやれるところも出来るかもしれませんし、洗浄水ではない他の部位ではまだまだやれることもあると思っています。

─この成長物語を実現するには、何よりも社員一人ひとりがこのストーリーやゴールを理解していなければなりません。

 今回「TOTO WILL2030」で2030年、2050年に目指すビジョンを掲げコミットした訳ですが、その時はもしかしたら、私はもう鬼籍に入っているかもしれません。でも私どもの会社は続いているはず。ですから、我々の後の世代と心を合わせることを、今進めています。

Zoomを使って1時間半、男女、所属を問わず、月に3回ぐらい社員7~8人を集めて直接会話をしています。40歳代以下の希望者からスタートしたのですが、1カ月に3回、7人ずつ行ったとして毎月21人、1年間で約250人…。私の考えを語ると同時に、若い人の意見を聞いています。かなり本質的なところに食い込んでくれるような人たちもおり、心強く、安心感につながっています。

─TOTOが取り組むべき重要課題〝マテリアリティ〟として「きれいと快適」「環境」「人とのつながり」が挙げられています。なぜこれを重要課題と定義したのでしょうか。

 TOTOには創業者の志、書簡から始まる社是があり、グループの共有理念があります。そして5箇条の企業理念は、ほとんどの人間が毎日唱和したりしていて、私どもグループ3万4000人が1番、腹落ちしているものです。そこでWILL2030で目指すべきことは、理念に基づく「きれいで快適・健康な暮らしの実現」「社会・地球環境への貢献」としました。

 そしてもともとCSR活動で「きれいと快適」「環境」「人とのつながり」の3つのマテリアリティを動かしてきました。ただ今まではCSR活動があり、私どもの事業活動があり、それらが交わるようなイメージでした。今回は3つのマテリアリティを事業計画のど真ん中において究めていくという形にしました。

─それらの課題をSDGsに紐づけています。例えば3番の目標「すべての人に健康と福祉を」。6番の目標「安全な水とトイレを世界中に」はTOTOの事業活動そのものと言えます。

 普通に事業活動をやっていればSDGsには自動的に貢献できる、そういう意味では恵まれた企業だと思っています。

 例えば、15年前、20年前の便器を私どもがご提供する節水便器に置き換えていただければ、洗浄の水量が半減します。また水道水は、ダムから取水し浄水、配水して家庭に届くまでに、たくさんの電力が使われていますので、節電に、CO2排出量の削減にもなります。

─海外では、節水をうたっていながら、2フラッシュしないと流れないトイレなどもあります。

 ポンプなどを使わずに、純粋に位置エネルギーの重力で、最も少ない水できれいに便ばちを洗って、汚物を排出して、それをある一定距離まで搬送する、その性能は世界でトップレベルだという自負があります。

ウォシュレット台数80%増
米国で衛生意識高まる

─もうひとつ今回の構想で注目したいのが、2030年の住設事業の海外売上高比率です。これを25%から50%以上にする目標です。

 国内は国内で堅調に成長させていくのですけれども、成長のドライバーは海外だと思っています。海外の核は中国の1本足打法というのではいけませんので、アメリカとの2つのリージョンである程度の数字まで持っていかないと達成できないと思っています。

─中国でのTOTOは高級ブランドとして一線都市から始まり、二線、三線都市に販路を広げています(※一線都市:北京、上海、広州、深圳などの大都市を指す。二線は地域レベルの影響力をもつ青島市、廈門市、西安市、寧波市、長沙市など)。

 中国はGDPが2桁成長から1桁成長になった代わりに、パイが膨らんできました。二線、三線都市を攻めていった中でわかってきたのは、いわゆる高級をお好みの消費層がそれなりの厚さでおられること。ただ量を取りに行ったところがあって、売り上げは上がったのですけれども、利益率が上がってこなかったということがあります。今、その補正に入っています。

─中国は成長期から成熟期に入りました。

 消費力が拡大していますので、日本も同じなのですけれど、どんどんお客様の要望が多様化しています。「作れば売れる」という時代からお客様の要望が幅広くなっていく。

そうすると我々の流通であったり、代理店が「他のものと違ってTOTOにはこういう価値がある」といったところをしっかり伝えなければならない。サービスも含めて高級ブランドの位置を今まで以上に引き立てていく、その辺が中国の課題になっています。

