本記事は、畑中学氏の著書『最新版〈2時間で丸わかり〉不動産の基本を学ぶ』(かんき出版)の中から一部を抜粋・編集しています

取引成立と思ったら起こる「買い付け共鳴現象」とは

手を上げる
(Sergey Nivens/PIXTA)

不動産取引を長年やっていると、あれ今回も起きた……と同じような現象に出会うことがあります。その中で1つだけ「買い付け共鳴現象」について取り上げてみます。名前は私が勝手につけたのですが、ベテランの方なら一度は体験したことがある現象だと思います。

同時に複数の購入申込みが来る

買い付け共鳴現象とは、「1人買いたい人が現れるともう1人買いたい人が現れる」という現象のことです。

買いたい人がもう1人で済むのならいいですが、2人、3人ということもあるから厄介です。私は1年に1回はこの現象に遭遇します。

たとえば、融資が付きにくいので現金で買える顧客を探していた借地権付き建物がありました。引き合いはいくつかあったのですが、いずれも申込書をいただくまでには至らず、1年ほどが経ってしまいました。

そろそろどうにか売らなければと思っていた矢先、ある不動産業者から、「買いたいというお客様がいるのでこれから購入申込書を流します」といううれしい電話が入ります。

ようやくこれで売れるか! と盛り上がっていたら、10分ぐらいしてからもう1本電話が鳴りました。「〇〇不動産ですが、これから買い付けを入れさせていただきますので、よろしくお願いします」とのこと。1年近くも買手が決まらなかった物件に、同時に2本の申込み(買い付け)が入るとは。世の中うまくいかないものです。

また、次のようなこともありました。

10カ月ほど売れずに残っていた、立地条件が厳しい不動産がありました。ある顧客にその物件を案内したところ、とても気に入ってもらいました。案内の翌々日である火曜日の夕方には購入申込書をいただきました。

日曜日の夜の時点で、まだ売れていないことを確認していた私は、「まさか昨日、今日で他に申込書なんて入ってないだろう」と考え、申込書をFAXしてからその物件の所有者に電話したところ、

「すみません、今日の朝買い付け入ちゃって。1回断られたお客さんのようなんですが、やはり買いたいということになって。なぜ、ここにきて引く手あまたなんでしょうね……」

という答えが返ってきました。こんなことなら日曜日の夜に無理してでも購入申込書をもらうべきだった、と後悔したものの後の祭りでした。

なぜ、このような現象が起きるのか

買い付け共鳴現象とは、一度購入申込み(買い付け)を受けると、他にも買いたいと思っている人に共鳴したかのように、次々と購入申込書が集まってくることです。

安くて誰もが良いと思う不動産なら、買いたい人が複数現れてもおかしくないのですが、多少難がある不動産でもこういうことがそれなりの頻度で起こるので不思議です。これはなぜだろうと思い、この道20年という先輩に話を聞いたところ、次のような答えが返ってきました。

「果物が熟すと匂いを発して方々から昆虫を引き寄せるだろう。それと同じで、不動産も一定期間すぎると適当な価格まで下がって値ごろ感が出てくるんだ。何回かの広告掲載で認知度が上がっているともなれば、見込み客にその存在が知れわたる。つまり、熟した(買いやすい)状況が生まれるわけだ。それで同時期に複数の人が買いたいと言い出すんだと思う」

なんとなく納得できるたとえ話ではあります。

この現象から学ぶべきことは、一度「買いたい」という話になったらサクサク進めた方がいいということです。

「買うのを焦らす」というのとは、話が本質的に違います。すみやかに、テンポよく交渉を進めて契約に結びつけましょう。

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()『最新版〈2時間で丸わかり〉不動産の基本を学ぶ』より)

ここがポイント!
買いたいとなったらテンポよく買っていただく。不動産の仕事とはタイミングとテンポ!

最新版〈2時間で丸わかり〉不動産の基本を学ぶ
畑中学(はたなか・おさむ)
不動産売買のスペシャリスト。年間300件以上の相談を受け、常に顧客のメリットを優先して問題解決にあたる「業界の良心」的な存在。不動産業界の新人用テキストとして人気を博した『不動産キャリアパーソン講座テキスト【入門編】』(全宅連)の共著者も務めている。1974年生まれ。不動産コンサルタント。宅地建物取引士のほか、公認不動産コンサルティングマスター、マンション管理士、管理業務主任者の資格も保有している。幼少時に相続問題に巻き込まれ自宅を失ったことで、不動産に強い興味を持つ。東京農業大学大学院で造園を学び、設計事務所に就職。その後、大手不動産会社に転職し7年勤務。不動産の販売・企画・仲介業務に携わり、当時最年少の32歳で支店長となる。リーマン・ショック後の2008年に起業し、武蔵野不動産相談室株式会社を設立。代表取締役に就任。以来、不動産コンサルタントとして全国に活動範囲を広げるとともに、不動産ポータルサイトでアドバイザーを務めている。特に不動産に関わる相続や債務問題のトラブルシューティングを得意とし、解決率は96%。その真摯な取り組みがNHK総合テレビ「おはよう日本」をはじめ、読売新聞、日本経済新聞などで紹介された。不動産業界・建設業界の人材育成にも尽力しており、各業界団体や日本経済新聞社でのセミナーにも登壇している。著書に、『家を売る人・買う人の手続きがわかる本』(小社)、『はじめて不動産でお金を稼ぐ。』(秀和システム)、『図解即戦力 不動産業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)などがある。

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