株式投資には「成長株投資」と「割安株投資」といった2つの代表的な投資方法が考えられます。この成長株と割安株の指標や見つけ方は、根本的に異なるものです。では、“割安な成長株”という銘柄は存在しないのでしょうか。そのようなお宝銘柄もまったくないとは言い切れません。成長株と割安株の特徴を理解し、“割安な成長株”がどんなものかを踏まえて、狙い目のセクターやテーマを探していきましょう。
目次
1.株式投資は大きく2つ: 成長株への投資or割安株への投資
株式投資で難しいのは、銘柄選択だということは疑いようがありません。銘柄選択は、運用成績に直結します。東京証券取引所には約3700社(2021年6月執筆時点)が上場しています。その中から今投資するべき銘柄を選ぶことは容易ではありません。
では、どのような基準で銘柄を分析し、選んでいけばいいのでしょうか。
1−1. 成長株か?割安株か?
株式は大きく分けると、成長株と割安株の2つにわけられます。次のセクションで詳しく解説しますが、基本的に株価は企業業績と連動します。
・成長株:上昇する可能性も高いものの、その分市場の評価も高くなりがち。大きく下げることもある
・割安株:大きな業績の成長は期待できないものの、株価指標が安く配当利回りが高い。下値リスクは限定的。
投資において、リターンとリスクはトレードオフのため、大きなリターンを求める場合はリスクも大きくなります。一般的に、大きなリターンを期待するなら成長株のほうが適しているでしょう。一方でリスクを抑えて、安定的に収益を望むなら割安株が適しています。
毎月の収入から投資資金を増やしつつ、1年当たりどれくらいのリターンを目指すかをイメージして、自分の投資スタイルを確定していくのがいいでしょう。ある程度期間が長いなら、それほどリスクをとる必要もありません。急騰急落をするような銘柄に手を出す必要はないのです。
成長株や割安株の選び方については、後述します。「たまたまその銘柄が上がった」ということでなく、具体的な目標を立てた投資を繰り返すことで、投資に大切な再現性を高めることが期待できるでしょう。
1-2. 成長株とは?
成長株とは、好業績もしくは今後成長が期待できる「ビジネスモデル」「新製品」「新技術」などの材料をもった銘柄のことで、グロース株ともいいます。成長力が市場である程度評価されることで、株価収益率(PER)や純資産倍率(PBR)などの株価指標が割高になるまで買われることもめずらしくありません。
具体的には、テクノロジーセクターや情報通信のセクターにグロース株が多いといえます。
1-3. 割安株とは?
割安株とは、利益や資産といった企業業績が株価に反映されていない割安な銘柄のことで、バリュー株ともいいます。割安に放置されている結果、配当利回りが魅力的な水準となっている銘柄も少なくありません。そのため配当利回りの高い株も、バリュー銘柄の典型です。
たとえば、総合商社株、大手自動車株などが低PERの割安株の典型といえるでしょう。
もちろん、どの銘柄が成長株か割安株かといったことは、はっきりわけられるものでもありません。なぜなら、成長株の中にも割安株があり、割安株の中にも成長株があるからです。そこで今回は、成長株と割安株投資において注意したい指標や銘柄の選び方について紐解いていきましょう。
2. 成長株の指標とは? 成長株の見つけ方
成長株の投資でもっともわかりやすく選びやすいのは、売り上げの伸びでしょう。成長する企業、はトップラインである売り上げの伸びが高い企業です。またトップラインが伸びているだけでなく、利益成長している企業が注目されます。
利益には、「営業利益」「経常利益」「税引き前利益」などがあり、ここでもっとも重視するのは本業の利益をあらわす営業利益です。売り上げの伸びが目覚ましく、営業利益の伸びが売り上げの伸びを上回るような企業が成長株の典型例です。
2−1.売り上げ、営業利益の伸びのほか、営業利益率も最重要
また営業利益率も重要です。営業利益率が高いということは、そのビジネスモデルに競争力があり、他社との値引き競争が激化している収益環境にないことをあらわすからです。たとえば、証券会社などが提供する銘柄をスクリーニングする機能で、次のような条件を設定してみましょう。
・売り上げ10%の成長
・営業利益10%以上の成長
・営業利益率20%以上
