超富裕層が利用する「プライベートバンク」をご存じだろうか。プライベートバンクは、資産運用だけでなく、相続対策や事業承継、税務など、資産に関するあらゆる対応をしてくれる金融サービスだ。もともと海外で始まったサービスだが、近年は日本でも利用者が増えている。本記事では、普段表に出てこないプライベートバンクのサービス内容や、利用するメリットを紹介したい。

目次

  1. 1. 海外と日本のプライベートバンクの違い
  2. 2. プライベートバンクに口座開設するための最低資産額とは
  3. 3. プライベートバンクを利用するメリット
  4. 4. プライベートバンクの利用を考える際の注意点
  5. 5. プライベートバンクに関する疑問
  6. まとめ:プライベートバンクは超富裕層にとって重要な役割を担う金融サービス

1. 海外と日本のプライベートバンクの違い

プライベートバンク
(画像=PIXTA)

プライベートバンクは、スイスを発祥とする超富裕層向け資産管理サービスだ。資産運用はもちろん、不動産や有価証券なども含めた資産管理や税務、相続問題などへの解決策を提供している。近年は日本でも利用が増えつつあるが、日本と海外のプライベートバンクは少し性質が異なる。まずは、海外と日本のプライベートバンクの違いを確認しよう。

1.1. 海外のプライベートバンクは、顧客の資産を守り、次世代につなげることに特化した金融機関

海外のプライベートバンクは、顧客の資産を守り、次世代につなげることを目標に、資産全般を一元管理する金融機関だ。すでに保有している資産の管理だけでなく、さらに増やして子供や孫に引き継ぐことも重要な使命とする。そのため、事業拡大や事業承継のサポート、子供の教育支援など業務内容は幅広い。

1.2. 日本のプライベートバンクは専門性が高い金融機関の一部門といった位置づけ

日本では主に大手証券会社や大手銀行が、プライベートバンクのサービスを提供している。資産運用や事業資金の借り入れ、相続といった富裕層向けの専門的なサポートは受けられるが、海外のプライベートバンクと比較すると業務内容は限定的だ。

2. プライベートバンクに口座開設するための最低資産額とは

プライベートバンクの利用では、いくつかの審査ポイントがある。しかし、ほとんどの金融機関では必要最低資産額を公表していない。ここでは、プライベートバンクの利用に必要と言われる資産目安を紹介したい。

2.1. 日本の証券会社

日本では、以下の証券会社などがプライベートバンクサービスを提供している。

▽日本の主なプライベートバンクサービス提供会社
・野村證券
・大和証券
・SMBC日興証券
・みずほ証券
・三菱UFJモルガンスタンレー証券

2021年10月18日にはマネックス証券もプライベートバンクサービスに参入を発表した。

証券会社のプライベートバンクを利用するには、最低でも1億円程度の資産が必要といわれる。この必要資産額を満たしていても、不動産や自社株などが多く、流動性資金の割合が少ない場合は、サービスを受けられないケースもあるようだ。

2.2. 日本の銀行

日本では、以下の銀行などがプライベートバンクサービスを提供している。

▽日本の銀行でプライベートバンクサービスを提供する銀行

  メガバンク 信託銀行(一例) その他(一例)
銀行名 ・三菱UFJ銀行
・三井住友銀行
・みずほ銀行
・SMBC信託銀行
・三菱UFJ信託銀行
・三井住友信託銀行
・りそな銀行
・千葉銀行
・静岡銀行
・琉球銀行
・十六銀行
・横浜銀行

銀行のプライベートバンキングも、証券会社と同様に1億円程度の資金が必要とされる。

傘下に銀行や証券会社、信託銀行を抱える三井住友フィナンシャルグループ(FG)は、グループ内の垣根を超えたプライベートバンクサービスを提供する。金融機関の中で銀行は資金管理と融資、証券会社は資産運用、信託銀行は資産の継承といった具合に、それぞれ得意な分野がある。グループ全体で顧客の資産を包括的に管理することで、顧客のニーズにより合ったサービスを提供する。

