シップヘルスケアホールディングスは、医療機器流通のトップ企業だ。現在連結子会社55社、持分法適用会社4社(2021年3月時点)をグループパートナーに、グループ全体で医療や介護の現場をサポートしている。事業の柱となるトータルパックプロデュース事業で市場を開拓。創業から29年間右肩上がりで成長を続け、現在売上高は5000億円規模になっている。同社は、Sincere(誠実な心)、Humanity(「情」の心)、Innovation(革新者の気概)、PartnerSHIP(パートナーシップ精神)の「SHIP」を企業理念に掲げ、「生命を守る人の環境づくり」をグループミッションにしている。コロナ禍で全国の医療機関が逼迫している中注目したい企業だ。
5事業で医療・介護をトータルサポート
同社は現在5つの事業領域を展開する。1つ目は、事業の柱となる「トータルパックプロデュース(TPP)事業」。これは地域中核病院から大学付属病院までの大型医療機関の新設・移転・増改築等のニーズに対して総合的なサービスを提供する。具体的には、企画運営・経営コンサルティング、医療機器・設備の販売、リース、設備工事、不動産賃貸など一括で請負い開業までサポートする。またグループ全体で、医療ガス供給システム、手術用照明器、介護用浴槽やリハビリ機器などの製造から取付け、メンテナンスも手がけている。
2つ目は、病院の日々の業務に必要不可欠な注射器やガーゼなどの診療材料、医療用消耗品を販売する「メディカルサプライ(MSP)事業」。通常のルート営業による販売だけでなく、SPDと呼ばれる院内外物流管理システムやIT管理システムなども開発・提供し病院の業務効率化をサポートしている。
3つ目は、老人ホーム、グループホーム、リハビリ施設などを運営する「ライフケア(LC)事業」。小規模多機能施設から大型施設まで、現在全国約100施設を運営。4つ目は「調剤薬局(PH)事業」。北海道から四国まで115店舗の調剤薬局を展開する。そして5つ目が「ヘルスケアサービス(HS)事業」だ。
2021年3月期の連結業績は、売上高4971億円、営業利益218億円。セグメント別売上高比率は、TPP事業が20・1%、MSP事業が67・8%、LC事業が4・9%、PH事業が5・5%。売上高ではMSP事業が全体の3分の2を占めるが、営業利益で見るとTPP事業が43・7%と約半分を占める。
▼シップヘルスケアグループのビジネスモデル
コンサル強みに病院建築全般をプロデュース
3兆円といわれる医療機器流通市場には、ピーク時より減ったとはいえ500社程の企業があり群雄割拠の状態だ。同じ医療関連でも、9兆円の市場規模のうち過半を大手4社が独占する医薬品市場と大きく異なる。その医療機器市場の中で、同社は独自の戦略により大きく差をつけてきた。
医療機器業界の歴史は長く、東大周辺のエリアは「本郷村」と呼ばれ、有力医療機器会社が集結する。本郷村の老舗医療機器商社が第一世代、同社はそれに続く第二世代と言える。
同社のビジネスモデルの特徴は3つ。1つ目は、老舗企業の多くは高額な手術台や検査器の販売のみを手がけるが、同社は機器の搬入・据付まで自分たちで行う。2つ目は、老舗企業が扱わない比較的単価が安いベッドや什器などの医療設備も販売する。そして3つ目は、多くの代理店が単一メーカーの製品しか扱わないのに対し、同社は複数メーカーの製品を扱う。
第一世代の老舗企業が高利益のビジネスモデルで先行していたのに対し、後発だった同社は広範囲なサポートと取扱品目でパッケージの一括受注につなげてきた。そして搬入・据付を自分たちで手掛けることで他社と一線を画すメディカルファシリティ技術(注1)のノウハウを蓄積。そのノウハウがベースにあるため、企画・運営・経営だけでなく、医療設備を中心にしたコンサルティングが強みとなりシェアを拡大することができた。
さらにもう一つの強みが、TPP事業で獲得した得意先に対して、診療材料・消耗品の販売、配送、在庫管理などのサプライを提供するMSP事業を展開している点だ。TPP事業はプロジェクトの開始から3~5年程かけて完成するが、その後も継続して日常的に病院とパートナーシップを維持することで、医療機器の買い替えニーズにも素早い対応ができる。
「例えればTPP事業は自分達で耕して畑を作ること、MSP事業はその耕した畑から収穫することです。我々は耕し方はよくわかっています。日進月歩で医療機器も進化していますが、自分たちで耕した畑からそうした情報は入ってきますから対応も早くできます。そこが我々の強みです」(古川國久会長)