もし営業利益項目がなければそれに準ずる経常利益でもいいでしょう。これだけで約3,700ある銘柄が100銘柄未満にしぼれたのではないでしょうか。注意しなくてはいけないのは、ここでは営業利益率を20%としましたが、営業利益率は業種によって大きく変わることです。
たとえば、ネット系の企業の利益率は、設備や人件費にかけるコストが抑えやすいため比較的高い傾向ですが、重厚長大の装置産業や、薄利多売の傾向が強い商業や小売業などは比較的低くなります。単に利益率の高い企業だけでなく、業種内で相対的に見る目を養っておくとよいでしょう。さらに、次のような点も抑えておくと安心です。
・PERが高すぎないか
・業種、テーマなどが市場のトレンドに乗っているか
2−2.業績モメンタムも重要
株式市場は未来を評価して反映する市場です。高成長企業であっても、次のようなケースでは高評価されていた株価に見直しが入りやすくなります。
・成長力が鈍化してきた
・従来のビジネスモデルに限界がきている
・新製品の推進力がなくなってきた
スクリーニング方法によっては、過去3年の増収率なども指標として入れられますので、過去3年を今期予想の増収率が上回る企業は注目です。
つまり、過去や前期の増収増益率よりも、今期予想の伸びのほうが上回っていることが理想です。これを「業績モメンタムがある会社」といいます。
保有する銘柄の株価が決算発表で大きく動く経験をしたことがある人も多いでしょう。これは、四半期に1度、その銘柄の業績やモメンタムを市場が評価するからです。成長株のモメンタムが減速するといくら好業績でも、今までの高評価に一気に見直しが入って売られることがあります。
株式投資をする場合、決算のチェックは避けられません。最初は難しいかもしれませんが、QUICKコンセンサスなど、アナリストの平均予想などと比較しながら、四半期ごとに投資している銘柄の決算をチェックすることが大切です。
なぜなら、新製品や大ヒット商品がでた場合に株価が大きく上げることがあるのは、その新製品やヒット商品がその会社の業績を一転させる可能性があるからです。こういったことは、株価指標やスクリーニングでは抽出できません。
街でヒットしていること、自分が注目している新製品などについて常にアンテナを張り、株価に評価されているかどうかをチェックしていれば成長銘柄に出会える可能性も高くなるでしょう。
2−3. 赤字企業でも40%ルールなら評価されることも
新興成長企業の中には、「売り上げは伸びているが、まだ投資段階・成長段階にあり、利益はださず投資に回し赤字」というケースもよくあります。利益成長率と利益率ではこうした銘柄は探せません。とくにマザーズなどに上場しているSaaS系の銘柄などが代表です。その場合、よく使われるのが「40%ルール」です。
40%ルール
「企業の売上高の成長率」+「営業利益率」>40%
たとえば、売り上げが40%伸びていれば、営業利益がでておらず営業利益率が0%でも成長企業と考察することができます。売り上げが30%伸びていれば、営業利益率が10%でも成長株だという目安です。
これは投資銀行が、企業のM&A(企業の合併・買収)の対象として考えるときの基本の見方とされています。マザーズなどの新興市場の場合は、この基準をあてはめてみるとよいでしょう。
3. 割安株の指標とは? 割安株の見つけ方
割安銘柄も最初はスクリーニングで絞り込むことが簡単なアプローチです。代表的な指標が配当利回りのほか、「PER」「PBR」です。
・PER(株価収益率)
PER=株価÷1株当たりの当期純利益(EPS)
株価の割高・割安を判断する最も基本的な指標です。株価を1株当たり利益(EPS)で割って求めます。会社が発表している予想利益をベースに予想PERを用いるのが一般的です。当然、成長企業は株価が高く評価されるためPERは高くなり割安銘柄は低くなります。
・PBR(純資産倍率)
PBR=株価÷1株当たりの純資産(BPS)
株価がその企業がもつ土地、建物、設備などの資産に対して割高・割安を判断する指数です。純資産は企業が解散して、資産を全部売ったときの価値、解散価値となります。そのためPERよりもむしろ、下落市場で企業の株価の本質的な割安度を見るような場合に注目されることが多い指標です。
PER、PBRともに業種によって大きなバラツキがあります。そのため業種が異なる場合の比較には適してないことに注意してください。
4. 「割安な成長株」はありえるか?
