どの分野においても、「結果を出している人」の意見は傾聴に値するだろう。資産運用に関しては運の要素も強いため、結果を出している人が必ずしも再現性のある手法を持っているわけではないが、少なくとも「お金に対する考え方」を知ることは、多くの人によって有益なはずだ。
今回、著名投資家の玉川陽介氏がZUU onlineへの寄稿連載に応じてくれた。金融商品分析や不動産投資の出版書籍は累計10万部を超えており、「玉川陽介」という名前を知っている人も多いだろう。下記画像のように、2021年6月時点で37の物件を保有し、保有資産(保有不動産時価)は111億円だ。この半年弱でさらに物件を買い進めており、現在の保有資産は約120億円だという。
なお、2021年6月時点の保有物件一覧の詳細はこちらに記載されている。多くの投資家にとって大変貴重な一覧表だろう。合わせてご確認いただきたい。
本連載では、約10年で120億円の資産を築いた玉川氏に、「資産運用やお金に対する考え方」を紹介してもらう。誰しもが玉川氏の手法を再現できるわけではないが、その根底にある思想を理解することで、新たな気づきや刺激があるはずだ。第1回は自己紹介を兼ねて、規模拡大の秘訣や資産300億円を目指す理由について語ってもらおう。
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※ここからは玉川氏が執筆した記事です
玉川陽介は資産300億円を目指す
資産300億円――。誰の目から見ても、個人で保有するには大きな金額だ。人によっては現実味に欠ける金額に見えるかもしれない。しかし、筆者はそれを本気で目指している。
現在の保有資産は120億程度であり、150億まではある程度道筋が見えている状況だ。筆者はいかにして100億まで積み上げてきたのか。300億まで増やすと、どのような変化が生まれるのか。本稿では、不動産会社、金融機関との関係を含めて説明したい。これから不動産投資をはじめようとする人たちの参考になれば幸いだ。
筆者が不動産投資をはじめたのは2012年のことだった。「サラリーマン大家」の黎明期で、不動産投資はまだ一般には広く認知されていなかった時代だ。筆者が不動産投資をはじめた動機は、大家となってFIREしたかったからではなく、なりわいとして投資していた外国債券の利回りが得られなくなったので、代替資産を探していたためだ。
はじめは不動産投資がよく分からず、「習うより慣れろ」の考え方で、知識も経験もなしに一棟マンションを買った。その資金の出入りをExcelに並べてみるとお金の流れが分かり、不動産投資の収益構造が理解できた。(収益計算の詳細は拙著『Excelでできる 不動産投資「収益計算」のすべて』にまとめて公開している)
規模拡大の秘訣は「収益構造を理解して同じパターンを繰り返す」こと
収益構造を理解して確信したのは、「きちんと計算すれば東京の不動産投資で負ける蓋然性は非常に低い」ということだった。むしろ、日本経済の転覆といえる状況でも訪れない限り、負けるシナリオを考えることが難しいくらいの投資であると思う。
このような収益構造の理解は、単なるExcel上のシミュレーションに過ぎないが、自分が行なっている投資の最初から最後までを完全に理解し、「どこまでストレスをかけると倒れるか」を把握していることは重要だ。なぜならば、この先、「同じパターンを繰り返して勝てるのか否か」を自分の中で理解するために必要な計算だからだ。
じつは、筆者は不動産について何でも知っているわけではなく、狭い知識しかない。自らの計算を頼りに、ひとつの確立された投資モデルを30棟ほど繰り返しているだけだ。それゆえ、買う物件タイプは毎回必ず同じで、融資もパターン化されている。具体的にいえば、
・賃貸が満室になる
・自己資金を極力入れない
・表面利回りと借入金利の差額が5%以上
この3つの条件を満たすものに限定して買い進めている。この繰り返しは、「あまり面白くない」以外に、悪いことは少ないはずだ。同じパターンを繰り返すのは、株式投資、ポーカー、事業などすべての勝負の必勝法ともいえるだろう。
物件の買い増しは、コンビニの追加出店に似ている。出店する前から高精度に損益が予測でき、実際にその通りに着地する。そこまで来ればビジネスモデルは確立済みといえる。
