正常化期待の巻き戻しで日本の長期金利は年内0%程度に
(画像=PIXTA)

正常化期待の巻き戻しで日本の長期金利は年内0%程度に

バークレイズ証券 チーフ債券ストラテジスト / 海老原 慎司
週刊金融財政事情 2021年11月16日号

国際商品市況の上昇や供給制約、労働力のミスマッチなどを背景にインフレ懸念が高まるなか、先進国の債券市場では10月末まで早期利上げ観測が強まった。その過程では、短中期債金利の上昇が進む一方、金融政策の早期正常化が将来の景気減速を招くとの警戒から長期・超長期債金利は低下した。

しかし、その後11月初旬の金融政策会合において、市場の思惑とは裏腹に、オーストラリア準備銀行や米連邦準備制度理事会(FRB)、イングランド銀行はそろって市場の早期利上げ観測を牽制した。正常化期待が巻き戻され、短中期債金利は大きく低下した。

グローバル債券市場の動きを受け、一時0.1%をやや上回る水準まで上昇した日本の10年国債金利は、本稿執筆時点で0.06%まで買い戻されている。しかし、市場が予想する将来の金利水準を見ると、日本銀行の政策正常化に対する期待は完全には後退していない。

たとえば、短期政策金利(現状はマイナス0.1%)に対する市場の見通しを反映する「2年先2年OIS金利」は、足元でゼロ%をいくぶん下回る水準まで切り上がっている(図表)。一方、イールドカーブ・コントロール政策(YCC)の長期金利の誘導水準(現状はゼロ%程度)に関する市場の織り込みを示す「2年先10年日本国債金利」は、現行のYCCの上限値である0.25%を小幅に下回る水準で推移している。

この背景として、日本のインフレ率が持ち直しの動きを鮮明にしていることが挙げられる。それを裏付けるのが、上下10%の品目を除外して算出した「刈り込み平均値」などの基調的なインフレ率を示すデータだ。輸入物価の上昇分のうち、ある程度がインフレ率に転嫁されれば、現状ゼロ%程度で推移するコアのインフレ率(食料品除く、前年比)は来年半ばに1~1.5%程度へ上げ幅を拡大する可能性が高まる。その過程で、日銀がYCCの対象年限の短期化(現行の10年から5年への移行)やマイナス金利政策の解除といった金融政策運営の正常化を模索すると市場はみているのだろう。

しかし、黒田東彦日銀総裁が2%の物価安定目標の達成に強いこだわりを見せるなか、2%に達していない状況で日銀が緩和策の解除を検討するとは想定しにくい。海外中銀が目標を大きく上回るインフレ率に直面しながらも低金利政策の長期化を決め込んでいることを踏まえれば、なおさらである。市場が先走るようにインフレリスクを織り込むとしても、日銀の正常化に向けた動きは、実際にインフレ率が上昇基調を強める来年からであろう。

世界的に政策の正常化期待が巻き戻されるなか、円金利は年内、10~20年ゾーンを中心に低下しやすく、10年国債金利は0~0.05%にレンジを切り下げる展開が予想される。

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