株式には成長株と割安株があると述べましたが、割安かつ成長株といった魅力的な銘柄は存在するのでしょうか。前提として、すべての銘柄が一方にしか当てはまらないということはありません。
たとえば、トヨタ自動車<7203>はPERも低く、配当利回りも悪くないことから割安株のくくりに入れられることも少なくありません。2022年3月期は過去最高益を更新する見込みで、EV自動車や自動運転などの業界再編によっては成長局面を迎える可能性もあります。
またEV自動車世界大手でPERが高い企業もあります。同じ自動車セクターでも成長株と割安株があり、なにかの材料でトヨタ自動車が成長株と見なされるようであれば、株価の位置は大きく変わる可能性があるわけです。
また、今期の予想PERが100倍の銘柄は高いイメージがありますが、来期も5割増益だとPERは理論上50倍となり、その次の期も5割増益ならPERは25倍です。つまり、成長力がある程度確実に見込める場合は、「高PER=割高」ともいえないでしょう。
とくに近年、新興市場で脚光を浴びてきたIT系のサブスクリプション収入をビジネスモデルとしている企業は、売り上げの伸びのモメンタムを見るとある程度、将来の利益が予想できます。この場合も「PER=割高」と考える必要はないでしょう。
あらためて、成長株や割安株を見つけたい場合は次の流れをインプットしておきましょう。
1. 成長株のスクリーニングでリストアップした銘柄のうち低PER株を探す
2. 割安株でリストアップした銘柄のうち成長率の高い銘柄を探す
3. 株価情報ツールなどで、材料やテーマ性があるかなどを調べる
割安な成長株を見つけるのは大変ですが、個人投資家でも、会社の開示や決算、決算説明会資料、中期経営計画などで機関投資家と同じように企業の財務内容などを調べることが可能です。
誰でも最初は初心者ですが、継続して行っていくことで必ず経験値は上がり、成長株や割安株の目利き力だけでなく投資成果につながってくるはずです。
5. 狙い目のセクターやテーマを探すには?
銘柄を選ぶ際には、セクターを考えることも重要です。現在の相場は「全面高・全面安」になるより、「成長株・割安株」などどちらかの循環物色で買われることが多い傾向です。人気のあるセクターの銘柄ばかりが株価の値を上げ、他の銘柄は動かないことも少なくありません。
長期投資の場合は、成長株や割安株を安いときに拾えばいいでしょう。しかし、中短期で投資する場合は、相場で中心となっているセクターを理解してその銘柄に乗らないとパフォーマンスが出しにくいものです。
たとえば、株価情報ツールでは「人気の株テーマ」がリアルタイムでランキングを見ることができます。日ごろから人気のあるセクターを理解しておくと、中短期投資の銘柄物色がしやすくなるでしょう。
5-1. 国策に売りなし!
株の格言には「国策に売りなし」というものもあり、政府が推し進めているテーマが長期でも有効なテーマとして注目されます。
・デジタル庁関連
・子ども庁関連
・脱炭素関連
・AI
・半導体
・5G など
このような国策に関連した企業は循環物色の対象にもなるため、押し目をつくっている国策銘柄などは狙い目です。
5-2.旬の投資テーマに、経営資源を投入しているか
国策以外に「旬のテーマ」という視点もあります。そのテーマは、日本だけでなく世界的に注目されていることが多く、株高の要因となりやすいでしょう。
国策銘柄とも一部重複しますが、たとえば会社の経営戦略において、次のような旬のテーマを対象とする事業領域に、会社が経営資源を投入していこうとする計画があるか、チェックしてもよいでしょう。
・DX
・フードテック
・人工知能(AI)
・リモートワーク
・AR/VR
・FinTech
・キャッシュレス
・D2C など
アンテナを広く張っておけば「市場での認知度が低い割安なうちに投資する」という待ち伏せ作戦も期待できるかもしれません。
6. 割安な成長株の注意点
リーマンショックやコロナショックのような急落時など下げ局面に陥った場合、割安株の押し目買いをすれば長期的には効果的でしょう。とくに成長株に関しては、その企業の将来像について実際のところ誰も確実にはわかりません。
株価は需給関係で過熱して割高にまで買われることもありますが、気を付けたいのは、決算などで期待の前提を見直す必要があるとき、新製品や新技術がうまく軌道に乗らないときなど、株価の市場での高評価が一気にはげる可能性です。
そういったときは、成長株が大きく下げてPERなどの割高感が薄れたとしても、安易に押し目買いを入れないほうがいいでしょう。
7. 身近な環境から成長株を探してみよう!
株式投資においては、成長株に投資するか割安株に投資するか、はたまた割安な成長株を探すか考えていくことも1つの方法ですが、自分の投資する目的や投資の期間、具体的な投資の目標金額などをしっかりと確立することも大切です。
たとえば、今運用している100万円を60歳までの30年で2,000万円に増やしたい、といった具体的なイメージです。自分にあった目標と投資スタイルを決めて、ブレない投資を心がけることで、自ずと投資すべき株が見えてくるはずです。
また旬のテーマや銘柄を選ぶうえでも、関心があったり深く理解できる事業やテーマの企業や銘柄を選ぶのも1つの選択です。興味のある分野の情報を集めて分析することは、それ以外と比べてより深く掘り下げることができるものです。自分の身近な環境で、好調さが実感できるような銘柄をしぼっていくとよいでしょう。
文・平田和生
(提供:SmallCap ONLINE)