筆者は、このような自らの収益計算モデルが正しいことに賭けている。もちろん結果は300億にたどり着いてはじめて分かることだが、既存投資モデルの単純な繰り返しでまだ規模を拡大できると思っている。これから投資を始める人は、自分の得意パターンを確立して、その繰り返しができることを最初の目標とすると良いだろう。
規模を増やして、応援してくれる人を増やす
応援してくれる人の定義は色々あるが、ここでは金融機関、不動産業者などの関係者を指している。じつは、筆者が資産300億を目指す理由は、このよくある顔ぶれに加えて、機関投資家、証券取引所、メガバンクなど資本市場のメンバーを加えたいからだ。資本市場は小ロットでは相手をしてくれないため、大ロットで臨む必要がある。
不動産業者に対しては、資産100億でも十分な規模であることが分かっている。大手業者からも相手にしてもらえる。保有規模を説明すれば「見込みのある客」となり、優良物件を優先的に案内してもらえることも多い。そうなれば、物件の仕入れには困らない。実際、購入したいと感じる物件を反復継続的に案内してもらえる体制はできている。
しかし、金融機関は資産100億があっても付いてきてくれない。地元の信用金庫に決算資料を送り、丁寧にプレゼンしたうえで「100万円だけでも貸してください」と頼んでも、多くはお断りされるのが現実だ。金融機関の仕組みを知らない人は驚くだろう。
筆者もいまだに金融機関の審査プロセスは理解に苦しむ点が多数だが、現実的には、個人大家はその程度の信用力なのだ。もはや金融機関は、人や財務を個別に見て、見込みある先に貸すのではなく、彼らのシステム上、「貸していい相手」に当てはまる先に機械的に貸すものなのではないかと感じるくらいだ。
このような融資のシステム化は、金融庁の不動産融資に対する規制でもある。バブル期に不動産へ過剰な融資をした金融機関に再び間違いを起こさせないためのルールだ。そのため、金融機関は、個人的な不動産投資には慎重にならざるを得ない。
ここで筆者が考えたのは、「筆者の個人的な不動産投資に対して融資をしてほしい」というアプローチではなく、「これだけの大きな不動産の塊であるので、もはや筆者の保有資産というより地域経済の住居インフラである。それをよりよく維持するために地域金融機関に協力を仰ぎたい」という自らの立ち位置の転換だ。そのような説明に説得力が出るのが300億だと思っている。保有資産300億は上場J-REITの最低ロットだからだ。
この規模になれば、シンジケートローン、社債発行、第三者割当増資、ストラクチャード(複雑な条件付き融資)など、一般の大家業とは別メニューでの融資がアンロックされ、利用できるようになろう。資金調達の幅が広がり、自由度が増すはずだ。
大きな個人投資家から小さな機関投資家へ
個人経営から脱却して地域社会のインフラを担う会社を名乗るためには、いくつもの大きな仕事がある。監査法人による監査、内部統制、BCP(事業継続計画)、組織的な運営など、大企業がするようなことをやっていかなければならない。これらは一朝一夕にできることではないが、規模拡大とともに堅固な組織を構築していく必要がある。
また、これだけ大規模な資産の運用に対しては社会的な責任も求められる。法令遵守はもちろん、昭和バブル崩壊とともに管理が放棄された築古物件のメンテナンス、令和の時代でも住み続けられるためにする再生など、インフラ整備業として、実際に地域社会の役に立つ必要があるだろう。不動産業は、規模が大きく利益が出ているだけでは信頼を得ることはできない。まっとうな経営体制であることが重要だ。
これから不動産投資をはじめようとする人には、だいぶ先の話に聞こえるかもしれないが、はじめに「どこに向けて舵を切るか」を決めておくことは重要だ。それによって自ずと事業展開も見せ方も変わってくる。筆者は時と場合により、不動産業、個人投資家、大家業の看板を使い分けてきたが、現在は個人事業ではなく、「地域社会とのリンク」と「法人組織での運用」を前面に押し出している。
一定規模を超えて「小さな機関投資家」となった際には、再び個人投資家の目線に戻りたい。個人大家が投資するような物件を取得し、運営体制を強化し、地域金融機関と連携することで、大ファンドとは一線を画する運用主体として、不動産の塊を運用していきたいと考えている。
これから不動産投資をはじめようとする人たちも、最終的な形態として、ファンドや法人での運用も考えてみてはいかがだろうか。個人の大家業にとどまるよりも幅が広がって面白みが出てくるかもしれない。