戦後の創業期からの出版事業で培ったブランド力を武器に、長年教育事業を展開してきたのが学研HDだ。現在は医療福祉事業というもうひとつの柱も加わり、乳幼児から高齢者まで、幅広い年代層にアプローチしている。学研HD常務取締役で教育戦略担当でもある福住一彦氏に、同HDの教育事業の現在とこれからについて話を聞いた。
教育分野の売上は787億円
前期売上高のうち6割占める
学研HDの2020年9月期の売上高は1435億6400万円、営業利益は50億7500万円。今期、21年9月期の売上高は1470億円、営業利益は60億円の見通しだ。
学研は1946年、創業者である古岡秀人氏の、「戦後の復興は教育をおいてほかにない」という強い信念から始まった。祖業は「学習」と「科学」に代表される教育分野の出版事業。80年からはオリジナルの教材を使った「学研教室」の事業を展開し、その後、学習塾・進学塾や家庭教師の派遣も開始する。一方で、少子高齢化という社会課題が表面化するなかで、2004年からは高齢者福祉事業のマーケットに参入。医療福祉分野は同HDの売上V字回復に寄与し、現在では第2の柱として同HDを支えている。
このように、同HDが展開する事業(セグメント)は教育分野と医療福祉分野の2つである。前期の売上比率は、教育分野が787億1000万円、医療福祉分野が607億8600万円で、およそ6対4の割合となっている(※20年9月期実績)。
学研教室は全国に1万5000
学習塾の売上規模は業界3位
学研HDの教育事業は、教室・塾事業、出版コンテンツ事業、園・学校事業に大別されるが、そのうち4割強を売り上げるのが教室・塾事業だ。
「教室・塾事業では、学研教室の認可教室として(FC・直営合わせ)約1万6000の教室があり、教科会員は約42万名です。また、学習塾は、約450教室で、4万6000名程の生徒が学んでいます」(同氏)
学習塾は、同HDのグループである学研塾HDに計10社が参画する形。ネットワーク内の地域発進学塾としては、早稲田スクール(熊本)、全教研(福岡)、創造学園(兵庫)などがある。また、ジャスダック上場の市進HD(4645)とは、13年に共同出資の形で学童・幼児保育事業を運営するGIビレッジを設立している(※持分法適用会社)。これら学研塾HDに参画している学習塾の売上高を合計すると、業界ではトップ3の位置にランクインするという(※市進HD自体の売上は除く)。
目下、学研HDが教育事業で目指すのは、乳幼児から大人までの囲い込みだ。その一環として、今年1月、保育園最大手のJPホールディングスの株式の30・72%を取得。持分法適用関連会社とし、保育事業等に関する業務提携契約を締結した。福住氏は、「今は特に幼児から社会人、それから高齢者に至るまで、学研グループとしてライフタイムバリューを上げていかないといけない」と話す。今後は、教室・塾事業、出版コンテンツ事業、園・学校事業という事業間の連携を強めて、「教育」というひとつの大きな枠組みでシナジーを推進、経営を進める方針だ。
全社をあげてDX推進を加速
SBから事業譲受のサービスも
昨年より学研HDが掲げる重点施策のひとつに、DXがある。既に、グループの顧客をIDで統合、全サービスの登録・決済を一元化するなどして利用可能にし、顧客利便性を目指す。2020年12月には、グループ全体のDX戦略を統括・推進する役どころを担う、デジタル事業本部を立ち上げた。
教育分野セグメントとしても、関連事業を次々に開始している。たとえば今年リリースした「マナミル」は、学研教室やグループの塾に通う子どもの保護者向けアプリだ。入退出の管理や、遅刻・欠席連絡、教室からの緊急連絡などが行える。また、6月からは、ソフトバンクから事業譲渡を受けた子育てクラウドサービス事業「hugmo(ハグモー)」を展開。このサービスでは、こども施設の業務管理や保護者とのコミュニケーションをICTにより効率化する。引き継いだ保育園の顧客は約2500園。今後学研HDでのスマート教育関連事業の牽引役となる可能性を有している。
M&AでICネットを子会社化
今後はグローバル展開にも注力
DXと共に学研HDが今後重視していくのが、グローバル戦略だ。学研教室の海外進出は2014年。現地人向け学研教室の運営以外にも、アジア、ヨーロッパを中心とする8つの国と地域では、現地在住の日本人海外子女向けの学習塾事業も展開している。加えて、2019年には、コンサルティング事業のアイ・シー・ネットをM&Aにより子会社化した。ODAを通じこれまで積極的に海外展開を進めてきた同社の拠点を足掛かりに、まずはASEAN各国を強化エリアとして、今後の海外展開を進める考えだ。
20年11月策定の3カ年計画「Gakken2023」では、学研HD全体の数字として、23年9月期で売上高1650億円、営業利益75億円を掲げた。またその先には、25年に売上高2000億円という長期経営目標を置き、うち1000億円を教育事業で達成することを目指している。
「教育業界全体としては、DXの力も借りながら、優秀な人材が参入してくるような生産性の高い業界にしていかないといけないと思っています。また、DXにしてもグローバルにしても、様々なトライ&エラーを繰り返し、力を注いでいく時期だと考えております」(同氏)
2020年9月期 連結業績
売上高 | 1435億6400万円 | 前期比2.1%増 |
---|---|---|
営業利益 | 50億7500万円 | 同12.2%増 |
経常利益 | 52億7300万円 | 同10.9%増 |
当期売上高 | 23億2100万円 | 同19.7%増 |
2021年9月期 連結業績予想
売上高 | 1470億円 | 前期比2.4%増 |
---|---|---|
営業利益 | 60億円 | 同18.2%増 |
経常利益 | 57億円 | 同8.1%増 |
当期売上高 | 23億円 | 同0.9%減 |
※株主手帳11月号発売日時点
(提供=青潮出版株式会社)