2.3. 海外の金融機関

日本においてプライベートバンクサービスを受けるためには、証券、銀行を問わず1億円程度の資産が必要とされるところだが、海外ではどうであろう。実際のところ、海外のプライベートバンクサービスを受けるには、数億円の資産が必要と言われる。海外のプライベートバンクは、性質により以下の2種類があることを知っておこう。

・海外のプライベートバンクの種類1:ユニバーサルバンク
ユニバーサルバンクは、法人や個人に総合銀行サービスを提供する銀行だ。その一部門としてプライベートバンクがあり、日本の銀行と似たような形態となっている。スイスのUBSやクレディスイスがユニバーサルバンクに分類される。

・海外のプライベートバンクの種類2:プライベートバンク
顧客である超富裕層の資産管理のみを専門的に行う金融機関であり、伝統的にプライベートバンクと呼ばれる。スイスのロンバー・オディエは1796年、ピクテは1805年に設立されており、その歴史は長い。

【参考:プライベートバンクの最上級「ファミリーオフィス」】
超富裕層の中でも特に資産が多い人向けのプライベートバンクに「ファミリーオフィス」がある。ファミリーオフィスは、現在の資産の運用・管理に加え、資産の継承と一族の永続的な繁栄をサポートするためにサービスを提供している。ロックフェラーやカーネギーといった海外の財閥がファミリーオフィスを利用しているといわれ、一般の人の利用は難しい。

3. プライベートバンクを利用するメリット

プライベートバンクの利用は富裕層に何をもたらすのか。まずはメリットを3つ紹介する。

3.1. プライベートバンクのメリット1:資産全体を考慮したコンサルティングを受けられる

メリットの1つめは、資産全体を考慮したコンサルティングが受けられる点だ。複数の金融機関で資金の分散管理をしていると、それぞれの金融機関でできる提案が限られる。そのため最適なサービスが受けらないケースも少なくない。資産の管理・運用・融資などを一括相談することで、無駄のない資産管理を目指すことができるだろう。

3.2. プライベートバンクのメリット2:一般顧客には開示されていない商品やサービスを受けられる

メリットの2つめは、プライベートバンクは富裕層に特化したサービスであるという点だ。一般顧客には開示されていない金融商品やサービスの提案を受けられる。たとえば、成長性があるベンチャー企業や未上場企業に出資しコンサルティングを行うことで、企業の成長と資産の増加を狙うPEファンドやVCファンドへの投資を紹介されることもある。

PEファンドやVCファンドへの出資は通常、機関投資家しか募っていないため、プライベートバンクの顧客でなければ投資をする機会はなかなか得られないだろう。また、一般的な投資家は抽選などでしか投資の機会を得られないIPO(新規公開株)についても、優先割り当てを受けられることもある。

3.3. プライベートバンクのメリット3:本業に専念できるようになる

メリットの3つめは、資産管理の手間をプライベートバンクに依頼することで、本業に専念できるようになる点だ。多額の資産の管理・運用は、思っているよりもずっと手間がかかる。相続や事業継承の問題があるならなおさらだ。資産管理に関する心配事があっては事業に専念することも難しい。プライベートバンクを利用することで、本業に専念する環境が整えば、さらなる資産の拡大を目指せるだろう。

4. プライベートバンクの利用を考える際の注意点

これまで説明してきたように資産1億円以上のいわゆる富裕層にとって、プライベートバンクを利用するメリットは大きい。一方、開かれたサービスではないだけに利用にあたり注意点も確認したい。以下に注意点を3つ解説する。

4.1. プライベートバンク利用の注意点1:日本と海外、どちらのプライベートバンクを選ぶのか

プライベートバンクを利用するなら、日本と海外のどちらを選ぶかをまず決める必要がある。

資産額に見合った金融商品の紹介やサービスを受けたいと考えているなら、日本の金融機関がよいだろう。支店や窓口が多く、相談しやすいといった安心感がある。

次世代への資産の継承を第一に考えるなら、海外のプライベートバンクのサービスが充実している。近年では、三菱UFJフィナンシャル・グループとモルガンスタンレーや、三井住友信託銀行とUBSなど、海外と日本のプライベートバンクが提携してサービスを展開しているケースもある。

プライベートバンクは多くの場合、長期で付き合っていくことになる。契約前にいくつかの金融機関を比較検討し、自分に合ったサービスを展開するプライベートバンクを選びたい。