注1)メディカルファシリティ(MF)技術とは、豊富な設備・技術知識によって、病院内で複雑に絡み合う医療機器を正しく機能させるノウハウのこと
グループ全体で全国エリアを網羅
同社は現在、連結子会社55社、持分法適用会社4社(2021年3月時点)で構成される。グループ全体の従業員数は、正社員6769人、全体で約1万3000人に及ぶ。営業エリアはグループ全体で北海道から沖縄まで国内全域をカバーしている。
現在、国内の病院数は8000程ある。病院建設は1980年代にピークを迎え、2010年頃から新築・移転・リモデルニーズが拡大。国立、民間病院の統廃合も活発化した。そうした背景があるなか、同社では通年200~300件の医療プロジェクトに関与し、年間30~40件が完成している。これまでの実績は病院の開業・運営支援約700件、リモデル約700件以上にも上る。
MSP事業は、SPD、卸、専門領域に強みを持つグループ各社が、北海道から沖縄まで営業展開をしている。PH事業は、仙台に本社を置くシップヘルスケアファーマシー東日本が北海道、東北、関東、中部を中心に店舗展開するほか、日星調剤が島根、グリーンファーマシーが近畿中心に中国、四国で店舗展開している。そしてライフケア事業では、300床以上の大型施設から小規模多機能施設まで全国で施設を運営する。また介護施設や病院向けに給食を提供する事業もあり、約80の施設に提供している。
グループの中核企業として、連結売上高に占める売上高の割合が10%を超えるのが、TPPとMSP事業の両方を手がけるグリーンホスピタルサプライ(GHS)、医療物流管理システムサービスを提供するエフエスユニマネジメント、医療機器及び医療材料商社の小西医療器、そしてシップヘルスケアファーマシー東日本の4社だ。4社の売上高合計が連結売上高の約75%(2021年3月時点)と全体の約4分の3を占める。
「精神と合意」でグループパートナーに
同社は、2000年から積極的なM&Aで成長を続けている。同社ではM&Aを、合併・買収の意味で使わずに、「精神と合意」という意味で「Mind&Agreement」と呼んでいる。これは「統合せずとも君臨せず」という古川氏のポリシーだ。M&A後も親会社、子会社という縛りではなく、お互いのパートナーであり続けるという方針で、互いの企業風土を大切にしている。
2000年、和歌山を拠点に医療用品のサプライを手がけていた誠光堂グループ(現・セイコーメディカル)が初めてパートナーに参画して以降、06年に医療ガス供給システムや手術室施工を行うセントラルユニ、07年仙台調剤(現シップヘルスケアファーマシー東日本)、08年手術用照明器で国内トップシェアを持つ山田医療照明、09年介護用浴槽・リハビリ機器製造の老舗の酒井医療がグループに参画。グループ全体でメーカー機能があることもTPP事業の大きな強みになっている。
「M&A後は、社名変更も人材を無理に送ることもしません。経営人事総務など必要であれば本社で代行します。例えば、採用がしにくいという時はバックアップしますし、資金運用を任されたらやるし、足りない場合はお貸しします。だからこれまで1社も離脱していません」(同氏)
昨年5月には、有料老人ホーム大手のチャーム・ケア・コーポレーションと資本業務提携を締結。チャームケアの普通株式29・45%を取得し持分法適用関連会社とした。
「ライフケア事業で資本提携したチャームケアさんは、ターゲット層が少し違うので合体するとマーケット全体をカバーリングできます」(同氏)
バングラデシュで650床の総合病院を運営
グループの次なるステージとして、連結売上高1兆円を中長期目標に掲げている。新事業として15年から取り組んでいるのが「ヘルスケアサービス事業」だ。既存の4事業を基盤に、医療法人の事業継承支援、病院再生ビジネス、病院・介護の不動産ソリューション、ヘルスケア専門上場リート、海外展開などを進めている。
18年に開業したのが、最先端のがん治療施設「大阪重粒子線センター」。地域中核病院と連携し、企画から管理・運営を手がけている。重粒子線がん治療施設としては全国で6番目、民間主導の民設・民営施設としては国内初となる。治療開始からこれまで約1200人のがん治療の実績がある。