 アメリカは、コロナでウォシュレットが伸長しました。

私どもなりにここ何年間もウォシュレットの市場を作り込んできたところに、コロナによるペーパー不足や衛生意識の高まりがトリガーとなって2020年の台数は前年比180%。間違いなく、パイは膨らみました。

─今後の伸びはどうでしょう。

 アメリカはその前に前年比120%、130%などと伸びていて、昨年180%と伸長の角度が上がったという感じです。そのまま180%を繰り返すかというと、WILL2030のレンジの中ではその辺になるかと思いますが、それまでは、いわゆるJカーブではなくて前年比120、130%などの積み重ねになると思います。

 現在までに西のエリアを崩しましたので、これから東や中南部のエリアを、ウォシュレットと便器のセットで、店舗も流通も含めて再構築していきたいと思っています。

海外比率25%→50%目指す
アジアを次の成長エンジンに

─コロナで、ウォシュレットが新習慣になったとも聞きます。温水洗浄便座の普及率は日本は8割。海外はどのくらいですか。

 アメリカも中国も、1%もいかないくらい…。まだまだやっと普及の入口に立った程度です。日本でも80年代の後半から90年代なんですね、いわゆる成長曲線の中のキャズムの16%くらいを超えて一気に増えたというのは。ただ今の時代、イノベーターだったり、アーリーアダプターの方が、SNSなどでうたってくれる。それでも相当時間はかかるんではないかと思っています。

─台湾、ベトナム、インド、タイなどアジア市場でも事業を拡大していく考えですね。

 アジアの魅力は、なんと言っても人が多いということです。やはり経済力の源泉は、人だと思います。そういう意味では時間はかかるかもしれませんが、インド、インドネシアやベトナムなどは、将来的にすごく魅力的です。今はアメリカと中国の2リージョンで牽引していって、その間にアジアを育んでいけば、それはまた次の成長エンジンになっていくと思います。

国内リモデルは堅調
3年で18%増収計画

─国内は国内住設の売上の7割弱を占めるリモデルが軸です。2023年までのステージ1では、リモデルで18%増の3412億円を目指しています。

 2030年までの長いレンジで考えても、新築は減っていきますが、住宅ストックや、55~74歳といわれるリモデル適齢層は減るものではない。リモデル需要そのものは安定していると考えています。

 特にリフォームでは商品価値を認めていただきやすいので、創意工夫を続けて、商品を磨いていくこと。あともう一つはやはり、2018年4月からご提供している「あんしんリモデル」です。短期的な収益には結びつきませんが、ここを進めていくことでリフォームしやすい環境を作る、というのはすごく大事だと思います。

─リモデル推進ではデジタルをより強化していく方針です。

 この3年で内容が随分充実してきて、ライブラリ(施工事例)などもたまってきましたし、電話でお尋ねいただく件数もかなり安定的に伸びています。ショールームでは今、オンラインコンサルを始めています。もちろん最終的には、10年、20年使っていただく商品ですからリアルで決めて欲しいと思いますが、キッチンを決めるのに何度も足を運ぶ、その前にオンライン上で会話ができるというのは、お客様にとってプラスになると思います。

スピード感のある
IoT化を推進

─各メーカー、住設のIoT化が進んできています。今後の商品開発の方向性は。

 自動でバスタブを掃除し、栓を閉めて、お湯をためてくれる「おそうじ浴槽」が昨年スタートし、これはスマホで操作できます。また、洗い場の床をきれい除菌水で洗浄し、スマートスピーカーの音声操作で入浴準備ができる「つながる快適セット」に進化しました。私どもが磨き込んできたハード的な価値に、いろいろなソフト的な価値が加わることによってお客さまの利便性が高まると思っています。

─パブリックの分野でもシェアを獲っていくのですね。

 パブリックのレストルームはIoT化が進み、消耗品の補充や空満表示などの管理サポートを始めました。他社と一緒にやらせていただくことでスピードも上がり、また私どもにない気づきもご享受いただきながら、進めています。いずれまたインバウンドのお客様が増えて来ますので「日本のトイレはすごくよくなっているな」といわれるようにしていきたいと思います。

(提供=青潮出版株式会社