4.2. プライベートバンク利用の注意点2:プライベートバンクがある金融機関を調べる方法

プライベートバンクを調べるなら、国際的金融専門誌「EUROMONEY」誌選出のランキング「Private Banking and Wealth Management Survey」が参考になる。このランキングは、金融機関同士の投票によって年に1回順位が発表される。2020年には2,332、2021年には2,114件の回答をもとに作成された

2021年の日本におけるプライベートバンキング総合ランキングでは、3位のUBSと4位のクレディスイスを抑え、三菱UFJモルガンスタンレー証券が1位、野村證券が2位を獲得した。5位はみずほ銀行、6位は三井住友銀行、7位には大和証券がランキングされている。

▽EUROMONEYによる日本のプライベートバンクの2021年度ランキング

4.3. プライベートバンク利用の注意点3:紹介制でしか利用できないプライベートバンクもある

プライベートバンクを利用するには、まず金融機関に口座を開設する必要がある。しかし、顧客からの申し込みを受け付けていない金融機関も多い。その場合、紹介により口座を開設することになる。

すでに取引している金融機関に多額の資産を預けている人は、金融機関からプライベートバンクの案内が来ることがある。それ以外には、すでにプライベートバンクを利用している人から紹介してもらう方法もあるようだ。

5. プライベートバンクに関する疑問

最後に、プライベートバンクに関する疑問に回答する形式で、知っておきたい知識を3つ紹介する。

5.1. プライベートバンクの疑問1:資産額によってサービス内容が異なることはあるのか

プライベートバンクでは、顧客1人ひとりに合ったサービスの提案が行われる。仮に、資産5億円の顧客と10億円の顧客では、最適なサービスは変わるだろう。そのため、資産額によってサービス内容が異なることは十分に考えられる。

5.2. プライベートバンクの疑問2:資産額は十分でも利用不可のケースはあるのか

プライベートバンクは、利用に際して審査がある。資産額が十分でも利用を断られるケースがある。口座が開設できないケースの一例を以下に紹介する。

・国家機密に関わる政治家や外交官
・前科がある人
・利用目的がプライベートバンクの理念にそぐわない場合

政治家や外交官など、国に関わる仕事をしている人はプライベートバンクのサービスを受けられない可能性がある。それは、プライベートバンクのサービスが徹底した守秘の下で提供されるからだ。政治家や外交官などがプライベートバンクを利用できないのは、国家機密が漏れたり、マネーロンダリングに利用されたりするのを防ぐためである。そのほか、利用目的が「資産を守り次世代に引き継ぐ」というプライベートバンクの理念にそぐわない場合も利用を断られる。

5.3. プライベートバンクの疑問3:資産額に不足でもプライベートバンク口座を開設できるのか

資産額が不足している場合には、残念ながらプライベートバンクの口座開設はできない。規定の資産額に達するまでは、そのほかのサービスを利用しよう。

資産管理や資金計画についてなら、ファイナンシャルプランナーにも相談可能だ。相続や事業承継等に困っているなら、税理士に相談する方法もある。

まとめ:プライベートバンクは超富裕層にとって重要な役割を担う金融サービス

プライベートバンクは1億円以上の金融資産を保有する、超富裕層を対象とした金融サービスだ。そのサービス内容は、一般的に広く販売されている既存商品の提案にとどまらない。顧客ごとに最適な投資プランの作成から、税金対策、事業継承、相続、海外のプライベートバンクなら子供の教育相談まで行うことができる。

大きな資産を抱える富裕層にとって、資産の管理と継承は時に大きな問題となる。場合によっては、本業や日常生活に支障が出るケースも少なくない。家族関係に影響が出ることもあるだろう。プライベートバンクは資産管理を一手に引き受けることで富裕層家族の負担を減らし、穏やかで充実した生活を実現するための重要な役割を担う専門家集団だといえるだろう。

山本希美
プロフィール
中央大学法学部を卒業後、都市銀行に就職。ファイナンシャルプランナーとして、経営者や資産家といった富裕層の資産運用に携わる。退職後は、銀行で得た知識を活かし資産運用情報を発信。自身も20代より、株や投資信託・保険商品などを組み合わせた資産運用を続けている。