海外展開では、アジア新興国を中心に高度化する医療ニーズに対し、同社が国内で展開してきた、医療機器・設備関連の導入ハウハウ、医療施設のプロデュース技術、病院経営のコンサルティング力を生かしTTP事業を本格化している。14年から透析センターを運営するミャンマーでは、20年事業拡大のため、医療機器卸最大手のOkkar Thiri Co.Ltdと同3位のSnow Everest Co.Ltdを完全子会社化した。バングラデシュでは現地法人を設立し、JICAとの共同事業で650床の総合病院を運営する。
「バングラデシュはマーケット的に厳しいと言われながらも進出し、すでにコロナ専門病院として一部運営を開始しています。順次診療の開始を予定しています」(同氏)
1兆円企業へ向け新体制をスタート
1兆円企業へ向けた取り組みの第一歩として、10月1日より新たな経営体制をスタートさせた。
今年6月には、副会長に小川宏隆氏が就任し、小西賢三氏と合わせ2人体制となった。古川会長のもと、小川氏がTPPセグメントの総責任者、小西氏がMSPセグメントの総責任者として、大きな2本柱でグループ全体を統括する。
そして新体制では、事業領域部門を「TPP」「MSP」「LC」「PH」「海外」の5部門。本社部門を、グループ全体を統括しさらなるグループの成長を図る「営業戦略本部」、ITの利活用・事業の効率化を図る「効率化企画本部」、人財を育てる「人財開発本部」、事業を下支えする「業務支援本部」の4部門を設置し、各部門毎の責任者を選出した。
今後はグループ会社の連携をさらに高め、セグメントを超えた戦略の共有・統一を図り、グループ力の最大化を目指す。
「この新体制がうまく機能すれば、お客様に愛される1兆円企業ができると思います。売上高が1兆円になった時の割合は、MSPセグメントで6000億円、PH、LC、HS事業を含めたTPPセグメントで4000億円になる見通しです」(同氏)
グループ経営理念「SHIP」と「至誠測怛」の基本姿勢
「SHIP」は、Sincere(誠実な心)、Humanity(「情」の心)、Innovation(革新者の気概)、PartnerSHIP(パートナーシップ精神)の4つの言葉の頭文字と、いつまでも帆に風を受けて航海を続ける船でありたい、という気持ちに由来している。古川氏と古川氏を支える創業メンバー「七奉行」が、「理念なき経営はやめよう」という考えのもと三日三晩ホテルに泊まり込み議論し決定した。1992年この理念のもと、シップコーポレーションとグリーンホスピタルサプライの2社がシップヘルスケアグループとして船出をした。「当社は命を預かる仕事がベースになっているので、この理念を基本にしっかりやらないとお客様に信頼される集団にはならないなと思っています」(古川氏)
また、SHIP理念の根源となったのが、「至誠測怛」(しせいそくだつ)の精神。幕末期の備中松山藩(現・岡山県)の陽明学者、山田方谷が長岡藩士の河井継之助に送った言葉で、真心(至誠)といたみ悲しむ心(測怛)を兼ね備えれば物事をうまく運ぶことができるので、この気持ちで生きることが人の基本である、という意味。古川氏は幼少期、母親から「方谷さんのようになりなさい」といつも言われていたという。
同社はグループ経営においても、「SHIP」と「至誠測怛」の理解の共有を大切にしている。
大阪ソリューションセンター稼働開始
2021年6月、グループの小西医療器が中心となって開発・準備を進めていた最先端の医療材料物流拠点「大阪ソリューションセンター(大阪SC)」が本格稼働を開始した。オープンイノベーションで多くのメーカーが参加、共同開発を行い、無人搬送車(AGV)や自律型協働ロボットの導入、自動認識技術RFIDによる24時間棚卸しによる在庫管理、絆創膏1枚から計量できる自動梱包機など、様々な業界初のソリューションを取り込んでいる。現在は関西圏を中心に医療施設への運用を徐々に拡大しており、今後はグループ全体での連携も視野に入れている。
2021年3月期 連結業績
売上高 | 4971億5600万円 | 前期比2.6%増 |
---|---|---|
営業利益 | 218億円 | 同16.0%増 |
経常利益 | 217億6100万円 | 同9.2%増 |
当期純利益 | 122億8000万円 | 同4.0%増 |
2022年3月期 連結業績予想
売上高 | 5300億円 | 前期比6.6%増 |
---|---|---|
営業利益 | 225億円 | 同3.2%増 |
経常利益 | 225億円 | 同3.4%増 |
当期純利益 | 125億円 | 同1.8%増 |
※株主手帳11月号発売日時点
(提供=青潮出版株式会社)